第304話、王都から王都へ


 ゴールデンウイング号はエンネア王国に入り、王都を目指したが、途中バッサンの町に立ち寄った。


 冒険者ギルドと商業ギルド双方が入っている建物をソウヤが訪れると、すぐに商業ギルドのボルック、冒険者ギルドのエルクと会談になった。


 浮遊バイクの生産と販売に向けて、その施設建築の敷地を確保、工場などの建築にかかっているという。


 販売するための浮遊バイクを、試験したりして作っているが、その試作バイクは冒険者を中心にテストが繰り返されていた。問題点を洗い出し、改善に取り組んでいるが、テストしている冒険者からの購入希望が相次いでいるらしい。


「やはり、速い乗り物は魅力なのです」


 エルクが言えば、ボルックも頷いた。


「このバッサンの町近辺は荒野だらけで、徒歩移動は精神にきますからね。夏だと暑さで特に」


 冒険者たちが乗り回しているのを見守っている商人からも、すでに予約が殺到しているそうだ。


「うまく行きそうですね」

「催促されまくりですよ」


 ボルックは頭に手を当てて苦笑いを浮かべた。


「それもこれも、ソウヤさんたち銀の翼商会のおかげです。ありがとうございます!」

「最大の脅威だった月下の盗賊団がいなくなって、次の盗賊がくるかと思っていましたが、今のところは大きな事件もなく済んでいます。ありがたいことに」


 エルクが頭を下げた。


「白銀の翼……銀の翼商会に感謝してもし足りないくらいです」


 ――いやいや、順調そうで何よりだ。


 浮遊バイクという乗り物が普及するのも、そう遠くなさそうである。


 取り立てて、ソウヤたちでなければ解決しない問題はないようなので、バッサンのギルドにお任せし、銀の翼商会は次の目的地へと移動する。


 目指すは王都である。



  ・  ・  ・



 ということで、さっそくの王都移動。空を飛ぶ乗り物は実に早い。


 カマルには、王都に行くと知らせてあり、レーラの復活の件も伝えた。彼も魔王討伐パーティーに参加した仲間である。戦友の復帰は嬉しいだろうと思ったのだが――


『我らがアルガンテ王陛下も、レーラ様に会いたがっておられる』


 と、返事がきた。ソウヤは、そのレーラを呼んだ。


「そういや、アルガンテ陛下も、レーラとは親しいんだっけか?」

「親しい、と言うか……よくしていただいたのはおぼえています」


 レーラは少し考えながら言った。


「真面目な方で、私に対して、ギラギラした野心というのがあまり見えない方でした」

「野心……?」

「聖女を利用してやる、とか、何か使えないかっていう思惑を、あの方からは感じませんでしたね」

「なるほど。アルガンテ陛下は、選ばれてはいないが、勇者みたいなところがあるからなぁ」


 ソウヤは頷いた。


「で、どうする、レーラ? 王様との面談」

「陛下がご希望されているなら、お断りはできないですよ、ソウヤ様」

「いやでも、レーラは復活したばかりだし。体調を理由にお断りもできる……」

「ソウヤ様、嘘は駄目ですよ」


 めっ、と言わんばかりに指先を唇に当てるレーラ。あの頃のまま美しい少女の可憐さに、ソウヤは息をのんだ。


 ――やば、心臓がドキドキしてきた。


「それに、十年もの間、私は眠っていたのですから、知っている方にドンドンあって、今の世界を知らないといけないんです!」


 レーラは前向きだ。聖女がネガティブであってはいけない……というわけではないが、常に人は彼女の言動を見ている。


 だから明るく、太陽のような安心感を人に与えられるように振る舞う。それが素で近い間はいいが、演じ始めると危険だとソウヤは思っている。笑顔の裏で泣いている、ということが、この娘ではよく起こるから。


「無理はしないようにな。ゆっくりやっていけばいい。急かさないからさ」

「ソウヤ様? 私、無理しているように見えます?」

「うん、わりと」


 ソウヤは真顔だった。そんなことないよ、なんていい加減な調子で流すつもりはない。


「無理は十八番ってレベルだもんな、レーラは」

「もう! 私、そんなに無理はしてませんってば!」


 珍しく怒るレーラだが、彼女が本気で怒っているわけではないのは、付き合いからわかるソウヤである。彼女は怒ると、表情が消えるタイプだ。


「どうかなー、君の無理はしていないって、『怒ってないですよ』って言いながら内心怒っている奴と同レベルだから」

「ソウヤ様、意地悪!」


 ぽかっ、と肩を叩かれた。もちろん、痛くない。


 こんなジャレ方、すいぶんと久しぶりだった。ソウヤは、勇者時代を思い出して、ちょっとしんみりきた。


 でも、またこうして笑い合う日がきて、とても嬉しくなった。


 願わくば、このままレーラが自然に笑っていられる世界であってほしい、と願うソウヤだった。


「じゃ、面談に応じると返事しておく。仰々しい式典じみたものは嫌だから、前回同様、非公式なものに頼んでおこう」


 聖女復活を、大々的に宣伝するつもりはない。世界に知られれば、さっそく聖女の力にすがろうとする連中が集まってくるから。


 本当に助けが必要な者もいるだろうが、聖女を利用とする輩も多くやってくるのは想像に難くない。



  ・  ・  ・



 エンネア王国王都に到着。


 ゴールデンウィング号で乗りつけたら、王都防衛の哨戒飛空艇の出迎えを受けた。やはり、アポイントメントはとっておくに限る。


「うわぁー」


 甲板から、眼下に見える王都を、フォルスは見下ろしていた。


「おおきい!」

「だな」


 これまで見た町の中でも一番大きな町なのは間違いない。グレースランド王国の王都は山だったから、高さこそあるが、広さではエンネアの王都のほうが勝っている。


「お家がいっぱーい!」


 子供の目には、初めて見るものは楽しいのだろう。これにはソウヤもにっこりだ。


「降りれるのー?」

「ううーん、難しいな」


 ソウヤは苦笑する。


「ドラゴンの姿のままだと、大騒ぎになるだろうな。オレたちはそうじゃないけど、ドラゴンっていうだけで攻撃してくる怖い人たちがいっぱいいるからね」

「……ウーン。わかった!」


 そう言うと、フォルスはアイテムボックス内へと戻っていった。いったい何がわかったのだろうか。


 首をひねるソウヤだが、ゴールデンウィング号はやがて飛空艇用飛行場へと降下したのだった。

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