第348話、バトルロイヤル


 闘技場には、百人近い参加者が集まっていた。


 大半が魔術師で、それぞれの得意属性を示す色の装備を持っている者が多かった。


 それ以外だと、戦士系や軽業師、踊り子のような衣装の者の姿もちらほらとあった。地味な色合いの戦士や魔術師は、冒険者ではないだろうか。


「じゃあ、頑張ってください、ソフィア!」

「ええ!」


 リアハに見送られ、ソフィアは闘技場内へと歩く。間もなく、生き残りを賭けたバトルロイヤルが始まる。


 周囲の参加者の視線が、矢のように突き刺さる。六色の魔術師は、今大会の注目株だ。その一挙手一投足は、皆の視線を集める。


 緊張した。


 ソフィアは、深呼吸をする。気持ちを落ち着ける。魔法は心だ、気持ちだ、と言ったのはミスト師匠だったか。


『結界を張ります。以後、バトルロイヤル終了まで、闘技場と客席間の移動は不可能になります』


 拡声魔法で、声が会場に響いた。


 魔法が飛び交い、炸裂する場となる。客席に流れ弾がいかないように、防御結界が張られるのだ。


『参加者の皆様、魔法護符を起動させてください』


 アナウンスに従い、ソフィアは胸もとに下げる護符に触れる。他の参加者たちも、それぞれ自分の護符に触れた。


 これは参加者を守ると同時に、勝敗を判定する魔道具である。


 所有者の全身を防御魔法が包むが、その防御効果が一定まで下がると『やられた』判定となり、強制転移魔法が発動して退場する、という仕掛けだ。


 攻撃魔法や物理攻撃を防いでくれるが、攻撃を食らうと防御を維持する魔力が減る。これが危険域に達する直前に自動離脱することで、参加者の命を守るのである。


 なお、ぶっちゃけ、この防御魔法は一、二回程度の被弾で転移魔法が発動してしまうので、本当に命綱程度の期待しかできない。


 だから、参加者は自前の防御魔法を使ったり、盾などを持ち込んで防御、あるいは自力での回避で、この護符に頼らないように戦わなくていけない。


 さて――ソフィアは杖を構える。他の魔術師たちも、臨戦態勢である。近くの者たちはもれなく、ソフィアを見ている。


 それだけ脅威と見なしているのだ。


『それでは――』


 拡声魔法の声が、男の声に変わった。この声は、アルガンテ王のものだ。


『存分に戦うがよい! 諸君の奮闘に期待する! バトルロイヤル、開始っ!』


 魔術師たちが一斉に呪文を唱え出す。


 ――遅い!


「爆発――!」


 ソフィアの短詠唱、炸裂! 紅蓮の業火が彼女を中心に発動し、それは広がった。


 魔術師たちの防御の詠唱の最中に突如襲う爆炎。防御の先に炎が周囲の参加者たちを飲み込み、次々に護符が強制離脱を発動した。



  ・  ・  ・



「おおおっ!!」


 客席がどよめく。昨日誕生した六色の魔術師ソフィアを、そのほとんどの者が注目していた。


 だから、昨日見た魔法以上の大火球が発生し、周囲の者たちを一掃していくさまに観客たちは驚き、歓声を上げた。


「いいねぇ! こういうのを待ってた!」


 闘技場外周壁面、つまり一番高いところにいた水色髪の美少女――アクアドラゴンは両手を突き上げた。


 客席ではなく、普通は登れないその場所に陣取っているのはドラゴンたち。腕を組んで会場を見下ろしていたクラウドドラゴンは口を開いた。


「周囲に魔法を拡散させることで、攻撃と同時に防御と成す。先手が肝心のスタートで、最小の行動かつ最大の効果を発揮する……」

「そふぃあ、すごーい!」


 足をぱたぱたと動かして、フォルスが万歳する。影竜は、何を考えているかわからない表情で見下ろしている。


 アクアドラゴンが目の上に手を当て、さながら望遠鏡で覗き込むような仕草をとった。


「どれだけ減った?」

「ざっと半分くらい」


 クラウドドラゴンは即答した。


「近くの者は無理だけど、離れていた者には防御が間に合った者も少なくない」


 後は単純に効果範囲外だったものとか。


 クラウドドラゴンは目をほそめた。


「あのトラマスクも、きちんと一番離れていたわね……」


 トラマスク――セイジは、スタート地点で、ソフィアとは正反対の位置にいたのだ。


 別に打ち合わせをしたわけではない。ソフィアに助言するミストが、まず先手を好む性格だから、最初に大魔法をぶっ放すと予想したのだった。


「お、そのトラマスクが動いた!」

「セイジ、がんばえー」


 アクアドラゴンとフォルスの声。クラウドドラゴンは薄く笑った。


「面白い」



  ・  ・  ・



 ティーガーマスケ――セイジは、ソフィアの大魔法によって、参加者が呆然としている間に行動を開始した。


「瞬脚っ!」


 足に風の魔法をまとい、スピードアップ。


「戦場でよそ見をするなんて――!」


 風のような加速で、後ろを向いている魔術師の背中にマジックブレードを叩き込む。


「なにぃー!?」


 切られた魔術師は、護符によって無傷だったが、転送魔法が発動して退場となった。


 ――いい。攻撃しても死なないのなら、思いっきりやれる!


 セイジは、自前で製作した魔法カードを十枚展開する。


 修行によって、自分の魔力から魔法カードを作り出せるようになった。そして、すでに何の魔法を発動するかは、カードそれぞれに仕込み済み。


「行けよ! 一番から五番!」


 ファイアランスが発動。五つの炎の魔法は、いまだ大魔法ショックを引きずり、注意が散漫な参加魔術師たちを襲い、離脱に追い込む。


「あいつ、魔術師――!?」


 完全に油断してたか、セイジを見て愕然とする魔術師。


「遅い、七番!」


 ライトニングの魔法が発動。何かしらの呪文を唱え始めたその魔術師に電撃弾を命中させて、ご退場。


「くそっ! 雷神よ、稲妻の矢を以て、我が――」

「遅いよ」


 詠唱中の魔術師の目の前に、虎のマスクが肉薄した。悲鳴を上げる間もなく、マジックブレードが胴を直撃し、魔術師は吹き飛んだ。


 その体が地面に着く前に、転送魔法により、魔術師は消えた。

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