第254話、新たな町へ到着


 かつての仲間、メリンダが意識を取り戻した。


 十年の歳月は、この元女騎士をネガティブにさせたため、ソウヤはメリンダの故郷と家族の現在の情報を、カマルに問い合わせた。


 時間がかかるかと思いきや、意外に早くその返答がきた。


 返事の手紙には、聖女レーラの力で復活したと聞いた時から、メリンダらの家族などの最新情報を集めていたと書かれていた。


 意識を取り戻すのは時間の問題だったから、あらかじめ用意しておこうということらしい。


「……」


 ソウヤは、カマルからの手紙を読んだ。


 メリンダの故郷では、彼女は魔王との戦いに殉じた騎士であり、国の誇りとして英雄として崇められているという。


 家族は健在。しかし、メリンダが危惧したとおり、かつての恋人は別の女性と結婚していた。


 お相手はメリンダの妹であり、ふたりの子供がいるという。


「……」


 ちら、とソウヤはメリンダを見やる。


 暗い表情で聞いていた彼女は、フッと息をついた。


「死のう……」

「待て待て、早まるな!」


 ソウヤとカーシュで、首をくくろうとしたメリンダを止めた。


 ――どこから取り出した、その縄!


 せっかく助かった命なのに自殺とか、レーラに申し訳ないと思わないのか。


 メリンダが十年前の魔王との戦いで瀕死の傷を負った時、すでに聖女レーラはアイテムボックス内だった。


 その彼女が、一度復活し、メリンダらを救った話をソウヤはした。そのレーラは、魔力欠乏により、再びアイテムボックス内に収容されている、そう告げたら――


「何故、私なんかを助けて、レーラ様がまたも眠らなければならんのだ!」


 と、自虐なんだかわからないようなことを言いつつ、少しだけ落ち着いたようだった。


 しかし――


「恋人を妹に寝取られた私が、いまさら故郷になど帰れるものか」


 完全にふてくされモードだった。ソウヤはため息をつく。


「しばらくここにいるといい」


 住むところと食事は用意する。


「今後どうするかは、自分で考えろ。オレも目覚めたら十年経っていた口だが、何だかんだで行商をやってるしな」

「……」

「眠っている間に、王様が変わってて、ビックリしたぞ!」


 ソウヤが笑い飛ばせば、メリンダは引きつった笑いで答えた。


 ともあれ、二人の元勇者の仲間が目覚めた。残すは二人のみ。



  ・  ・  ・



 アイテムボックス内でのその三。ジンとライヤーが取り組んでいた魔力式ジェットエンジンの一号機が完成した。


 その報告に接し、ソウヤは相好を崩した。


「やったな! お疲れさん」

「まだ、テストなどやることが山積みだがね」


 老魔術師は顎髭を撫でた。


 きちんとエンジンが動くか、所定の性能を発揮するか、問題がないか、テストを行うらしい。


 アイテムボックス内に、新たに実験スペースを作り、さっそく各種テストを実施してもらう。


 周囲と隔離した実験スペースを作ったのは、爆発事故を起こしたことがある前科のあるエンジン故である。


 試験するジン、ライヤー、そしてフィーアに万が一のことがないように、厳重にシールドをしてやってもらう。


 何もかもうまくいけば、ゴールデンウィング二世号がいよいよ全力を発揮して空を翔ける日も近いだろう。


 とても楽しみだ。ソウヤはご機嫌だった。



  ・  ・  ・



 さて、銀の翼商会一行は、浮遊バイクとトレーラーで移動を続けていた。途中、集落を経由した後、到着したのがクリュエルの町。


 町の周囲を強固な外壁で守られた城塞都市だ。


「この町の先に、ダンジョンが存在する」


 ソウヤは、事前に仕入れた情報を、仲間たちに披露した。


「サナーレ山の麓に地下への入り口があって、そのダンジョンの中に精霊の泉が存在する」

「ダンジョン」


 ミストが鼻をならした。


「それはまた難儀なところにあるわね」

「ああ、最深部ではないにしろ、中々深い場所にあるらしい」


 空から行くとかできないので、ショートカットはできないだろう。真面目に攻略していくしかない。


 ソウヤは仲間たちを見回した。


「というわけで、きちんと準備してダンジョンに挑むことになる。各人、そのつもりで」


 クリュエルの町に到着。皆には休息と自由時間を与えて、ソウヤは冒険者ギルドへ向かった。


 ミストとガルが同行する。


「何だか、どこかで見た建物ね」

「わかりやすくていいんじゃね」


 初めての町でも『それ』とわかるのは心強い。クリュエルの冒険者ギルド内は、かなり広かった。


 さすがダンジョンがある町だけあって、冒険者の仕事に事欠かないのだろう。ギルドの広さで、だいたいの規模を推測できるというのは、かつて冒険者でならした仲間の言葉だったりする。


 地元冒険者は、ソウヤたちに気づくと観察してくる。見慣れない人間がやってくれば注目するのは当然と言える。


 そんな視線を意に介さないという態度のミスト。一方でガルは、敵対的な視線がないか警戒を露わにする。暗殺者だった頃の性分というやつだ。ソウヤと同行している時のガルは、SPよろしく護衛を務めている。


「まずは掲示板を見るか」


 地元のダンジョンや情勢を知るには、ギルドの掲示板を見るのが手っ取り早い。クエストという問題が、雄弁に何が起きているのか物語るのである。


「ふーん、予想はついていたけれど、ダンジョン絡みのものばかりね」


 ミストは皮肉げに口元を歪めた。モンスターの討伐クエスト系と、採集系のクエストが多い印象だ。


 前者は、出現するモンスターの種類がわかるし、後者は、資源が豊富なダンジョンであることを示している。


「依頼書でわかる、ダンジョン」


 ソウヤたちは、特に受けるでもなく、掲示板のクエストをじっくりと見て、情報を収集。そうやってある程度の知識を得た後で、ギルド職員に声をかけてさらに情報を集めるのだ。

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