第389話、廃村の噂


 グラ村に到着。以前、魔王軍の残党に襲われた村も、一見すると元通りになっているように見える。


 ここでも行商活動。銀の翼商会と聞いて、魔法大会がどうのという人もいて、この辺りにも名前が聞こえていたのだと実感する。


 さて、魔王軍の残党絡みで何か情報はないかと聞いてみれば――


「フルカ村ってあっただろ? つい最近、謎の奇病とか魔族にやられちまったとかいう……」

「ああ」


 魔王軍の残党に襲われ、滅ぼされてしまった村だ。魔王を復活させるためと思われる魂収集をしていたやつだ。


 ソウヤが訪れた時はすでにやられていて、苦い記憶である。


「あそこを調査に行った領主様の部下が行方不明になったって話があってな」



 道中、魔獣にでも襲われたのだろうか。村人は続けた。


「それで改めて領主様が調査隊を送ったんだ。魔族が原因で滅んだかもしれないって話もあったから完全武装でな」

「……何か見つかったのかい?」

「いいや、そいつらも帰ってこなかった。で、先日、この村に領主様の遣いがきて、ここ最近フルカ村に立ち寄った者はいるかって聞いて回っていたよ。結論から言うと、誰も行ってなかったんだけどな」

「……」

「それで新たな情報がわかるまで、フルカ村には近づかないように、って言われた」

「へえ、そうなのか」


 ソウヤは、村で聞いた話を仲間たちに持ち帰る。


 魔獣狩りに出た新人たちを見送ったミストやジンたちと、村の入り口付近で相談する。


「フルカ村は廃墟のはずだ」


 人がいなくなったのだから、新たな入植者でもいなければ無人のはずである。


 ミストが口を開いた。


「行った人間が帰ってこないってことは、そこに何かあるということよね」

「盗賊か、あるいは魔獣が住み着いたか」


 ジンは顎髭を撫でた。


「領主の部隊が行ってわからないというのでは、並大抵のものではないだろう。魔族かもしれない」

「あの村は廃墟だ」


 ソウヤは繰り返した。


「まさか、秘密基地でも作ったか?」

「調査の必要はあると思うね」


 ジンは言った。


「人が寄り付かなくなった場所というのは秘密のアジトに最適だ」

「まあ、そうなんだけどさ。村があった場所って、誰か立ち寄りそうで隠れ家には向かない気がするんだが」


 もちろん、これはソウヤの個人の感想だ。


「村に出入りしていた商人とか、出稼ぎに出てた男が故郷に戻ってくる、みたいな」

「どうかな。盗賊なら、案外アジトに向いているかもしれない。時々やってくる人間を待ち伏せればいいわけだからな」


 飛んで火に入る夏の虫、というやつだ。


「辺境には、集落の人間が全員盗賊だった、という話もある」

「盗賊の村か……」


 怖い怖い。――ソウヤは首を振った。銀の翼商会もその手の田舎に立ち寄ることが多いから、気をつけないといけない。


「今回もそれかもしれないな」

「行ってみればわかるわよ」


 ミストが鼻をならす。


「いつ行く? ワタシも行くわよ」

「ひと暴れしたそうな顔をしてるもんな」


 苦笑するソウヤ。魔族の動きが活発化しているらしいから、疑わしい場所はすぐに探りを入れたい。


「領主の調査隊がどのような規模かはわからないが――」


 老魔術師は言った。


「消息不明の原因がわかっていない以上、油断はできない」

「下手に少人数で行ったら、調査隊同様、行方不明になるかもな。最初から全力で行くくらいでいこう」


 次の目的地が決まった。


 さて、全力で行くつもりと言ったが、新人たちはどうしようかと、ソウヤは思った。


 戦闘できるメンツに素人はいないので、そこそこ戦えるのはわかる。だが連携も含めて、まだまだ把握しきれていない。


 ただ、エイブルの町ダンジョンでチーム分けしての魔獣狩りをやっているので、ぶっつけ本番ではないのが救いか。


 ――まあ、それは村の様子と状況にもよるんだけどな。


 となれば、まずは偵察が必要だ。



  ・  ・  ・



 かつては人口五十人程度の小さな集落だったフルカ村。森に囲まれたその村は、少し見ないうちに庭の草が伸び、荒れていた。


 人がいなくなるというのは、こういうことか――と、廃墟の村を見て思うソウヤである。


 東側の森に潜伏して、村の様子を眺める。茂みに隠れて、ソウヤは使い魔を使っているソフィアを見た。


「どうだ?」

「村に動く気配はなし」


 鳥型使い魔を飛ばして、上空から偵察していたソフィアである。


「……やっぱり反応はないわ」

「ところがどっこい」


 ミストが俺の隣に滑り込んだ。


「気配はしているのよね。村に何人かいるわ」

「建物の中?」

「たぶんね」


 ミストは頭を上げた。


「あと村の北側の森にも気配。……むしろあっちのほうが多い」

「村はカモフラージュで、近くにアジトがあるパターンかな」


 ソウヤは目をこらしたが、村に動くものは見えなかった。


「カエデ」


 呼ぶと、シノビ装束の少女が現れた。


「シェイプシフターを送れるか?」

「できます」

「頼む。正体を突き止めたい」


 盗賊か、それとも魔族か。少なくとも村に隠れている連中だから、警戒はすべきだろう。


 カエデは自身の影から黒い小さな人型を作ると、村へと走らせた。その数、三体。


「中々、便利よね。そのシェイプシフターって」


 ミストが相好を崩した。


 さて、はたして何が潜んでいるのだろうか。

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