第328話、帰りは怖い
安否確認のはずが、連れ出すことになった。
潜水艇オーシャン・サファイア号に人化したアクアドラゴンを乗せ、ソウヤたちは帰途についた。
「ほう、お主もドラゴンなのか?」
「そうだよー」
フォルスの隣の席につくアクアドラゴン。ちなみに、クラウドドラゴンは用は済んだから、一足先にソウヤのアイテムボックスハウスへと撤収している。
「影竜かー。知らんなぁ」
「そうなのぉ」
ドラゴン同士でお話。その様子を後ろの席から見守っているのがイリクとソフィア親子。
ソウヤは、操縦席のジンを見やる。
「アクアドラゴンはクラーケンって言っていたけど、この辺りにいると思うか?」
「行きはいなかった」
老魔術師は、魔力ソナーを確認しながら、操縦桿を倒した。
「でも、帰りも出くわさないという保証はない」
「もし、クラーケンと出くわしたら?」
「対抗策かね? うーん、難しいな」
ジンは皮肉げに言った。
「ただ、私たちの後ろにいるドラゴンと魔術師の魔力を総動員すれば、切り抜けることはできると思う」
「そりゃ、よかった」
そのための人選ということだろう。
「出くわしたら打つ手なし、じゃなくて」
ソウヤは首を捻る。
「オレも、十数ものクラーケンなんて地獄は見たくない」
「私もだよ、ソウヤ。だが、これまでの状況を考えると、もしクラーケンがいたとしても一匹か二匹だと思う」
「二匹でも多い。……でも、そう思う根拠は?」
「まず、ドラゴン同様、クラーケンは群れない」
老魔術師は考え深げに言った。
「それが群れたとしても、一時的なもので、それが過ぎたら、たぶん共食いを始める」
「共食い?」
「巨大な化け物が密集したら、食べるものの取り合いになるのが普通だ。だがすぐに周辺の魚を食い尽くすのはわかりきっている」
「だろうね」
体が大きいということは、食べる量も相応なものになるだろう。
「彼らを飢えを癒すために、一番大きな獲物……つまり同胞を食らうわけだ。そうやって数を減らす」
「だから、仮にこの辺りに残っていたとしても、数えるほどしかいないってことか」
ソウヤは納得した。
「潜っている時に、クラーケンの姿はなかったから、もうこの辺りにはいないのかもな」
「だと、いいのだがね」
「……やっぱいると思うか?」
「行きの時に遭遇したのが、巨大ピラニアもどきだけだった」
ジンは眉をひそめた。
「もう少し、海の魔獣と交戦する可能性も考えていた。……もちろん、この周辺はアクアドラゴンのテリトリーだから、魔獣があまりいなかったのかも、とも思ったが――」
「が……?」
「ドラゴンが空腹になるほど長い間引きこもっていた。外に出てこない以上、ドラゴンのテリトリーと気づかず、他の生き物が流入してもおかしくない。にもかかわらず、生き物の姿はほとんど見かけていない」
「つまり……」
ソウヤは正面の海を見つめた。
「クラーケンか、それに近い化け物がこの辺りにいる可能性が高いってことか」
「……間もなく、海底洞窟を出る」
ジンは正面を睨んだ。
「嫌な予感がしてきた。全員、聞いてくれ」
ジンは振り返った。
「それぞれのシートの橫に、魔力板という魔力を通す装置がある。悪いが、君たちはその魔力板に手を置いてくれ」
「これー?」
フォルスがさっそく、手を置いた。イリクとソフィアも、それぞれの自分の席にある魔力板に手を置く。
「何かありましたかな?」
「何かあった時のための用心だ」
イリクにそう言ったジンは、アクアドラゴンを見た。
「ほら、アクアドラゴンさんも」
「私もぉー?」
露骨に嫌そうな顔をする水色髪のツインテール少女。ジンはやんわり言った。
「クラーケンに出くわして、海に放り出されたいなら構いませんが――」
「それは困る! こ、こうか……?」
本当に海がトラウマになってしまったようだ。とはいえ、潜水艇の中から海は見えるのでそこは平気そうだ。
ただ、放り出されるというワードに反応したところからして、海水に触れられない、あるいは触れたくないようだった。
「爺さん?」
「ソウヤも覚悟しろ。入ってきた時にはなかった巨大な物体が、洞窟のすぐ外にいる」
索敵装置の反応を見たらしいジンは言った。ソウヤは苦笑する。
「何かあった時? もう起きてるじゃないか!」
「そういうことだ。魚雷に魔力を装填」
ジンは、潜水艇が搭載する魚雷もどきに、魔力を投入した。手元の魔力板が光り「おおっ」とフォルスが声を上げた。
ソウヤは唸る。
「それでどうにかなるか?」
「少なくとも、巨大ピラニアの時より威力は上がる」
ジンは肩をすくめた。
「さあて、その正体を拝むとしよう。クラーケンか、それとも何か別のものか」
「クラーケンだったら、ぶっ放してもいいんだよな?」
「ああ。……少し距離が近いから、防御障壁を強めに張っておこう」
潜水艇は進む。魔力により窓の外が比較的明るく映し出されていたが――
「何だ、この黒い壁は……?」
「クラーケンだ!」
アクアドラゴンが叫んだ。
「あいつ、まだこの辺りをうろついていたか!」
「だ、そうだ、ソウヤ」
「魚雷発射っ!」
ソウヤはボタンを押し込んだ。オーシャン・サファイア号から、魚雷もどきが放たれ、それは壁としか形容しようがない巨大な物体にぶち当たった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます