第349話、ティーガーマスケ


 虎のマスクをしたおかしな戦士がいる。参加魔術師たちの認識は、しかし覆された。


「あれは魔法戦士だ」


 魔法と武器、双方を扱いこなす戦士。虎のマスクでだまされたが、よくよく考えれば、魔法大会に参加するのである。魔法が使えないはずがないのだ。


 それならば、と目の前に迫る脅威に、魔術師たちは得意の魔法で攻撃した。ライトニング、アクアブラスト、ファイアランスなどなど。


 しかし、ティーガーマスケは自身に迫りくる魔法に怯みもせず、ひたすら敵へと突進する。


「馬鹿め! 武器に頼るなど――」


 その時、当たると思えた電撃弾が、ティーガーマスケの剣に弾かれた。いや、跳ね返された!


「なっ!?」


 ライトニングの魔法が術者に跳ね返った。同じように、放たれた魔法は元来た道を引き返すがごとく返され、魔術師たちは自分の魔法を食らって退場していく。


「あの武器、魔法を反射するのか!?」


 かろうじて防御の魔法が間に合い、跳ね返しを相殺した魔術師が目を丸くする。だがそこへティーガーマスケの魔法を三発、瞬時に叩き込まれた。


「うわっ!?」


 防御魔法が剥がされ、被弾。そして転送退場。


 ソフィアに注目を集めていた観衆も、位置的に視界が入っている者から、このおかしな虎マスクの魔法戦士へと視線を集めていった。


 それだけ、この戦士の戦いぶりが珍しかったからだった。



  ・  ・  ・



「へぇ、やるもんだなぁ」


 観客席から、観戦していたソウヤは思わず声に出していた。


 隣で同じように展開を見ていたジンも頷く。


「正直、ここまでできるとは思っていなかった」

「あんたが教えたんだろう?」

「私だけではないよ」


 老魔術師は控えめに言った。


「これまで何度も戦闘を経験してきたが、彼は間違っても目立つタイプではない。はっきり言ってしまえば、最前線より下がった位置で、後衛か、それより少し前と言ったところだ」

「なんつーか、前衛ほど激しくなく、後衛のあんたやソフィアのように派手に魔法を使うわけでもない」


 せいぜい、後衛を守る護衛か、あるいは治療薬やら魔法カードによる補助や支援が主だった。敵を倒すという点では、ほとんど戦果はなかった。


「でも、オレはそういうところで助けられているんだけどな」


 敵を倒すだけが全てではない。その点、戦場におけるセイジというのは、かゆいところに手が届く、何かあった時に頼める存在だった。


 もちろん、戦闘力という点ではアテにはしていなかった。だが、だからこそ頼れたのだ。


「しかし、当人は、やはり強さに憧れた」

「強い冒険者になりたいってのが、アイツの夢だったからな」


 ソウヤは頷く。そのための努力は知っているし、それをやめろとは言わなかった。最初は戦力にならなかったからだが、だからと言って、素質がないと何故断言できようか。


 だからソウヤは、セイジにはやりたいようにやらせた。こういうのは本人のやる気と、創意工夫だと考える。


 何より強くなりたいという思いは大事だ。足りないからこそ努力する。


 そしてそれは、間違っていなかった。


 セイジは、多人数が入り乱れるバトルロイヤルで、生き残りつつ、むしろ他参加者を蹴散らす側に立っているのだ。


「まあ、本人の気持ちも大事だが、教えるほうもよかったんだろうな」


 ソウヤが蒸し返すと、ジンは苦笑した。


「先も言ったが私だけではないよ。身のこなしや武器スキル、敵との距離の測り方などは、ガルやカリュプスメンバーたちが教えた。魔法については、私もレクチャーしたが、魔法カードを使った戦い方は、ミスト嬢の指導や、彼自身の創意工夫だと思う」


 セイジは、これまで『見て』きた。様々なものを見て、考えて、生きていた。だから、戦闘でも仲間たちの動きや、戦い方を見て、使えるものを取り込むことは、当たり前になっていた。


 そしてその視界の広さともいうべき彼の目は、この自分以外全部が敵というバトルロイヤルにおいても有効に働いた。周囲の動きを見通し、敵の攻撃を避け、跳ね返し、有効な攻撃を仕掛ける。


 ――あいつ、本当に強くなったな。


 最前線に立たせても大丈夫ではないか。


「あいつはもう充分、強い冒険者だな」


 闘技場内は、相変わらず、炸裂する魔法で賑やかだ。しかしそこに残っている人間は、もう十数人程度になっていた。



  ・  ・  ・



 魔法同士のぶつかり合い。魔術師たちは鍛えた技、すなわち魔法で他の魔術師を倒そうとする。


 防御魔法で防ぎ、攻撃魔法で攻撃。


 巨岩が地面から突き出し、風の斬撃が舞う。炎が吹き上がり、水の竜が降り注ぐ。


 見る分には派手で、観客たちは盛り上がっている。


 しかし戦っている者たちには、他人の魔法に見とれている余裕はない。四方八方、すべてが敵だ。


「というか、あいつは、いったい何なんだよ!?」


 魔術師は、五連発のアイスブラストを放つ。その先を加速してかわすのはティーガーマスケ。


「さっきからずっと、走り回っている! 加速魔法を使っているんだろうけど!」


 サンダーボルトを浴びせる。しかし、ティーガーマスケはさらにその先へと回避。別の魔術師が流れ弾で退場になる。


「あれだけ加速して、体への負担がないのか!?」


 足を動かしている、となれば疲れもする。だがそのペースは落ちることはない。とんだ化け物だ、とその魔術師は思った。


「ッ!?」


 ティーガーマスケから魔法が飛んできた。――ファイアボール――とライトニング!?


 防御魔法を張り直す。ライトニングを防御で相殺。しかし遅れてファイアボールが飛来した。


「時間差ぁー!」


 杖を犠牲に、ファイアボールを払い落とす。だがそこへ氷の塊が飛来!


「くっそぉぉっ!!」


 防御が間に合わず、その魔術師は護符が発動した。


 ――あんなよくわからない奴に……!


 バトルロイヤル、残り10名を切った。

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