第255話、アルリーンの依頼
クリュエルの町の冒険者ギルド内。ソウヤは情報収集のためにギルド職員に話しかけた。初めてということで、自己紹介がてら冒険者プレートを見せる。
「Aランク! あの、ヒュドラ殺しの白銀の翼さん!?」
「そう、そのヒュドラ殺しの冒険者で、銀の翼商会という行商もやってる」
驚く受付嬢にそう言ったら、奥の部屋に通された。一階フロアで立ち話をする内容ではない、ということだろうか。Aランクの冒険者に挨拶しておきたいというギルドの思惑か、などとソウヤは考える。
出てきたのは、ギルド長補佐でアルリーンと名乗った。
「お初にお目にかかります」
丁寧な挨拶をした彼女は、キャリアウーマンを連想させるキリリとした女性だった。
「白銀の翼様が、クリュエルに来られたのは僥倖。ぜひとも現在、当ギルドが遂行中の討伐クエストに参加していただきたく、お願い申し上げます」
なにやら、穏やかではないものを感じた。クリュエル冒険者ギルドが遂行中、というのは、上級冒険者を招集した大規模討伐か。
最近、ダンジョンがある町は、どこもなにがしら事件が起きている気がする。
「何があったんです?」
「巨人族の襲来です」
――巨人族?
聞けば、身長が三から五メートル越えのジャイアントや、サイクロプスといった一つ目の巨人、オーガなどが多数発生し、それがダンジョンの外に出て来ようとしているらしい。
ダンジョンスタンピードというほど大量ではないが、なにぶん個々の化け物が強いので、上級冒険者らが総出で迎撃に向かったらしい。
「我がギルドのマスターであるモッシマーも、陣頭指揮をとって、いまダンジョンで戦っています」
ちら、とアルリーンの目が、ソウヤからスライドして横にいるミストを見た。何事かと思いソウヤもそちらを見れば、ミストは獲物を前にした肉食獣よろしく、目をキラキラさせていた。
巨人族と戦えると聞いて、すでに戦闘狂の血が騒いでいるようだった。
後ろにボディガードのように控えているガルは、例によって無表情である。
「つまり、オレらでここの冒険者たちと巨人族を撃退すればいいわけですね?」
「はい。もちろん、撃破数に応じて報酬をお支払いいたします」
アルリーンは心持ち表情を曇らせた。
「前線からの報告では、長丁場になりそうとのことで、戦っている冒険者たちへ食料や武器、薬品の補充をする予定です」
長丁場――つまり、現有戦力でも手こずる規模の敵がいるということだ。
「ついては、白銀の翼様には、援軍の前に、補給品を運ぶ輸送隊の護衛もお願いできますでしょうか?」
「輸送隊ですか」
ソウヤは思わず片方の眉を吊り上げた。
「もしよければ、我々で運びましょうか? 白銀の翼は、銀の翼商会と言って行商や輸送も仕事にしています。アイテムボックスがありますから、それなりの量を運べますよ」
危険なダンジョンに輸送人員を送らなくて済む、とソウヤは提案した。アイテムボックスとは言ったが、もちろん容量無限や時間経過無視などは黙っておく。
「それは……」
アルリーンは、言葉を詰まらせた。一瞬よぎった不安の表情に、ソウヤは快活に答えた。
「もし、オレらで不安があるなら、見張りを寄越してくれてもいいですよ?」
こちらが物資を持ち逃げするかも、と心配したのだろう。何せ、ソウヤたちは今日初めてクリュエルのギルドにやってきたのだ。Aランク冒険者といえど、よそが発行したそれを鵜呑みにできないこともある。
「わかりました。こちらから援軍として派遣する者たちがいますので、それらと一緒に物資輸送もお願いいたします」
「引き受けました。……ああ、それとこちらからも、ひとついいですか?」
「何でしょう?」
首を傾げるアルリーン。ソウヤは言った。
「オレらは、ここのダンジョンに精霊の泉があると聞いてやってきたのですが、それがどの辺りにあるか教えてくれませんか? もちろん、巨人族撃退のクエストは果たさせていただきますが」
・ ・ ・
休息を与えたら、割と緊急な依頼が舞い込んでしまった。
上級冒険者パーティーというのも、なかなか大変だ。
さて、現在の仲間たちの状況。ソウヤに同行したミストとガルは、即時行動が可能。
アイテムボックス内には、飛空艇のメンテをしていたライヤー、フィーア、アズマ。休息や仮眠をとっていたオダシュー、アフマル、グリード。そして何やらゴーレムをいじっていたジンがいた。
メリンダとコレルは、まだそっとしておく。
セイジ、カーシュ、ソフィア、リアハ、ハノ、トゥリパは軽い観光と宿の確保に町に出ていた。
「宿?」
アイテムボックスハウスがあるのに?――首をかしげるソウヤに、オダシューは答えた。
「何でも、このクリュエルには温泉宿があるらしいですぜ。で、女たちは旅の癒やしに温泉に入るんだって言ってました」
「温泉か」
いいな、とソウヤは思った。アイテムボックスハウス内には風呂もあるから、銀の翼商会の面々は清潔を保っている。
しかし、温泉となれば、ぜひ入っておきたい。
女性陣が、という話だが、セイジは買い出し担当だし、カーシュは護衛といったところだろう。
「まあ、いいや。オレらはこれからダンジョンに向かい、冒険者たちを救援する」
アイテムボックスに残っているメンバーに、冒険者ギルドでの依頼内容を説明するソウヤ。
ダンジョンで暴れている巨人族を倒し、冒険者らを救援する。いや、冒険者たちを救援しながら、巨人族を倒す、か。
「巨人族ですか」
オダシューは心持ち顔をしかめた。
「それはまた面倒ですね。個々の身体能力じゃ、人間にはきつい相手です」
「スピードでかいくぐる」
ガルが言えば、アズマが「そりゃお前さんはね」と苦笑した。ソウヤは言った。
「まあ、正面からの力押しで来る奴なら、オレとミストが引き受けるさ」
当然、という顔をするミスト。美少女の姿でもパワーはドラゴンのそれだ。ライヤーが口を開いた。
「どうせ図体がでかい近接野郎だろ? おれの銃や後ろから魔法で攻めりゃ、何とかなるって。なあ、ジイさん」
「相手がパワーファイターなら、こちらにもゴーレムがある。それを前に立たせれば時間稼ぎはできるだろう」
そう老魔術師は頷いた。そういえば、ジンは集まる前もゴーレム『アイアン1』を調整していた。カーシュという前衛の盾が不在の今、ゴーレムを前にというのはいい案だとソウヤは思った。
「よし、それじゃ行くぞ」
銀の翼商会=白銀の翼は、ダンジョン……に行く前にクリュエル冒険者ギルドに寄る。突入メンバーが決まったので、補給物資の受け取りと、道案内を確保する必要があったのだ。
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