第277話、遺跡調査とトレジャー


「遺跡というのは、どこも代わり映えがしないわね」


 ソフィアはぼやいた。


「地下、石の壁に床――」

「ふだん知っている建材でいいじゃねえか」


 ライヤーが先導のガルのすぐそばにいて、そう返した。


「つか、おれらの知らない何かでできてたら、怖ぇよ。どうするよ、骨でできた通路とか、何かの化け物の体内みたいな壁とかさ」

「嫌すぎる」


 ソフィアは正直だった。


「でもあんたは、それでも嬉々とするんでしょ、どうせ」

「まあな」


 ライヤーは認めた。


「そんなのが本当にあるなら、見てみてぇわ」

「オレはごめんだね」


 ソウヤは苦笑する。歩くならまともな道でありたいものだ。……フラグめいて怖い。


「ミスト、どうだ?」

「……今のところは、動くものはないわね」


 魔力眼で先行調査中のミスト。


「遺跡だから何か化け物が出るってものでもないけれど」

「どうかなぁ。得体の知れないモンスターが住み着いている可能性はあるだろう?」


 そう言うとダルが頷いた。


「実際、遺跡のお隣にクラウドドラゴンが住んでいたみたいですからねぇ」

「あるいは、あの人形とかゴーレムがいるとか」


 ライヤーは言って、顔をしかめた。


「いや、むしろあの人形は天空人の作ったもんじゃねえか?」

「ここがクレイマンの遺跡と言うなら、その可能性は高いですね」


 ダルは目を細くする。


「動いてなければ、人形もゴーレムもかなりの値で取引されるでしょうね」

「動いているなら、余計に高値がつくんじゃね?」

「おーおー、人間が奴隷狩りよろしく、地上の都市遺跡を襲う光景が目に浮かぶ」


 皮肉げにダルは言うのだ。リアハもまた表情を険しくさせた。人間に対する偏見、とでも受け取ったのかもしれない。


 ――まあ、ダルの言う話もわかるんだがな。


 ここのことが知れ渡れば、クレイマンの遺跡を目指して、人が殺到するだろう。天空人の文明の遺産ともいうべきものを根こそぎ奪い、ゴーレムや人形も手に入れようとする。


「そういう言い方はやめろよな」


 ライヤーが言った。


「おれたち遺跡発掘者が悪く言われちまう」

「でも盗掘はしてますよね?」


 ダルは容赦がなかった。


「いえ、別にそれを責めているのではありません。みんなやっていることですから」

「まあ、そうだわな。発掘と言ったところで、おれらは財宝や遺物が出てくれば、懐に納めちまうからな」


 この世界での常識だ。遺跡の所有権うんぬんが、あいまいが故である。


「でも、言い方がキツくね?」

「そうですね。すいません」


 ダルは詫びた。


 ソウヤたちは先へ進む。最初に出くわした大部屋は――


「工場、かな……?」


 錆びた機械と、製作途中だったと思われるゴーレムが埃を被っている。ソウヤは昔、社会見学で見た自動車工場を思い出した。


 部屋自体は、石造りの地下室風なのに、機械やゴーレムの並びが、それを連想させた。


「駄目だな……」


 ライヤーが近づいて確かめる。


「完全に朽ちてるわ。直すどうこうってレベルじゃねえな」

「こうなるとただの石ですよね」


 ダルが言えば、ソフィアが笑った。


「でもいかにも遺跡っぽくて、わたしは好き」


 ちょっと調べてみたが、めぼしいものはなし。通路があるので、次へ。何度か人形が徘徊していたが、それらを回避する。


「こういう遺跡には、モンスターが住み着くって話だったけれど」


 ソフィアは首を振った。


「出てこないわね」

「ゴーレムや人形が、見守っているんじゃないかな?」


 通報されると面倒なので、避けて進んでいたが、あの人形などが遺跡内を歩き回っているなら、そうそうモンスターも住み着けないのではないだろうか。


「おっと、どうやら運がない奴もいたらしい」


 ひょい、とライヤーが飛び越えたそれは、破壊されたと思われる人形。胴体に穴が空いている。埃と劣化具合から、かなり昔のようだ。


「今度は何だ……?」


 広い空間に出た。細長い部屋で、途中に等間隔で扉があった。軽く十以上あるようだ。


「今度は迷路ですか?」


 リアハ姫がため息をつく。ソウヤは、近くの扉を覗いているガルを見た。


「通路じゃない。小部屋だ」

「ひょっとしたら地下の住宅だったりしてな」


 ソウヤは言うと、皆で、手分けしてそれぞれの扉の先の様子を確認する。ガルが言った通り、小部屋だった。中も朽ちていて、汚い。


「倉庫かしら?」


 ミストの発言に、ソウヤは眉をひそめる。


「どうかな。倉庫なら、もっと大きな部屋にするんじゃないか? こんな小部屋を複数作るよりもさ」


 部屋に足を踏み入れる。奥に他より小綺麗な金属のボックスを見つけたのだ。


「何かこれだけ新しく見えるな」

「開けられそう?」

「鍵が……かかってないわ」


 あっさり開いた。中身は――


「本? それにこれは、魔石か……?」


 目新しい分厚い本のほか、宝石のように加工された水晶のようなものが入っていた。


「何でこれだけ、綺麗なの? 最近、誰かが入れた……わけはないわね」

「この遺跡に、人が入って廃墟同然の部屋に置いた? それはあり得ないな」


 ソウヤは箱の蓋をして、それをアイテムボックスに放り込んだ。


「この箱、保存魔法がかかっている魔道具かもしれないな。それで中のものが朽ちることなく残っているとか」

「すると、天空人が栄えていた頃のもの、というわけね」


 ミストが微笑した。


「よかったじゃない。高く売れるわよ」

「コレクターも欲しがるだろうし、学術的にも価値はあるだろうな」


 なお、周辺の小部屋にも、それぞれひとつ、同様の箱があって、それぞれ薬やら金品やらが入っていた。


「まるで宝箱だな!」


 ライヤーは、とても楽しそうだった。中身はもちろん、箱自体も価値があるので、全部アイテムボックスに入れた。


 ソウヤたちの遺跡探検は続く。

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