第275話、ドラゴンの巣穴へ潜入
夜の都市遺跡――言葉にするとロマンだが、実物はかなりガッカリだな、とソウヤは思った。
夜にきたのがいけなかったのか。照明があるわけもなく、月明かりだけが唯一の光源。遺跡というだけあって、活気など皆無であり、むしろ肝試しをやっているような気分になる。
ガルとミストが前を行き、十字路など、人形やゴーレムがいないか確かめながら進む。
「ストップ」
ミストが後続を止める。ソウヤも後ろに止まるようにジェスチャーし、耳をすます。すると足音が聞こえてきた。
「……これは人形型か」
この都市遺跡で確認されている人形とゴーレムは大まかに二種。人形型はメタリックな外装の人型で、どこか近未来的。一方のゴーレムは金属製の鎧をまとう、いかにもなマッシブな姿をした重量級だ。
「人形たちの町って言うんで期待したんだが……」
ソウヤは小さく呟いた。
「こいつら、ただの警備メカだな」
基本的な命令に従って、動くだけの人形。間違っても命が宿っているとか、高度な思考力とは無縁のようだ。
「これなら、いざ戦闘になっても、遠慮なくぶっ壊せるわ」
足音が遠ざかっていく。ガルが先を行き、その様子を見ていたミストが『前進』の頷きをしたので、一行は都市遺跡内を進んだ。
何度か、見回りのゴーレムや人形をやり過ごして、目的のドラゴンの巣穴の前に到着する。
「何とか辿り着けたか」
ふぅ、とライヤーが息をつく。
「心臓がバクバクしてるぜ」
「通報されたら、街中のゴーレムと人形が集まってきたでしょうね」
ダルが周囲を見回しながら言った。近くに人形などが来ていないか見て。
「情緒についてわからないところもありますが、昼に来たかったという理由はわかった気がしますよ、ライヤー」
「だろ? せっかくの都市遺跡だぜ。見て回れないなら、せめてよく見たいと思うのに、このざまだ」
「お前らブレないな」
ソウヤは苦笑しつつ、巣穴の奥を覗いているミストのそばへ行った。
「何か感じるか?」
「相変わらず、魔力が濃すぎて溺れそう」
その表現気に入ったのかな、とソウヤは思った。
「クラウドドラゴンはいそうか?」
「いまのところ、感じられない。もしかしたら、いないかもしれない」
しかし、ミストの目は光った。
「でも、いるかもしれない、とも思ってるわ」
「ここまで来て、確認せずに帰ると後悔しそうだ」
もしかしたら隠れていて、というパターンもある。それで会えないままというのが一番よろしくない。
「いる可能性は低いんだけどね」
ミストが苦笑すれば、ソウヤも同じ顔になった。
「可能性は、あくまで可能性だからな。事実じゃない。確かめるまでは」
行こう。ソウヤたちは穴の中へと入った。巣穴というだけあって、トンネルのように大きい。ドラゴンが通過できるサイズと考えれば、クラウドドラゴンの図体もある程度想像できるだろう。
「こうなると、人形やゴーレムが入り込んでいるかもしれないな……」
「いてほしくないわね。ますますクラウドドラゴンがいる可能性は低くなるわ。巣穴に外部のものを入れるなんて、よっぽどよ?」
「人形やらゴーレムを操っている、とすれば別だがな」
ソウヤは立ち止まった。先導のガルが、何かに気づいたのだ。
「横穴が開いている」
その先は遺跡のようだ、とガルが報告した。
「音が聞こえる。金属の音、何か作業しているような音だ」
「ミスト」
ソウヤは相棒のドラゴン娘を見た。
「ここは、クラウドドラゴンの巣だよな?」
「ええ」
「自分の住処の中で、そんな物音がするようになったら、ドラゴンってのはどうする?」
「排除する」
ミストは即答だった。
「ドラゴンの巣とは、それは自らのテリトリー。テリトリーの中では自分が最強であり王であるのと同じ。そこに部外者がいるなんて、我慢のならないことよ」
「この場合はどうだ? 巣穴に、よそ者の領域がぶつかった場合」
「そこは、そのドラゴン次第ね」
ミストは考える。
「まあ、譲るということは基本的にはないわね。相手がよっぽど強いか、排除するのが面倒なほどの規模でもなければ」
ドラゴンは、自らの種を最強と自負している。他の種族のために我慢するということは、あまりない。ただし、面倒を嫌うところはあるので、大事になる前に移動する、というのはある。
「クラウドドラゴンも撤退したか?」
「殺されてなきゃね」
面白くなさそうにミストは言った。
「まさか表のゴーレムや人形ごときに、古竜が負けるとは思えないのだけれど。……テリトリーが乗っ取られているっぽいし、何かあるのかもしれないわね」
「乗っ取られる、ですか……?」
リアハが首をひねった。ミストは微笑む。
「元々は、ここはクラウドドラゴンのテリトリー。初めはあの人形やゴーレムはいなかったはずなのよ。それがある日、突然現れて、当のクラウドドラゴンがいない。そう考えると……」
「乗っ取られた、ですか」
神妙な表情になるリアハ。つい最近、魔王軍の残党に、短い間とはいえ国を乗っ取られていたので、思うところがあったのだろう。
横穴は一度放っておいて、巣穴の奥までいく。クラウドドラゴンがいる可能性がほぼゼロではあったが、もし死体やその名残りがあれば、それ以上の捜索をする必要がなくなるからだ。
しばらく歩いたのち、ソウヤは息を呑んだ。
「ここが最深部……だったか?」
「ドラゴンのいたニオイが強いわね」
ミストもピクリと眉を動かした。
「でも、最深部ではなくなっているわね……」
視線の先は、行き止まりではなく、さらに大きな穴があった。その先は、遺跡と思わせる通路と壁があって、完全に地下のそれと繋がっていた。
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