第257話、鍛冶の巨人
最前線の巨人たちは、瞬く間に全滅した。
岩のゴーレムが多少、その頑丈さをもって抵抗したが、一体はソウヤが岩ごとそのボディをボコボコにして破壊。二体をジンが『ゴーレム解体』の魔法で岩の塊に戻した。
「気をつけろ! 奥の奴が動く!」
冒険者のひとりが叫んだ。
斜面の下の方に、新手の巨人族がノシノシとやってくるのが見えた。ざっと見たところ、十数体は軽くいた。
「……ん?」
ソウヤは眉をひそめた。
正面奥に、何やら光が見えた。巨人の一体だが、何か持っている。
「おい、助っ人さんよ」
年配の冒険者がやってきた。
「誰だか知らんが、よく来てくれた! だが、あの一つ目野郎が見えるか? あの光る槍を持っているやつ」
「さっきから何か光ってるな」
ソウヤが頷くと、その年配冒険者は血のついた剣をそれに向けた。
「サイクロプスって知ってるか? 一つ目の巨人なんだが、あいつが魔法武器を持ってる。光っているのがその魔法武器だ。輝きが増すと電撃を――おいっ! 電撃がくるぞ! 全員、身を隠せっ!」
年配冒険者が叫んだ。サイクロプスとやらが持っている武器の光が強くなり、次の瞬間ゴウッと雷鳴と共に強烈な雷が迫ってきた。
年配冒険者ととっさに近くのくぼみに伏せるソウヤ。すんでのところで電撃が通過した。
「危ねぇ……!」
あんなの食らったら、下手したら即死かもしれない。
「あのサイクロプスって奴は、巨人のくせに手先が器用でな。鍛冶が得意で、強力な武具を作るって話だ」
年配冒険者はくぼみから半身を起こした。
「誰か、やられてないかー!」
大丈夫ですっ、と声がいくつか返ってきた。
「まあ、やられた奴はほとんど返事もできないだろうがな」
年配冒険者はソウヤを見た。
「改めて、よく来てくれた! 俺はモッシマーだ。あんたは?」
「ソウヤだ。白銀の翼リーダー。Aランク。……あんたがギルマスか」
「そういうことだ。よく俺がギルマスだってわかったな。あ、ギルドで聞いてきたか」
「名前だけはね。補給物資も持ってきた」
「そいつはありがたい。正直、戦力も心もとなくなっていてな。あんたらが来てくれたから、もう少し頑張れそうだ」
モッシマーは、登ってくる巨人族を睨む。
「あいつらをぶちのめすのを手伝ってくれ」
「そのつもりだ」
ソウヤは斬鉄を構える。すでにミストは再度の突撃を敢行。カリュプスメンバーも巨人迎撃に向かっている。
「あの娘、かなり強そうだが、ちょっと突出し過ぎじゃないか?」
「彼女はああ見えてタフだ」
ミストを心配しただろうモッシマーに、ソウヤは答えた。
「ところで、あのサイクロプスは何をやってるんだ……?」
魔法武器を使ってから、前に出るでもなく、その場をやや下がっている。モッシマーは口元を歪めた。
「あの武器は連射できねえみたいでな。ああして後ろに突っ立っているんだよ」
「面倒だな」
前に出ている巨人族やゴーレムで壁を作っている間に、魔法武器をチャージするという戦法なのだろう。後ろにいて安全を確保しつつ、機会をみて撃ってくる。
――その安全が安全でないところを思い知らせてやろう。
「ライヤー!」
「呼んだかい、旦那!」
魔法ライフルを抱えたライヤーがやってきた。ソウヤは奥のそれを指し示した。
「あそこで光っている奴。一つ目野郎が、さっきの電撃の使い手だ」
「さっきの雷は凄かったな」
ライヤーはライフルを構えた。
「あいつをやればいいのかい?」
「やれるか?」
「少々距離があるから倒せるかは微妙だが、まあ、何とかなるだろ」
片膝をついて、姿勢を安定させるライヤー。狙撃をするように呼吸を整え、引き金を引いた。
魔弾が放たれ、それは一直線に奥にいるサイクロプスを襲った。輝きを取り戻したつつあった魔法武器がポトリと落ちたのが見えた。ついでその巨体がたたらを踏んで倒れる。
「でかい目ん玉だ。ありゃ脳味噌までぶっ飛んだかもな!」
「ナイスショット!」
いい腕だ。ソウヤはライヤーを褒める。
これで後ろに引っ込んでいる厄介なサイクロプスが退場した。
「あとは前に出たやつを叩き潰すのみだ!」
「こっちが潰されなければいいがな」
モッシマーが軽口を叩いた。その表情に怯えは欠片もなく、熟練の冒険者特有の不敵さがあった。
ソウヤたちは逆襲に転じて、オーガやジャイアントなどを撃破していった。
・ ・ ・
斜面に陣取るクリュエルの冒険者と白銀の翼。負傷者は運んできたポーションなどで治療。それで復帰できる者は残り、さらなる手当てが必要な者は、ソウヤたちと一緒にやってきた増援の中の下級冒険者たちが後送した。
ソウヤは運んできた補給物資を置いて、クリュエルの冒険者たちと休息をとる。
「あとどれくらいいるんだ?」
「さあ、皆目見当もつかない」
モッシマーは、腹ごなしとばかりに、串焼き肉を頬張る。
「――今までは防戦で手一杯だったからな……これ、うまいな!」
「うちの焼き鳥肉は評判がいいんだ」
ソウヤは銀の翼商会特製の味噌汁を椀によそった。
「このタレがいいんだな。まさに世界が変わる味だ」
モッシマーは太鼓判をおす。
「これを知ってしまうと、携帯食に手を出す気にはなれんな」
「一応、それも野戦食なんだがね」
お外で食べられるお手軽食である。モッシマーは味噌汁を飲んだ。
「こういうのを元気が出るメシって言うんだな」
「それはどうも」
それはそれとして――ソウヤは話を戻した。
「今回の巨人族の発生について、原因はわかってるのか?」
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