第258話、巨大な何か


 クリュエル近郊のダンジョンにおける、巨人族の襲来――その原因について、モッシマーは答えた。


「わからん。どうしてこうなっているのかもな。そもそも、オーガとジャイアント、それとゴーレムが寄り集まるってのが異常なことだ」


 オーガは鬼。ジャイアントは巨人。ゴーレムは人工的に作り出された人形。


「サイクロプスがいた。あれが統率しているとか?」

「ジャイアントは巨人族のよしみでわかるが、鬼が一緒になる理由がわからん。ゴーレムは……そうだな。もしかしたらサイクロプスが作ったものかもしれん」


 異なる種族が共同戦線を張る。自然界では滅多に発生しない事態だ。しかし、様々な種族の寄り集まりで言うのなら――


「魔王軍か、それに関係している連中」

「まさか!」


 モッシマーは驚いた。


「魔王は十年前に勇者に倒されたはずだ!」

「新しい魔王が生まれるかもって話だ。ここ最近、魔族の動きが活発だし」

「……確かに」


 ギルマスは顎に手をあてた。


「魔王軍だと言うなら、オーガとジャイアントが一緒にいてもおかしくないか。もし今回の騒動が魔族の仕業だとすると、狙いは何だ?」

「王国の混乱だろう」


 ソウヤは、これまでの魔王軍残党の動きを思い出す。


「騒ぎを起こして、人間側の戦力を削りにきているのさ」


 もし、巨人族の迎撃に失敗して、クリュエルの町が破壊されるようなことになれば、エンネア王国も軍を派遣するほどの騒動になる。


「ふむ……」

「もっとも、今のところただの推測だ。実際に行って確かめるしかないだろうな」

「そうだな」


 モッシマーは同意した。


「幸い、あんたらが加わってくれたことで戦力も揃った。こちらから敵さんのもとに乗り込んで、さっさとケリをつけるべきだ」

「異議なしだ。長引かせるのはよくない」


 話は決まった。ソウヤは仲間たちに声をかければ、みなまだ元気だった。巨人族相手にびびっている者はいない。精神的にもタフな連中だと、ソウヤは思う。


 クリュエルの冒険者たちと共に移動を開始。ソウヤは歩きながら、手早く手紙に伝言を書き入れる。


 ミストが聞いてきた。


「何を書いているの?」

「宿をとりに行った連中に、伝言をな」


 カーシュやセイジは、ソウヤからアイテムボックスを渡されている。共有空間の転送ボックスで、こちらの状況を伝えるのだ。


 いつまで経っても合流しないと、向こうも何かあったのでは、と心配するだろうから。



  ・  ・  ・



 斜面を下り、先へと進む。ミストの魔力眼での捜索で、巨人族の居場所を割り出す。


 地元冒険者たちは自分たちで作った地図を見ながら、ミストの誘導に従ったが、途中、彼らは違和感をおぼえた。


「……こんな道、地図にはないぞ!」


 地元勢がざわめくなか、ソウヤは表情を引きつらせた。


「何か、最近そんなのあったぞ……」


 確か、ドワーフの村の近くのダンジョン。そのあるはずのない道の先で、影竜と出会った。


「まさか、またドラゴンの住処だったり?」

「そうそうあることではないと思うが」


 ジンが視線を向ければ、ミストは魔力眼を使ったまま言った。


「今のところ、ドラゴンの姿はないわ。安心しなさい」


 ニヤリと笑みを浮かべてみせるミスト。


「……この先に広い空間がある」

「何かいるか?」

「いいえ」


 一行は、その空間に出る。アズマが「でけぇ」と声を出した。


 警戒はするが、ミストの言っていたとおり、巨人族や他のモンスターなどの姿はない。


 しかし、正面の行き止まりとなっている壁には、大きくくり抜いたような跡があった。


「……これは何だと思う?」


 ソウヤは首を傾げる。ガルがしゃがみ込んだ。


「つい最近掘られた跡がある」

「なんか、ドでかい御神体でもあったような形だな」


 そう言ったのはライヤーだ。彼は十メートルくらいの高さを見上げる。


「でっかい像でもあったような雰囲気なんだよな……」


 冒険者たちも周囲を探すように散る。またもアズマが「でけぇ」と言ったので、そちらを見る。


「見てくださいよ。ここにでかいツルハシがあります」


 アズマが指さした先には、ツルハシがあった。成人男性の背丈にも達する大きさのものが。


「巨人用ですかね?」

「何だあ、巨人やオーガが穴掘りでもしてたってか?」


 ライヤーが、そのツルハシを検分する。


「土も新しい。ついさっきまで使ってたなこれは」

「つまり――」


 ジンが口を開いた。


「巨人族はここで何かを掘っていた」

「何かって?」


 モッシマーが話に加わってくる。老魔術師は首を横に振った。


「さあて。だが連中は、ここにあった何かを掘り出して、持ち出したようだ」

「何かは知らないが、かなり大きな代物だ」


 ライヤーは眉をひそめる。


「でも、相当でかい代物なら、ここから運び出せるのか……?」


 通路を通過したのか。しかし、他に出入り口もなく、ソウヤたちはそれと遭遇もしなかった。


「転移魔法じゃないかしら」


 ミストが虚空を睨んでいる。


「魔力の残滓がある。状況から見て、転移して運び出した可能性が高いわ」

「……転移となると」


 ソウヤは腕を組んだ。


「ますます魔族の仕業くさいな。ここで何かを発掘している間、人間を近づけないように、オーガやジャイアントを差し向けた」

「すると、あの巨人どもはクリュエルを攻めるのではなく、単に時間稼ぎをしていたということか」


 モッシマーが唸った。


「そうなると、ますますここにあったものが気になるぜ」

「魔族の仕業だったとして、連中が欲しがる何かがあったってことだからな……」


 嫌な予感しかしないな。ソウヤの呟きに、一同は頷いた。


 巨人族も転移か何かで消えたらしく、クリュエル冒険者ギルドを騒がした事件は、ひとまず終了となった。

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