第404話、かつての仲間のために2
「――で、オレのところに来たか」
ソウヤは、カマルとダルを一瞥した。
アイテムボックスハウスの一角。練習場で指導を受けている新人たちを見守る。そんなリーダーの背中に、治癒魔術師は言った。
「魔王軍の残党を追うのも大事ですが、苦境の友を助けるのも、人の道ではありませんか?」
「そう言われると、オレもそれに応えたくなるんだよな」
勇者だから。困っている人に対してお節介なのはソウヤの性分だ。
「オレも、コレルがあのままでいられるのは仲間としてはつらい」
レーラもちょくちょくコレルに会いにいっているが、治癒魔法で怪我は治せても、絶望している人間の心を治癒する魔法は存在しない。
「まあ、いいんじゃないか。魔王軍のアジトの場所だって、候補地すべてに同時に行けるわけじゃないし。情報通りかどうかもまだ定かじゃない。それに――」
ソウヤは振り返った。
「魔王を討伐する旅で訪れた場所に行くのも悪くない。もしかしたら、そこに魔王軍がまた拠点を作っているかもしれない」
コレルや他の仲間たちが瀕死の傷を負い、アイテムボックスに収容されたその場所は――
「ディロス砦か」
カマルは顎に手を当てた。正確にはその砦へ行く道中。そこで敵の待ち伏せを受けたのだ。
「あの辺りは魔王軍が撤退した後も人が戻らず、過疎を通り越してほぼ無人になっているという。盗賊や、あるいは魔王軍が再び拠点化していても気づかない可能性がある」
「ならちょうどいい。そういう怪しいところに行って確かめるのもオレらの仕事だ」
ソウヤは口元を笑みの形に変えた。
「様子を見に行こう。……あ」
「どうしました?」
ソウヤが何かに気づいたような反応をしたので、ダルが問う。
「確認しに行くのはいいけど肝心のコレルは大丈夫か? あいつ、外に出られるのか?」
「これから話をするところです」
「そうかい。心を病んでいるアイツを連れ出すのも大変かもしれないが、そっちは任せても大丈夫か?」
「ええ。お任せを」
ダルは請け負った。カマルはと言えば複雑な顔になる。……コレルを外に出しても、結局は『現実』を思い知らせるだけになると思うと、気が進まなかったのだ。
・ ・ ・
「クレル……ウメルカ……アルメア……」
無感情に呪文のように唱えているのは、かつてコレルが従えていた魔獣の名前。
そんな魔獣使いの青年に、ダルは辛抱強く言った。
「確かめに行きましょう! 彼らを探すんですよ!」
「……あいつらが、生きているかもしれない……?」
「そうです! 確かめましょう!」
断言するようなダル。ベッドの上でうなだれているコレル。それをソウヤとカマル、そしてカーシュが見守る。
「……無理だよ、先生。あれから十年も経っているんだろう? あいつらが生きているはずはない」
――普通はそう考えるよなぁ。
ソウヤは頭をかいた。ダルは腰に手を当てた。
「いつもは、十年というワードにまるで無関心のくせに、こういう時だけ口にするんですね」
ぶっちゃけ頭にきます、とダルが珍しく怒ったような素振りを見せる。ただソウヤたち、かつての仲間たちは、それがダルのポーズであることを知っている。
「コレル君、どうして生きていないと言えるんです? あなたは彼らの最期を見たんですか?」
「……」
「あなたの家族はとても強かったと私は記憶しています。魔王軍に簡単にやられるような子たちではなかった。生き残っているかもしれない」
「強かった。でも、死んだんだ! オレの目の前で!」
従えていた魔獣が倒れるのをコレルは見ている。全員ではない。だが死んだ魔獣がいたのも事実だ。そこから聞いた話も含めて推測すれば、たとえ見ていなくても全滅したと想像するのは難しくない。
「えっと、あなたが意識を失うまで生存していたのは、クレルに――」
ダルが視線を向けてきた。
「ウメルカ」
カマルが言えば、カーシュも「アルメア」と答えた。
「その三体は、病気や怪我などなかったとしたら、この十年で寿命を迎えるものはいますか?」
「……」
何が言いたい、といいたげな視線をコレルは、ダルに向けた。
「ほら、十年以内に寿命を迎える子はいなかった。ならば、あの戦いでもうまく逃げおおせた子がいてもおかしくない」
「あるいは――」
カーシュが口を開いた。
「当時、負傷し隠れたまま、難を逃れることができた魔獣がいたかも」
「怪我をしていたなら合流できなかったとしても道理だ。傷が癒えるまで潜伏し、そのまま生き延びている可能性もある」
カマルの言葉に、コレルは目を向けてきた。本当にそうなのか、と言いたげに。
「行って確かめるしかないだろ」
ソウヤはきっぱりと言った。
「もしかしたら、クレルにウメルカ、アルメアで生き残った奴が、子供とか作っていたりしてな」
「子供……」
一瞬、コレルの目に光が宿った。それはほんのわずかな希望か。
「とりあえず、オレらだけでは見分けがつかねえかもしれない。コレル、お前も手伝え」
「――何やら面白そうでござるな、某も仲間に入れてくれ」
降って湧いたように、野太い男の声がした。最近聞かなかった、しかし確かに聞き覚えのある声に、ソウヤと仲間たちは振り返った。
緑色の肌のリザードマンが立っていた。チロチロと舌を見せるリザードマン。
「フラッド!」
「目覚めたのか!?」
意識不明だった最後の勇者パーティー時代の仲間――リザードマンのフラッドは口を開いた。
「とりあえず、腹が減ったでござるよ。まだ状況がよくわからないので、どなたか説明してくださると助かる」
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