第377話、面接した手応え


 銀の翼商会の採用面接会は進む。


 提出されたプロフィールを見ながら志願者と面接である。


「――志望理由は『強くなること』」


 ソウヤが読み上げると、その志願者――ティス・リゼルはコクリとうなずいた。


「魔法大会での君の活躍は拝見した。うちのセイジと互角以上に立ち回っていた」

「ティーガーマスケは弱かったが、強かった」


 魔法格闘士の少女は奇妙な言い回しをした。


「ここにくれば、その理由がわかると思った」


 ――セイジが即席の戦士だってバレたのかもな……。


 プロフィールによれば、ティスは幼少の頃から実家の魔法格闘士道場で修行に明け暮れたとあった。いうなればベテランの武道家だろう。


 その彼女から見て、セイジの動きはまだまだ熟練のそれとは言い難いということなのだろうと思う。


 面白い子だ。


「あと、そこに書いてないが――」


 ティスが淡々と言った。


「わたしは、ティーガーマスケと結婚するためにここにきた」


 ガタン、と思わず椅子から落ちそうになった。ミストが笑い出した。


「あははっ、いいわね。この子素直だわ」

「えぇ……」


 ソウヤは眉をひそめた。


「ああ、ティス。セイジは、ソフィアに告白したのは知っているよな?」

「知ってる」

「それでも、結婚すると?」

「重婚は認められている。問題ない」


 きっぱりとティスは言った。


 ――そうなの?


 ソウヤはこの世界、いやこの国の婚姻制度については無学である。元の世界の日本とは違うとはわかっていても、同じような感覚でいるから戸惑うのだ。


 ――まあいいや、次。


 気を取り直して先に進む。


「『友好的なドラゴンがいた場合どうするか』――会ってみたいと答えているな」

「わたしはドラゴンに会ったことがない」


 正直に言うティス。ソウヤは問うた。


「会ったとして、それで友好的だったなら、どうする?」

「強いのなら戦いたいが、ドラゴンとはいえ、友好的なら問答無用で殴り掛かるのは礼を失している。様子を見る、と思う」


 かなり真面目に、考えながらティスは答えた。ミストが口を開く。


「お友達になりましょう、って言ってきたら?」

「友達になる」


 ビクリとしたようにティスは背筋を伸ばした。……ひょっとして彼女は、ミストが人間じゃないことを本能的にでも察したのか。


 ――なかなか面白そうな子だなぁ。オレ個人としては『採用』に入れてもいいな。


 なお、今回の面接にはミストとジンも採用か否か審査しているので、ソウヤひとりの好き嫌いで決まることはない。



  ・  ・  ・



 その後も志願者を相手に面接が続いた。想像はしていたが、長引いたのでお昼休憩を挟む。


 ランチをとりながらソウヤはミストとジンとこれまでの面接を振り返る。なお、席にはレーラとリアハ姉妹、そしてソフィアも同席した。


「どんな調子ですか?」


 レーラの質問に、ソウヤはスープにパンを浸しながら答えた。


「魔法大会出場者が多かったなーって印象」


 たとえば、ティーガーマスケと対戦した早撃ちのフルグル。


「ただ、彼の場合は早々に不採用……というか失格だったけど」

「何で?」


 ソフィアが興味津々な顔になった。ソウヤは目を回してみせる。


「ティーガーマスケと早撃ち勝負がしたい、というだけの理由で来たからさ」


 弟子入りでも商会にでも入るわけでもないのがわかったので、早々にお引き取り願った。


「時々こういう馬鹿な人間がいるんだ」


 ジンは苦笑していた。


「再戦のために手段を選ばないってやつぅ?」


 ミストは楽しそうだった。


「あれで働く気があったら採用してもよかったかもね」

「ミストさん的には、オーケーだったわけだ」

「わかりやすいからね」

「なるほどね」


 ソウヤは小さく頷いた。ただ彼女の口ぶりからすれば、銀の翼商会の一員として働く気がなかったから、フルグルを採用しなかったようだが。


「ミスト師匠、見せてもらってもいい?」


 ソフィアが言えば、リアハが眉をひそめた。


「食事中に行儀が悪いですよ、ソフィア」

「じゃあ、ソウヤはどうなの?」


 むっ、とソウヤは志願者一覧用紙を見ながらパンをかじっていたので、ビクリとした。


 じっとリアハがソウヤを見つめる。――お説教とか、来るか?


「……ダメですよ、ソウヤさん」


 上目遣いで、何故か恥ずかしげに優しく注意するリアハ。


「あ、はい」


 ソウヤは用紙をしまった。


「ごちそうさま」


 ミストは言うとソフィアに用紙を渡した。どれどれ、と眺めるソフィアに、リアハが批判げな目を向ける。


 ごちそうさまでした、と食事を終えたレーラが、ソウヤに言った。


「私にも見せてもらっていいですか?」

「どうぞ」


 受け取ったレーラはクスリと微笑した。


「なんだ?」

「あ、ごめんなさい。ソウヤさん、独特な字を書くなぁって」

「下手で悪かったな」


 独特な字なんて遠回しな表現だと思う。こちらの字を書くのは――と言いかけ、では元の世界では字を綺麗に書けたかと言われると、そうでもないのを思い出した。


「……確かに、大会で見かけた名前が多いわね」


 ソフィアは言った。レーラも頷く。


「そうですね。……この人、ベスト8の方じゃないですか? ヴィオレットさん」

「闇魔術師ね……。こっちは、セイジと戦ったちんちくりん」


 ティス・リゼルのことだろう。ソウヤはジンを見た。


「爺さん的にはどうだ? お眼鏡にかなう奴はいたかい?」

「まあ、何人か」


 老魔術師は控えめに言った。


「ただ、あまり多く取れない。国から魔術師が何人か来るからね」


 そうだった。王国の魔術団からも合流予定だったのだ。


 こりゃ、もう少し厳しめにいかないといけないかな――ソウヤは思った。

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