第379話、不採用者と試験
志願者との面接が終わり、誰を採用するかの会議が銀の翼商会の幹部会で話し合われた。
結果、魔術師組5人。冒険者5人。商人系3人が仮採用となった。
仮採用というのは、研修期間みたいなものだ。銀の翼商会で行動するにあたり、必要な知識や技術の教育が行われる。
もちろんこれには魔法を教わりにきた者には魔法を、技や戦闘技術ならそれら技術の指導も含まれる。
ただ実際にやってみて、どうも駄目そう、とか相性が悪いなどを本人が自覚した場合、辞めても特にペナルティーはないようになっている。
――うちはブラック企業ではないからね。
そうありたいとソウヤは思っているが、実際のところはどうなのだろうと思うことはある。
自覚がないことは世の中ごまんとあるのだ。
晴れて採用となった者はさっそく手続きに掛かったが、ここで不採用だが諦めきれない者が食い下がってきた。
「あんな紙と話だけで何がわかるというんだ!?」
採用されなかったことで怒る者もいた。
「試験をやるって話はどうなったんだ? 戦いとなればオレは――」
「うん、試験やるよ」
ソウヤは平然とした顔で、詰めかけてきている不採用者たちに告げた。
「面接段階で落ちたけど、まだやる気のある奴は残って試験を受けることができるぞ。これで採点官に認められたら採用のチャンスはある」
そこでソウヤは意地の悪い顔になった。
「お前らも腕前を見せられずにくすぶっているだろう。採点官たちが、ぜひにその力を見たがっている。どうだ? やるか?」
「もちろん!」
「やるとも!」
「ソウヤ殿、我が武器の冴え、見届けられよ!」
血の気の多い冒険者や魔術師たちが意気込む。
一方で商人系の人材で不採用の者たちは、すでに立ち去りつつある。このあたりの考え方の違いは興味深くある。
さて、敗者復活グループたちだが、試験の場にいたのは――
「ようこそー!」
槍を携えた漆黒の戦乙女――ミストが満面の笑みを浮かべて立っていた。
そして灰色髪の美女クラウドドラゴンが無表情に、虎マスクから水色ツインテールが覗いているアクアドラゴンが「ククク」と狂喜じみた声を出して待ち構えている。
「さあ、ワタシたちとお友達になれた者は合格よ」
槍で自身の肩をポンポンと叩きながらミストは告げた。試験参加者たちは意味が理解できなかったようで顔を見合わせた。
無理もない、と見守るソウヤは思った。
模擬戦で勝ったら、とかだったらわかりやすいのだが、ミストはそうは言わなかった。
プロフィールにて書かせた『友好的なドラゴンに会ったら』という質問と掛かっているなどおそらく気づくまい。
「なるほど、腕試しだな!」
そう判断したらしい、大剣使いの冒険者が前に出た。
「武器はどうすればいい? あいにくと手持ちは刃があって、やりあえば怪我では済まないかもしれないが」
「フフン、ワタシたちに傷をつけられるだけでも大したものよ。やれるものならやってみなさい」
ミストは自信たっぷりである。
――そりゃそうだ。ドラゴンは半端な傷なんてすぐ再生しちまうからな。
人間の姿でもそれは同じだ。
「安心しなさい。殺しはしないわ。怪我してもうちの治癒術士は優秀よ」
「あー、ミストさん、お手柔らかにお願いしまーす!」
エルフの治癒術士、ダルが待機している。
クラウドドラゴンは腕を組んで、淡々と言った。
「アクア、加減を忘れないで」
「クラウドぉ、ちょーっと下等な人間に礼儀ってもんを教えてやりたいと思っているのよ、私は」
アクアドラゴンは、キシシとちょっと頭のおかしな人のように振る舞った。
「まあ、安心して。自重はしてやるからね」
影竜と違って――とツインテール美少女ドラゴンは言った。
なお、この場に影竜がいないのは、元々銀の翼商会の活動に関して部外者的立場を取っているのと、アクアドラゴンの言う通り、加減をする気がまったくないせいである。
つまり、ここに影竜がいたなら、参加者たちは間違いなく死ぬ。
「とはいえ、まずは実力の差ってやつをわからせてあげないとね……」
ミストは、ニヤニヤとしながら参加者たちを見渡した。
竜の威圧!
やりやがった。ミストがドラゴンの眼光をぶっ放して、参加者たちの戦意を奪いにかかったのだ。
弱い者なら卒倒ものの威圧で、大半の者が立つこともままならず膝をついた。
「……ふうん、3人か」
何とか二本の足で立っている者はわずか3人。残りは青い顔をしたり、恐怖で歯をガチガチさせて震えている。
「おーい、もうおしまいかぁ? まだ始まってもないぞ」
アクアドラゴンが、つまらなさそうに足踏みした。ミストも、使えないクズを見る目で試験参加者たちを見た。
「口ほどにもない雑魚どもね。アクア先輩やクラウド先輩の威圧だったら、あんたら死んでるわよ?」
後ろの二人は伝説の四大竜である。竜の威圧のもたらす影響も、おそらくミスト以上のものになるだろう。
人間が相手をするには上級ドラゴンは、やはり無理なのだ。
「さて、とりあえず残った3人」
ミストはニヤリと唇の端を吊り上げた。
「お友達になりましょう?」
・ ・ ・
ミストたちと試験参加者たちの一連のやりとりを、ゴールデンウィング二世号の甲板から見下ろすギャラリーの姿があった。
ライヤーやカーシュらのほか、今回仮採用された新人たちだった。
闇魔術師ヴィオレットは身をすくませた。
「なんという恐ろしい気……! あれはさすがに防げそうにありませんね」
「……凄い」
手すりからじっと見つめるのはティス・リゼル。魔法格闘士の少女。
「ここにいれば、あんな強さが手に入るのか」
恐怖で体が震える。だがゾクゾクとしたモノも抑えられない。
やはり世界は広い。ここにいればもっと強くなれる――ティスは期待に胸を膨らませるのだった。
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