第342話、商業ギルドに行ってみたら


「もちろん、王都商業ギルドは、銀の翼商会の加入を歓迎いたします!」


 訪れた王都の商業ギルド。ソウヤは、行商であると名乗った上で、大会近くでの商売スタイルについて相談したら、偉い人のもとに通された。


 商業ギルド長、カドルと名乗った恰幅のよい中年男性は、にっこりと笑んだ。


「銀の翼商会さんの名前は、ここ最近広く知れ渡っております」

「そうなのですか? 自覚はないんですが」

「いやいや、謙遜なさらずに。エイブルの町のヒュドラ退治。バロールの町でのショーユ事業の推進。バッサンの町では浮遊バイクの生産に関与、いやむしろ主導し、隣国グレーズランドを救った。……いまでは一商会ながら飛空艇まで保有されている」

「……」


 ――そう言われると、確かに色々やってるなぁ……。


 苦笑するソウヤに、カドルは言った。


「一流の商人であるなら、銀の翼商会を知らないなんて、あり得ないでしょうな」

「恐縮です」

「銀の翼商会さんは行商で色々なところへ行かれるそうですが……」

「ええ、王都に店を出す予定は今のところないのですが」

「もしお入り用でしたら、ご相談ください」

「ありがとうございます」


 何だか、VIP待遇されているような気がした。無名の行商など、そもそもギルド長自ら相手をするとは思えない。


 ともあれ、ソウヤは王都の商業ギルドと今後の関係や商売について話をする。


 カドルは歓迎してくれたものの、実際に銀の翼商会が何ができるのか、どういう商品を扱っているかについて細かなところはわからないのだ。


 またソウヤとしても、王都の商業ギルドが、銀の翼商会に何を期待しているのか知っておかねばならない。


「やはり、移動スピードの速さ、でしょうか」


 カドルは頷いた。


「浮遊バイク、いや飛空艇があるわけですから、それを輸送に用いたら、これまで距離や時間の影響で流通しなかったものも、扱えるわけじゃないですか。行商としては究極の形だと思うのですよ」


 たとえば、港町で水揚げされた魚を、半日足らずで内陸の都市まで輸送する。これまで数日、1週間とかかっていたものが、それだけ早く届くとなると食事の内容も変わる可能性を秘めている。


「私はね、ソウヤさん。もっと飛空艇が民間にも流通したら、きっと色々なことができたんだろうなぁ、と思っていたんですよ」


 カドルは遠くを見る目になった。


「食材の輸送だけではありません。人員の輸送、緊急避難が必要な場所への移動、救助など」

「わかります」


 ソウヤは同意した。この世界に召喚される前の世界では、当たり前のように飛行機があって、それを使った輸送や移動も活発に行われていた。


 空を飛ぶ乗り物が手軽なものになった時、この世界でも、いずれはそのように使われるだろう。


「今はまだ、飛空艇は発掘品と、それをようやく解析して作れるようになったという段階です。国や軍、一部の貴族たちが使っている程度で、まだまだ我々の手には届かない」

「でしょうね」

「私としては、王都の商業ギルドで飛空艇を共同で購入しよう思っていたんですよ。この王都には飛空艇用の発着場がある。もちろん、使用には許可が必要でしょうが」

「確かに、発着場がある町というのは利点ですね」

「ええ。まあ、残念ながら飛空艇を買う必要があるのか、と反対も多くて、頓挫していましたが……」


 カドルは苦笑しているが、本気で残念がっているように見えた。


「ただ、ソウヤさんの銀の翼商会さんがいてくだされば、飛空艇を利用したお仕事を依頼できますし、王都ギルドとしても商売の幅が広がると期待しています」


 空を飛ぶことの優位性に着目していた人物がいた。商業ギルドから依頼というのも、言葉だけでなく実際にありそうだとソウヤは感じた。


 必要なものを必要な人のもとまで運ぶ。これこそ行商の神髄とも言える。


 それについては深く検討するのは帰ってからにして、ソウヤは魔法大会関係の話を聞いてみる。


「――ええ、大会ともなると、魔術師が国中からやってきます。王都の住民たちも観戦のために会場に集まりますよ」

「王都の外からはどうです?」

「近場の町から街道に沿ってくる人間も少なからずいますが、道中、盗賊や魔獣が出ますからね」


 旅をするのも命懸け。ソウヤたちは、それらの障害はむしろ喜んで迎え撃ってしまうので、気にもしないが、武装しない一般人には、町から町への移動はハードルが高いのだ。


「それに農民などは、自分のところを放り出して王都へ出かけられるほど裕福ではありませんし」


 領主によっては、領民の移動を禁じているところもある。だから一年に一度の大会と言えど、基本は王都住民と裕福層と冒険者や傭兵が楽しむものらしい。


「冒険者や傭兵、ですか」

「はい。裕福な貴族や有力者は、冒険者や傭兵を護衛に雇えますから。魔法大会の成績優秀者をスカウトしたり、単に娯楽として観戦するために来る。……護衛として雇われた者たちも、そのついでに王都観光できますからね」

「なるほど」

「面白いのは、そうした有力者にアピールするために、護衛として雇われて旅費をカバーする魔術師もいることでしょうか」


 カドルは苦笑した。


 大会参加者は国中から集まるという。それら魔術師も、遠方になればなるほど旅費が掛かる。


 ――へえ、うまいこと考える奴もいるもんだ。


 ソウヤは感心する。


「やはり魔法大会の間は、商業ギルドは忙しいですか?」

「まあ、ひとつの祭りですからね」


 商業ギルド長は認めた。


「飲み物や食べ物がよく売れます。露店も会場周りでは、すでにいっぱいですよ。宿も平常時より多くて、この時期はどこも満室に近くなります。大会期間中に王都観光をする富裕層もいますから、大抵のところでは稼ぎ時ではあります」


 ――だろうな。


 予想はしていたが、もう場所確保の争いは済んでいるようだ。むしろ、商人としたら『今さら?』と笑われてしまうくらいかもしれない。


「銀の翼商会さんも、大会で何か商売でも?」


 カドルは興味を見せた。ソウヤは肩をすくめる。


「まあ、いくつか考えてはいたんですけどね……。ただ今回は、さほど時間がなかったので、今後のための参考になれば、と――」


 というわけで、そのアイデアについて、実際に可能かどうかも含めて意見を聞くために、ソウヤはカドルに相談した。

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