第262話、ダンジョンにあったかもしれないもの
クリュエルの町近くのダンジョンから発掘されたと思われる何か。
ソウヤは、冒険者ギルドを訪れ、モッシマーと面会した。巨人族退治に参加したソウヤたち白銀の翼に報酬が支払われ、そのついでに話を聞く。
「……古い資料をあたってみたんだがな。このクリュエルの地には巨大な機械の人形が眠っているという伝説があった」
「機械の人形?」
一瞬、ライヤーに付き従うフィーアを連想する。人間のように見えて、あれで古代文明時代の機械人形という話だ。
ただ『巨大な』ということは、それなりの大きさになるだろう。オーガやジャイアントといった大型種族で掘ってもなお大きなものに違いない。
「それが、今回の魔族どもの標的か」
「魔族が関わったという証拠はないぞ?」
「あの状況で、巨人族の残りが消えた理由は? あいつらに転移魔法なんて使えないし、使えるとしたら魔族だろう」
状況からくる推測だが、種族混成でも衝突なく同じ活動を行うことができるのは、魔族の軍ならではのものである。
「どこで知ったかはわからんが、魔族は伝説の機械人形を狙っていた」
いったい何のために?――ソウヤは、モッシマーを見た。
「その巨大人形とやらは、どういう代物なんだ?」
「伝説によると、破壊の巨人らしい」
ギルマスは、机の上にその資料の本を広げた。
「何でも三日三晩動き続けて、国ひとつをほぼ壊滅させちまったという話だ。あまりに大きくて、人間の手じゃ倒せなくて、災厄をまき散らしたらしい」
そんなものが復活したら、末恐ろしい。何故かドラゴンにちょっかいを出していた魔族なら、この手の伝説の機械人形も手に入れようとするかもしれない。
「しかし、そんな物騒な巨人がクリュエルの地に眠っているなら、誰か発掘していそうなものだが」
「誰も、その巨人の存在を知らなかったからな。俺だって資料室あさってたら、ようやく見つけた程度だ。昔の人は、手に終えないと思って、埋めたのかもな」
そして、それを掘り起こされたかもしれないということだ。
「まあ、それを今さら知ったところで、すでに持ち出されたかもしれんというなら、できることなどないんだがな」
モッシマーはそう締めくくった。ソウヤにしても、その件で今はできることはない。
・ ・ ・
次の目的地検討をしていたソウヤは、珍しく影竜から声を掛けられた。今日はドラゴンではなく、美人さん姿だった。
「何だって?」
「子供たちを、外に出したい」
アイテムボックス内は安全ではあるが、ドラゴンベビーたちにも、外の空気に触れさせたいと言う。
「なるほど。確かに、外を知らないのは問題だな」
自然に触れ合う機会も必要だ。場所を提供をしているだけで、影竜たちもこのままずっとアイテムボックス暮らしというわけにもいかない。
「そうなると、町から離れた場所がいいな」
「人間観察もさせたいから、ある程度見える場所をお願いしたい」
「へえ、まあ、他の生き物になれさせておくのも大事だよな」
ソウヤは納得しつつ、提案することにする。
「銀の翼商会の面々で、慣らしておくか? いきなりたくさんの人間を見るのもなんだし」
「ああ、そうしてもらえると助かる。……一応、人を見ても、いきなり吼えるな噛みつくなと教えてはある」
「犬か」
思わず声に出てしまうソウヤである。
とはいえ、何も知らない幼子というのは、何をしでかすかわからないもの。善悪の判断などなく、何をしていいのか駄目なのかも理解していない。
ソウヤ自身、数えるくらいはベビーたちと接したが、母の教育がいいのか、そういえば噛みつかれたことはなかった。
……もっとも、加減を知らないフォルスが、ソウヤの腹に頭突きする勢いで当たってきたことはあったが。当人はお肌のふれ合いがしたかっただけだったらしいので、ソウヤは怒りはしなかった。
「じゃ、さっそく、仲間たちと会わせてみるか」
「そうしよう」
その時のドラゴンベビーたちの反応で、外に出した時の人間観察の距離を決めることにする。
少なくとも、仲間たちなら間違ってもドラゴンに武器を向けたりしないので、多少ベビーたちがオーバーな動きをしても、問題にはならないはずだ。
善は急げ、である。
アイテムボックスハウスにいた面々で、ソフィアやリアハといった第一報で好意的な反応を示した者に声をかける。
「……あ、ミスト。影竜の子供たちとの接触が解禁になったんだけど、お前も来る?」
たまたま見かけたミストにも、ソウヤは声をかけた。同じ上級ドラゴンである。お母さん影竜以外のドラゴンにも、会っておいて損はないだろう。
「まあ、そうね。いちおう、見ておくか」
などとミストは淡泊な返事をしつつ、影竜テリトリーへと移動した。
さて、その影竜のベビーたちだが――
「うわぁ、カワイイ!」
ソフィアが年頃の娘らしく、キャイキャイと声を弾ませた。リアハもまた笑顔になる。
「大人のドラゴンと比べると、やっぱり小さいんですね。……背中の翼が小さくて可愛いですね。……あれだと、まだ飛べないんでしょうか?」
初めて動物園に来たような反応だな、とソウヤは思った。
ドラゴンベビーたちは、初めて見るソウヤ以外の人間にキョトンとしている。人間形態の影竜に身を寄せているのは、メスのヴィテス。手前でポカンとしているのが、オスのフォルスだろう。
終始無言のミスト。――何か怖い。
ソウヤが歩み寄るとフォルスが、トタトタとやってきた。いつものお肌のふれ合いだろう。
「あー、よしよし。ちょっと緊張しているか? 大丈夫、この娘たちは噛みついたりしないからなー」
「誰が噛みつくのよ!」
ソフィアが抗議の声を上げる。それに構わずフォルスを撫でてやると顔でスリスリしてきた。
ドラゴンの外皮は頑丈でゴツゴツしているものだが、子供の頃は滑らかでツルツルしている。
――もう少し大きくなったら、こういうのも難しくなるんだろうなぁ……。
しみじみとした気持ちになるソウヤ。リアハが近づく。
「触れるのですか、この子?」
フォルスが、ソウヤの傍らで身構えた。初めての人間に警戒しているのだろう。
「ほーら、怖くない怖くない」
ソウヤはフォルスをなだめつつ、チラと影竜を見やる。特に反応しなかったところをみて、お触りしていいのだろう、と解釈する。
「フォルス」
優しく声をかけて落ち着かせれば、フォルスは大人しくなる。ソウヤはリアハに頷いて、誘導してやる。
そして初めて、リアハはドラゴンベビーに触れた。
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