第347話、ただのコスプレではない、らしい。


 翌日、魔法大会二日目。


 バトルロイヤル。闘技場にて、参加者が『せーの』でバトルをして、最後のひとりが優勝である。


 遅くても、一時間もあれば終わるという競技らしく、開始は正午過ぎから、となっている。


「え、参加するってソフィアには言ってないの?」


 ソウヤは、準備をしているセイジとジンを見た。


「てっきり、言ったと思ったんだが」

「別に、言う必要はないじゃないですか」


 セイジは、どこで用意したかわからないが軽甲冑をまとい、マントを着けている。


「この大会、ソフィアにとってはお父さんに実力を見せる機会なんですよね? 彼女には彼女の目的に集中させてあげたいので」


 ここでセイジも出ますよ、と聞いたら、今日のようなバトルロイヤルでは、彼があっさり退場にならないようにソフィアが気を遣ってしまうのではないか、ということだろう。


 セイジが『腕試し』のために参加していると思っているソウヤは、セイジがソフィアに気を遣っているんだな、と納得した。


「それで……そのマスクは?」

「虎、らしいですよね。ねえ、ジンさん?」

「ああ、ティーガーマスケだからね」


 老魔術師は言った。


「名前に相応しい被り物だよ」

「素顔を隠す意味あるの?」

「普通に出る分には不要だっただろうが……この大会で活躍すると顔を覚えられてしまうからね。のちの面倒を避けるためにはあったほうがいいと私は思った」

「活躍するつもりだったんだ、爺さん……」


 ソウヤは苦笑する。


 セイジが参加するこの大会。だがその出場枠は、もともとジンがエントリーして取ってきたものである。


「顔をマスクで隠して……暴れる気満々じゃねえか」

「この世界の魔術師を測る材料になるかと思ったんだ」


 ジンは気楽な調子で言った。


「ただ、私のような老人より前途有望な若者に道を譲るのもいいかな」

「ありがとうございます、ジンさん」

「いえいえ」


 それにしても――ソウヤは、セイジの姿を見やる。


「魔術師の大会なのに、がっつり戦士の格好だな」

「魔法の大会であるが、魔術師でなければいけないというルールではないからね」

「剣を持っているようだが、いいのか?」

「ああ、ルールを確認したが問題ない。魔法大会だが、戦闘競技に関しては、携帯する武器での殴打もありだった」

「じゃあ、戦士が出場して優勝しちまうってパターンもあったり?」

「可能性で言えばあるかもしれないが、難しいだろうね。魔法を相手に近接戦を挑むのは愚かの極み……と言われているらしい」


 ジンは皮肉げに言った。


「射程や効果範囲では魔法が勝っているのだから、武器で戦えるのならやってみろ、ということだろう。戦士にやられるような魔術師は、大会優勝など出来る器ではない――という判断だと思うよ」


 それで近接武器は使用オーケーなのだという。


「魔術師だって、いざとなれば杖で殴ったりはするからね」

「なるほどねぇ……。なあ、近接戦はいいって話なら、飛び道具はどうだ? 弓矢とか」

「いちおう、使っていいらしいが……聞いた話だとあまり歓迎はされないらしい」

「というと?」

「古来より、魔術師は弓矢と相性が悪い」


 弓矢は、射程や投射間隔が、場合によっては魔法を上回る。戦場などでは、魔術師の天敵と見なされる傾向にあったりするのだ。


「よって、この魔法大会で弓矢など使おうものなら、真っ先に袋叩きにされるだろうね」


 天敵になり得る故に、参加する魔術師のヘイトを稼いでしまうということだ。


「何より生き残ることが大事なバトルロイヤルでは不利な要素だ」

「確かに」


 納得するソウヤ。ジンは、セイジに虎のマスクを渡した。


「ソウヤの言うとおり、戦士は目立つだろう。だが虎のマスクがある程度、肉弾戦をこなしても違和感を消してくれる」

「虎の被り物に戦士の格好とくれば、魔法以外を使って戦いそうに見えるもんな」


 ソウヤ自身は見たことがないが、昔、虎のマスクを被ったプロレスラーだかのアニメがあったと聞いたことがある。


「でも爺さん。さっきの話だと、目立つのは狙われるから、あんまりよくないんじゃね?」

「目立つ=狙われる、というわけではないよ。目立つ、かつ脅威である者が最初に狙われるのだ。……たとえば、昨日活躍した六色の魔術師とかね」


 ソフィアが狙われる。


 昨日、各属性を総ナメにしたソフィアは、今日も注目参加者である。その実力を評価せざるを得ず、できれば早めに退場していただきたいというのが他の参加者の本音だろう。……昨日の参加者で、優勝をかっさらわれた者たちからは、特に倒したい相手と思われているに違いない。


「そう考えるなら、近接系の戦士など、近づかれない限りは後回しにしてもよいと、普通は考える。戦士を狙っている間に、他の魔術師から魔法攻撃を食らいたくはないからね」

「……色々、考えているんだな」


 参加しないから、どうにも他人事のような発言になってしまうが、ソウヤは素直に感心していた。


 老魔術師は首を振った。


「ソウヤ、君はどうもセイジが武器で戦うと思っているようだが、彼も魔法を使うからね。見た目が戦士だからと侮っていると、……君も周囲の魔術師たちと同じ間違いをしていることに気づくことになる」


 意味深な笑みを浮かべるジン。


 ――セイジが魔法、ね。


 魔法カードを使っているところは見たことあるけど、それのことだろうか。この大会はそういう魔法武器とか魔道具の使用も認められてるのだろうか? もしそうなら、セイジにも魔法的な対抗手段があることになる。


「まあ、健闘を期待するとしよう。頑張れよ、セイジ」

「はい」


 セイジは虎のマスクを被った。


 素顔はわからないのだが、元々、体格に優れているわけではないセイジだから、どうにも子供のコスプレ感が強かった。


 ――こりゃ、確かに雑魚っぽく見えるなぁ……。


 某アニメの虎マスクは、プロレスラーだって話だから、たぶんたくましく見えるのだろうが……。


 ――大丈夫かな、これ。


 不安がぬぐえないソウヤだった。


 間もなく、バトルロイヤルが開始される。

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