第378話、第三の志願グループ
魔法大会でのセイジとソフィアの活躍は、それなりに志願者を集めた。皆、二人が使う魔法や技に興味津々で、それらを学びたいと言う。
ソフィアの派手な魔法に目が行きがちだが、志願してくる者たちの何人かはセイジの戦い方に関心を抱いていた。
いわゆる、魔法カードを使った戦い方である。志願した冒険者系の、とりわけ戦士系のお目当てはそちらだった。
この枠は指導がカリュプス勢やカーシュ、いまだとメリンダも入れていいかもしれない。なので、ジンの魔術師指導枠をさほど気にしなくてもいい。
――まあ、だからと言って、全員入れられないけど。
さらにプロフィールを眺めていると、それとも違う目的で来たグループの存在が出てくる。
商人やその見習いである。
銀の翼商会という行商に関心を抱いた商人が、修行や勉強のために、将来有望な従業員、あるいは後継者候補を送り込んできたのだ。
「銀の翼商会は、他の行商とは違いますからね」
そう言ったのはエルフの治癒術士ダルである。
「その製品は、他ではお目にかかれないものも少なくありません」
「飛空艇も持っているしな」
そう言ったのはライヤーである。
「浮遊バイクもじきに販売が開始されるんだろ?」
「そうだな。そうなれば流通のスピードが大きく変わるだろう」
銀の翼商会のスピードという利点も、いくらか魅力を減じるだろう。
「いやいや、飛空艇のスピードと量にはかなわねえさ。そもそも、浮遊バイクが一般で販売されたからって、すぐに商売に利用されるとも限らねえ」
使いこなせるかは話は別である。バイクがあっても問題なく運用できるかは、しばらく試行錯誤が必要になるだろう。
バッサンの町をはじめとする現地の人たちの活躍に期待しよう。
「それはそれとして、まさかうちの商会が、他の商人から修業先に選ばれるようになるとはなぁ」
職人の弟子が別の工房に修行に行く、というのは、地球では古くからあったことと聞く。商人にもそういうものがあるのか、とソウヤは思った。
「普通にスパイされてるんじゃね?」
ライヤーは笑った。ソウヤは眉をひそめる。
「ライバル企業の工作員ってか?」
「王都の商業ギルドにも、銀の翼商会って注目されていたんでしょう?」
ダルの言葉に、ソウヤは王都商業ギルドのマスターを思い出す。
「うちは割と有名になってたな、そういえば」
しかし商売ド素人の元勇者が始めた商会である。注目されて人が送られてくるなど、かつては想像だにできなかった。
「出世したな」
「注目はされているが、余所じゃ、おれらの真似はできねぇだろう」
ライヤーがダルを見れば、エルフの治癒術士は同意した。
「ソウヤさんの持つアイテムボックスは他とは一線を画しますからね」
「うん、まあそうなんだけどさ」
ソウヤは頭を掻く。
「でも工作員とか潜り込まれるのは嫌だなぁ」
「誰だって嫌さ」
ライヤーは顔をしかめた。
「言われてみれば、うちの飛空艇だってエンジンを含めて特注品やレアなパーツを使ってる。その情報だけでも余所に流せば金になるだろうな。……いっそ全員、落とすか。商人関係は」
「スパイは何も商人系だけじゃありませんよ」
ダルは指を旗のように振った。
「冒険者や魔術師だって可能性はある。悪い言い方をすれば弟子入りだって、その人の秘伝の魔術を盗むため、という見方もできます」
「マジで悪い言い方だな、それ」
ソウヤは呆れたが否定はできなかった。とことん突き詰めれば、ダルの言っていることも間違いではない。
「何にせよだ」
ライヤーはソウヤに視線をやった。
「採用に関してはボスがここのトップなんだ。必要とあれば、採用しないって決めてしまってもいいと思うぜ」
「……」
それができてしまうのがトップたる所以か。必要なら採用する。いらなければ落とす。当たり前のことなのだ。
押し黙るソウヤ。ダルは真剣な顔で言った。
「せっかく来てくれたのだから……とか、そういうのはナシですよ。雇うとなれば、給料だって払うことになるんですから。必要のない人間を採用することもありません」
「そうだな」
ソウヤは小さく首肯した。
「適性を見定めよう」
最初はティーガーマスケやソフィアの弟子入り志願者の数を絞るための面接だったはずなのに、気づけば銀の翼商会を巻き込んだ採用面接になっていた。
魔王軍の残党が再度の戦争を開始した時に備え、優秀な人材を指導するという王国からの打診のついでであったが……。
気づけばばっちり巻き込まれてしまっている。
「でも、そうだな……」
ソウヤは思い直した。
「商人系の弟子たちも入れてもいいかもしれない」
「理由を聞いても?」
渋っていたソウヤが急に方針を変えたのだ。ダルの質問にソウヤは答える。
「戦闘になった時に、負傷者の移動や物資の輸送、避難とか雑用とは言わないが、そういうことをやってくれる人材って必要だと思う」
完全に魔族との戦いを想定しての発言である。
「実際、戦場でも軍の後ろに商人の一団がくっついて補給や商売をやるわけなんだ。それを考えると、戦える人材以外もいたほうがいい」
銀の翼商会は現在、全員が戦闘要員である。サポートメインだったセイジは、いまや前線を張れる戦力になった。聖女であるレーラや治癒術士ダルも回復要員として支援が主だが、必要であれば前線で戦える。
裏方人材が不足しているのである!
「やべぇ、今の今まで失念していたとは……」
自己嫌悪に陥る。銀の翼商会のリーダーが聞いて呆れる。
ライヤーが苦笑した。
「ボスは勇者で最前線を突っ走る人だからな。今後、魔族との戦闘が増えるだろうってんで、戦闘ばかりに注意が向いちまったのも仕方ねえよ」
「それで、どういう人材をお求めになるんですか?」
ダルが聞けば、ソウヤは深く考えることなく、浮かんだそれを口にした。
「料理ができる奴!」
先日の魔法大会で、商会メンバーに売り子をやってもらったが、そこでの軽食を作ったのはソウヤのみだった。あれだけ死ぬほど働いたのに、いままで考えもしなかったのが自分でもおかしい。
せっかく採用するなら料理ができる人材が欲しい。ソウヤが前線で戦っている間に、料理を作って休憩中に提供できる人間だ。
腹が減っては戦はできぬ。だからこれはとても大事な事であった。
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