第288話、嵐の原因
ジンが、メイドさん型機械人形と共に調査した結果、クラウドドラゴンについてわかってきた。
最初、聞いていた通り、ウィスペル島という名の、かつての浮遊島の一部をクラウドドラゴンが根城にしていた。
だがその巣穴が、地下の施設とぶちあたり、そこで双方が衝突する形になった。結果的に、クラウドドラゴンがウィスペル島から逃げ出すことになった。
そしてそれが、割と最近の話だったらしい。
ソウヤはミスト、リアハ、ソフィアと合流して、お茶をして休んでいたら、ジンがさっそく報告した。
「――この浮遊島の気象観測記録によると、興味深い事実が浮かび上がった」
地図を机の上に広げる。この世界地図は、ソウヤが元の世界にみたような精巧なそれだった。グレースランドなどで見た、いい加減な地図ではない。
その上で、写真を一枚、ジンは置いた
「この島は何かわかるかな?」
「例の大精霊の泉がある島だな?」
謎の大嵐に囲まれ、近づけないという島。ソウヤたちの当面の目的地であり、この嵐を解除するためにクラウドドラゴンを探しにきたのだ。
「嵐はどこだ?」
「そう、この時点では嵐は起きていない。ちなみに、クラウドドラゴンがまだウィスペル島にいた頃だ」
「……?」
ソウヤとミストは顔を見合わせる。意味深な言い方である。ソフィアが口を開いた。
「どういうこと?」
「――次にこれ」
ジンが新しい写真を出した。大精霊の泉のある島が、黒雲に覆われつつある。
「これはクラウドドラゴンが、ウィスペル島を追われて二日後だ。それで――」
もう一枚の写真が上乗せされた。島は完全に大きな雲、いや嵐に覆われて見えなくなった。嵐の真ん中に台風の目のような穴があって、それがとても不気味だった。
「三日後以降は、ずっとこの調子だ」
ジンは次々と写真を重ねていったが、まるでコピーしたもののように変化がほぼなかった。
「クラウドドラゴンがウィスペル島から逃げた方向、その進路上にこの島がある」
「つまり……」
リアハが小さく首を振った。
「この嵐は、その……クラウドドラゴンが発生させていると?」
「その可能性が高い」
ジンはミストを見た。
「どうだね、ミスト嬢。クラウドドラゴンなら、この嵐は可能かね?」
「そりゃ嵐を操れるんですもの。消せるなら、自身で作り出すこともできるでしょうよ」
ミストは机に肘をついて、ため息をついた。
「まさか、クラウドドラゴンの仕業かもしれないなんて……。考えもしなかったわ」
「何故、クラウドドラゴンは島を嵐で囲った?」
ソウヤは疑問を口にする。ジンは腕を組んだ。
「おそらく、ウィスペル島の防衛行動の結果、クラウドドラゴンは重傷を負ったのだろう」
「ドラゴンに怪我させた?」
ソフィアが目をパチクリさせた。
「そんなことができるの?」
「うちの科学力を侮っては困る」
ジンは自信たっぷりだった。
「ともあれ、こちらは飛空艇を持っており、ある程度追跡が可能な状態だった。深手を負ったクラウドドラゴンは、それら追っ手が近づけないよう嵐を形成したのだだろう」
「それをよりによって、大精霊の泉のある島でやるとはな……」
ソウヤは思わず愚痴る。どこか他の場所でやってくれれば、面倒がなかったのに。
「仕方ないわよ」
ミストが同情的に言った。
「昨日、龍脈の話をしたでしょう? 大精霊の泉がある場所も、そうした魔力の通り道の上にあるのよ。だからクラウドドラゴンはそこで自身の傷を再生させながら、豊富な魔力で嵐の障壁を同時に展開させているのよ」
普通の場所では、回復と大嵐同時は無理らしい。
「大精霊にとっては迷惑以外の何物でもないな」
ソウヤは苦笑した。クラウドドラゴンが居座ったおかげで、本体に戻れなくなったわけだから。
「ただ、この嵐の原因がクラウドドラゴンにあるなら、この嵐の突破方法のひとつに、『待つ』という選択肢が出るわね」
「どういうことです、ミストさん?」
リアハが首をかしげた。我らがドラゴン美少女は笑みを浮かべた。
「再生のための防御なら、傷が癒えれば、嵐を展開させて防御する意味もなくなるわ。そこに留まる必要もね」
「つまり、放っておいても、そのうち勝手に嵐は消えるというわけか」
理解した。ソウヤは頷いた。
「それで、あとどれくらいで再生が終わる?」
「さあ、ワタシは、クラウドドラゴンがどの程度の傷を負ったか知らないわ。ただ、思いの外、時間がかかっているみたいだから、ひょっとしたらかなりの重傷なのかもね」
「だが、いずれは再生が終わる」
ならば待つのは、大いにありだ。
「傷が癒えた後のクラウドドラゴンが怖いんだけれどね。まあ、ワタシたちは直接関係ないし、島から出て行ってくれれば、面倒な交渉もしなくて済む」
「面倒っていいやがった。仮にも同族だろ?」
解決の糸口が見えたことで、ソウヤは自然と軽口が出た。数日待てば、何の面倒もなく大精霊の泉に行けるかもしれないとあって、気分が軽くなった。
大精霊の分身を本体に会わせて、泉の水をわけてもらい、レーラの魔力欠乏を回復させる薬を作る。何だか、うまく行きそうな予感がしてくるソウヤだった。
「それじゃ、嵐が消えるまで、どこかで時間を潰すか?」
「そうねぇ。任せるわ」
ミストは考えるのを放棄した。ソフィアがジンを見る。
「ジン師匠。ここって、魔法などの資料ってあります?」
聞けば、クレイマン王のいた頃の魔法などを研究したいのだそうだ。勉強熱心なことである。
「たぶん、ライヤーさんも、ここで調べ物がしたいんじゃないでしょうか」
リアハが小さく笑った。
クレイマンの遺跡で一番ワクワクしていたのが、ライヤーだ。また転送魔法陣のところで門番よろしく見張っているダルも、浮遊島にきてみたいだろう。
「いっそ、ゴールデンウィング二世号の皆もここに呼ぶか。……ああ、もちろん、主である爺さんがいいと言うならだけど」
いちおう、彼の島、彼の城である。かつての王であった老魔術師はにこやかに告げた。
「構わないよ。メイドたちがいるから世話をさせよう。我が島へようこそ」
冗談めかすジン。朗らかに笑うソウヤたち。
だが、この時、ひとつの問題が発生していた。転送ボックスを通して、ゴールデンウィング二世号を呼び寄せようとした時、向こうから急用の手紙が送られてきていたのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます