第341話、魔法大会とは?


 ジンが持っていた魔法大会の参加札を、セイジは受け取った。


「……ティーガーマスケ? 何です、この名前?」

「偽名だよ。どうせ偽名なんだから、私ではなく君が出ても問題あるまい」


 しれっとジンは言った。


 ――この爺さん、大会に出るつもりだったのか?


 とんだ冷やかし野郎である。この人が出たら、一躍、優勝候補。本気で頑張っている参加者たちが気の毒になるレベルである。


 ――ソフィアが出るつもりの大会で、いったい何をしようとしていたのか、この爺さんは!


 それにしても、ずいぶんとふざけた偽名だとソウヤは思った。


 ライヤーが眉をひそめた。


「いいのかよ、別の奴が成り代わって」

「大会中に選手が入れ替わるのは反則だろうが、最初から最後まで変わらず一人でやれば問題ないだろう」


 ジンは肩をすくめる。


「エントリーといっても、偽名で登録したし、そもそも、本人でなければエントリーをしてはいけない、というルールもないしな」


 代理でエントリー手続きをした、と思えば、何も問題がないということだ。


「それなら大丈夫か」

「じゃあ、この参加枠、使わせていただきます」


 セイジが深々と頭を下げた。


「それにしても、セイジが参加したいって、意外だな」


 ソウヤは腕を組む。


「この手の優劣を競う大会とか、嫌ってそうなのに」

「ちょっとした腕試し、ですよ」


 控えめに言うセイジ。


 この銀の翼商会に入るまでは、冒険者としてろくに戦うことができなかった運び屋専門だった彼。


 この商会に入ってからは、他のメンバーたちから技や魔法を教わり、着実にレベルアップしてきた。強さに関して、他のメンバーと比べると、地味で控えポジションなのだが……。


「なるほど、この辺りで、どれくらい強くなったかオレも興味あるわ。セイジ、頑張れよ!」

「ありがとうございます、ソウヤさん!」


 強い冒険者になりたい、そう言っていたセイジである。戦力外だったあの頃から、どれほど成長したのか。

 ソウヤは期待するのだった。



  ・  ・  ・



 セイジが魔法大会に出るとなってから、銀の翼商会のメンバーが彼への応援やら協力を惜しまない姿をソウヤは見かけた。


 ――愛されているなぁ、セイジは。


 真面目な働きぶりや、過去の境遇にもめげずに頑張っている姿に好感を抱いているのかもしれない。


 大会に向けて、ジンがセイジのコーチングをしていた。ソフィアの師匠という面が強いが、セイジもまた弟子なのだ。


 だからこれも、ある意味自然なものだった。


 そんな中、ソウヤは、王都魔法大会についてお勉強する。


「魔術師が魔法を競う大会っていう話は聞いた。だが具体的には、何をするんだ?」

「色々やりますよ」


 その問いに答えたのは、王都魔法大会を実際に見たことがあるエルフの治癒魔術師、ダルだ。


「大まかに分けると、純粋に魔法そのものを競うシューティング系と、魔法を使ったバトル系でしょうか」


 魔法の威力、飛距離、大きさなどを競うのが前者。魔法を駆使して戦闘をやるのが後者だという。


「シューティング系は、射的が中心ですね。得意の魔法属性のグループにエントリーして、そこでトップを目指します」

「属性のグループ?」

「火属性なら火属性。水属性なら水属性……という具合に別々にやるんですよ。属性によって有利不利が出るので、同じ属性同士で競わないと、実力というより有利な属性だったから勝てた、になってしまうんです」

「魔法の実力を競うんだから、属性で勝敗が決しては意味がないわけだ」


 なるほど、とソウヤは頷いた。ダルは続ける。


「バトル系は二種類です。バトルロイヤルと、一対一のトーナメント」


 バトルロイヤルは、多人数同時参加の生き残りを賭けた戦闘だ。自分以外、すべて敵という状況で、最後まで生き残れば優勝である。


 対してトーナメントは、一対一のバトル。個人の駆け引き、実力が物を言う。最後まで勝ち抜けば、これまた優勝である。


「複数の競技があるってことは、一日じゃ終わらないな」

「ええ、初日はシューティングで様子見。二日目はバトルロイヤル。そして三日目まで元気な者がトーナメントをやって締め、ですね」


 参加者は、どの種目に出るか決められる。全部出ることもできるし、バトル系のみやる、とか、逆にバトルはしない、三日目しか参加しない、など自由らしい。


「さすがに全部出ようと思う人は少ないですけどね。魔法を使えば、魔力を消耗しますし、よほど魔力量に自信がないと三日間乗り切れませんから」

「二日目以降がバトル系だから、手の内を見せたり消耗を嫌って初日参加しないってパターンもあるのか」


 てっきり、トーナメント形式で優勝目指せ、みたいなものだと想像していたソウヤである。

 自分の能力を考え、戦略を練る必要があるわけだ。


「しかし、三日もあるなら、結構な長丁場になるんだろうな」


 競技場で観戦するギャラリーは、さぞ喉が渇いたりするんじゃないだろうか。


「飲み水の売り子でもやるか」


 元の世界では、野球場でビールを売ってる売り子さんがいた。ああいうのやったら、意外といけるのではないだろうか。


「売り子、ですか?」

「そうそう。客席をまわって『飲み物いかがですかー』ってやつ」

「なるほど。長丁場になると、喉が渇きますもんね」


 ダルは頷いたが、すぐに表情を引き締めた。


「それはいいですけど、ソウヤさん。銀の翼商会って王都で商売しないって聞きましたけど、大丈夫なんですか?」

「あー、そういや、王都の商業ギルドに入ってないんだよ」


 基本、都市部での商売は、個人注文の宅配をしている銀の翼商会である。店を開いたり露店をやるにも、現地の商業ギルドに入るなり、税金払って許可をもらう必要がある。


「まあ、露店許可みたく申請してお金さえ出せば、商売できるんだけど……。ちょっとこれは、商業ギルドに一度話を持っていく必要があるな」


 無許可でやると、逮捕案件である。


 ダルは苦笑した。


「もう大会はすぐそこですよ。色々間に合うんですか?」

「間に合わないかもしれんな、これは」


 ソウヤも苦笑するしかなかった。こればっかりは時間がなさ過ぎた。

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