第276話、この遺跡の正体は――
「オレたちは、クラウドドラゴンの巣にいると思っていた。だが気がついたら、都市遺跡の地下にきていたんだ」
ソウヤは巣穴の最深部だった場所にある穴から奥を覗いた。
「ライヤー」
「遺跡だろうな。ここも」
同じく大穴を覗き込むライヤー。
「ただ、ここまでの穴が普通の洞窟っぽかったからな。ドラゴンさんが住んでいるうちに壁が崩れて、すぐ隣にあった遺跡に繋がっちまったってところかな」
中は微妙に明るかった。照明が生きているらしい。さすがに字を読んだりする分には暗いが、歩き回る分には困らない程度には明るかった。
「おい、ライヤー……!」
大穴に入っていくライヤー。ふらふらっと進むものだから、ソウヤは慌てた。ライヤーは周囲に気をつけながら、進むと壁のレリーフを近くで見つめる。
「何やってるんだ、ライヤー」
一応、人形がいないか警戒して、声を落とすソウヤ。ライヤーの後を追えば、彼はやはり壁のレリーフを眺め、そして指で触った。
「旦那……。これは夢か?」
「現実だ。いったいどうしたんだよ?」
何だかライヤーの様子が変だった。視線はレリーフから離れない。何かの紋章のようなそれ――古代文明研究家の彼が知っているものだったのだろう。
「まさか、そんな……」
「だから何が?」
「これは大発見かもしれない……!」
興奮してきた様子のライヤー。声は落とせよ、とソウヤは言った。
「絶海の孤島の古代遺跡だもんな。そりゃ大発見だろうよ」
「クレイマン」
「なに?」
「これがクレイマンの紋章だ。ここが、クレイマンの遺跡なんだよっ……!」
「!?」
クレイマンの遺跡――天空人の王にして、世界の富を集めた伝説の人物。時は流れ、その伝説だけが残り、彼の集めた財宝を求めて、古代の研究家や冒険家が血眼になって探しているそれ。
一応、お姫様からクレイマンの遺跡を探してほしいという依頼を受けているが、まさかこんなところで、その遺跡と巡り合うことになるとは。
ソウヤにとっても想定外だった。
「旦那、ここまで来て、調べもせずに帰るなんて、言わねえよな?」
ライヤーが懇願するように言った。古代文明の研究家である彼にとって、クレイマンの遺跡は、夢にまでみた存在だ。幻、一生かけても見つけられないかもしれなかったものが、目の前にある。
リアハが口を開く。
「クレイマンの遺跡とは、とても貴重だとは思いますが、今回はここで引き返しませんか?」
「はあ!? お姫様よ、何で……」
「私たちは、クラウドドラゴンを探しにきたのです。今は出直すべきだと思います」
「そうねぇ……」
ミストも小首をかしげた。
「遺跡とはわかっていたけれど、それが伝説のそれなんて、まったく想定外なんだし……。予定にないことをすると、ろくなことがないわよ?」
「二兎追うものは一兎をも得ず、という言葉を聞いたことがあります」
リアハは真面目な顔で言った。
「何の準備もなく、探索するのはリスクが大きいと考えます」
「いやいやいや、クレイマンの遺跡だぞ!」
ライヤーは首を横に振った。
「こんな機会、そうそうあるもんじゃねえ。大発見なんだぞ! いま探さなくていつ探す?」
「でも、準備していないですよ。これがどれだけの規模で、探索にどれくらい時間がかかって、何があるのかわからないんですよ?」
「調べなきゃわかるわけないだろ。何もここだけじゃねえ」
「遺跡は逃げませんよ」
リアハは冷静だった。
「先を越されるとでも思ってます? 外には人形たちがいて、飛空艇だって追い返されるのに」
「そりゃ、そうかもしれねえけどよ……」
ライヤーは渋い顔になる。探索したくてたまらないと、態度に出ている。
聞いていたソウヤは言った。
「探索する」
「!?」
一同が固まった。一度引き返すという空気が漂い出した中の、敢えての探索宣言だったからだ。
「ソウヤさん?」
「旦那!」
「これがクレイマンの遺跡だって言うなら、調べる価値はある」
「クラウドドラゴンはどうするの?」
ミストが問うた。ソウヤは肩をすくめた。
「そりゃ精霊の泉に行くための手段としてだ。だが、そもそも何故、そんなことをするのかは別のところにあるだろう」
「大精霊に頼まれた?」
「違う。レーラを助ける手段の手掛かりだからだ」
魔力欠乏で死にかけている聖女、かつての仲間を救う方法を探しているのだ。大精霊のいる泉の水が、その治療に使える素材だと聞いて行動をしていた。
「古代文明時代の遺跡には、現在では手の施しようがない病を直す薬や、瀕死の人間を復活させるアイテムなどがある可能性がある。そして、伝説の古代の王の遺跡なら――」
ソウヤは、通路の先を見た。
「レーラを救うアイテムがあるかもしれない」
「!」
リアハが目を見開いた。姉を救うために旅をしている。その答えが、この遺跡にあるかもしれない。
「もちろん、ないかもしれない」
ソウヤは言った。
「だが、それは行ってみないとわからない」
「そうだ、行こうぜ」
ライヤーが声を弾ませれば、ダルも口元を緩めた。
「まあ、どれくらい大きいかはわかりませんし。案外小さいかもしれないし、逆に大きいかもしれない」
エルフの治癒魔術師は、洞窟から遺跡側に入った。
「一日じゃ終わらないような広さなら、ソウヤさんのアイテムボックスハウスに行けば、食料や休憩は何とかなりますし。もう行っちゃってもいいんじゃないですか?」
仮にゴールデンウィング号に戻ったとしても、何かできるわけでもない。
「そもそも、探しにきたクラウドドラゴンがどこにいるかわかりません。案外……遺跡の奥の可能性だってありますし」
ダルはそう告げた。
話はまとまった。ソウヤたち一行は、クレイマンの遺跡と思われる地下遺跡に入った。
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