第390話、フルカ村にいた連中とは
偵察の結果、潜んでいたのは人間であることがわかった。
「盗賊か」
カエデが知らせるところによれば、村で武装している連中は待ち伏せ部隊。村の北の森に入ってすぐに洞穴のアジトがあり、そこを盗賊たちは本拠地としているようだ。
「魔王軍じゃなかったか」
ソウヤがそう口に出せば、報告を聞いていた新人たちの間に、『なあんだ』と苦笑ともため息ともつかない雰囲気が流れた。
「とはいえ、本格的なアジトを持っている盗賊連中は見過ごせない」
ソウヤは森から見える空を仰いだ。じきに夜が来る。
「ここを拠点に街道の通行人を襲うかもしれない。すでに領主の調査隊がやられているんだ。早々に排除するのが、この辺りの治安に繋がる」
「盗賊狩りは、銀の翼商会の業務だものね」
ミストが待ってましたとばかりに笑みを浮かべた。
街道の安全を守る。そのついでに、盗賊から売れそうな装備などを仕入れる。
――どっちが悪党かわからないな、こりゃ。
冒険者グループ『白銀の翼』でもあるソウヤたちは、盗賊退治もまた仕事のうちだった。
「さて、どう攻めるかだな……」
カエデのシェイプシフターが探ってきたところ、村に十人ほど。アジトに二、三十人はいるらしい。
「正面から粉砕する!」
ミストがきっぱりと言った。ソウヤは肩をすくめる。
「ただ戦いたいだけだろ?」
「否定はしないわ。でも、少数で現れたら、敵は集まってくると思うのよ」
ミストは人差し指をクルクルと回した。
「下手にひとつずつ潰していくと、逃げられるかもだけど、ちょっと騒ぎを起こせばゾロゾロと集まってくるわ。そこを包囲して逃げられないようにして、一網打尽」
「名案だ」
ジンは頷いた。
「最初は魔法で各個眠らせたり、麻痺させて着実にやっていこうかと思ったが、どこかでヘマをすればどうせ敵は集まってくるし、変に忍び足で神経を使わずに済むから、ミスト嬢の案がシンプルでいい」
「じゃあこうしよう……」
村の中央に数人が乗り込み、敵を引きつける。アジトからもゾロソロとやってきたところで、こちらは周りを取り囲み、その輪を小さくしながら盗賊を排除する。
「アジト内にも敵はいるだろうから、ここも押さえないといけない」
「魔術師に睡眠の魔法でも使わせようか?」
ジンが言えば、ソフィアが口を開いた。
「それなら夜遅くまで待つ? いっそ皆寝静まった頃のほうが、簡単じゃない?」
「いやよ。待つのも面倒だわ」
ミストは、わがまま娘みたいなことを言った。カエデが、そっと手を上げた。ソウヤは指名した。
「何だ、カエデ?」
「夜遅くに動くのは、どうかと思います。夜の森となると、包囲していても気づかずに敵を逃がしてしまう可能性も高くなります」
カエデが、ちら、と待機している他のメンバーを眺めた。
「カリュプスにいらっしゃった人たちは夜の闇でも大丈夫とは思うのですが、それ以外の方は、夜間での森林戦闘を任せても大丈夫でしょうか?」
ガルやオダシューらは闇の中でも敵を逃がさないだろう。だが他のメンバーについては、確かに不安はある。
「カリュプスメンバーを分散配置して見張らせるか」
「それで完全とは言えないだろう」
ジンは少し考えた。
「私がこの周りに、通行不可の結界を展開しよう。それなら敵も結界の外に逃げられない」
「できるのか、爺さん」
「もちろんだ。ただし、結界に集中するから、盗賊狩りのほうは手伝えないぞ」
「こっちは人数がいるから大丈夫だ」
ソウヤは口元をゆるめた。
「とにかく逃がさないことが重要だからな」
「ゲリラ狩りの基本だな」
ジンは顎髭を撫でた。
「敵のアジトを攻める時は、包囲して殲滅。分散して逃げられるのが一番よろしくない」
「決まりね」
ミストはちら、と茂みから頭を出して、村を睨んだ。
「まだ気づかれていないうちに、さっさと包囲してしまいましょう!」
・ ・ ・
夜の帳が下りた。廃村の中、廃墟の建物の床にわずかながら光のようなものが見えた。
村に潜伏している組が、自分たちの待機場所に火をつけたのだ。夜は冷えるから暖をとる意味も兼ねている。
民家の床を掘って、そこに待機場を作っているらしく、光が漏れるのを最小にしている。そのため村の出入り口からやってきた人間には、この光が見えないという工夫がされている。
なお、それ以外の方向からは漏れているのが見えてしまう模様。
そんなフルカ村に、ソウヤとミストは足を踏み入れた。
「なあ、ミスト。これから盗賊と戦うっていうのに、その顔どうにかならね?」
「あら、どんな顔をしているのかしら?」
からかうようにミストは言った。
「とても上機嫌に見える」
「ええ、ワタシは今とても機嫌がいいわ」
「おー、怖い。戦闘狂も大概だぞ」
「ドラゴンと言うのは、得てして戦闘狂なのよ。自分より弱い奴をプチッと潰すのがいいのよ」
「だからドラゴンって人間に対してやたら好戦的なのか」
アリを見たら、とりあえず潰そう的な精神構造だろうか。――オレは、アリさんを問答無用で潰したりはしないぜ。
「……動いたわ」
ミストが竜爪槍を握りこんだ。
村の中からドタドタと足音がした。村に入った侵入者を迎え撃つ魂胆だろう。
「まずは第一陣だ」
斧や槍、ナイフで武装した一団が、二人を囲むように左右から現れる。
「ミスト、勢い余って全滅させるなよ。アジトから残りを引っ張り出さないといけないんだから」
「ええ、簡単に終わったらつまらないものね。じゃんじゃん、こっちへ来てくれないとね!」
「こんな夜遅くにご到着かい?」
盗賊のひとりが口を開いた。
「おれたちの縄張りに飛び込んだのが運の尽きってもんだぜ。ここで死ぬか、金目のものを出すか選ばせてやるぜ」
「残念。もうひとつ忘れているわ」
ミストの目が獰猛な光を発した。
「あなたたちが死ぬか、よ!」
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