第247話、本日は雷が降る


 ゴールデンウィング二世号は空にあって、カルデインの町へと接近した。


 補助である四基のレシプロ機関が飛空艇を進ませるが、高速ターン用の小型なものなので、本来の速度には遠く及ばないノロノロぶりではあった。


「早くメインのエンジンが欲しい!」


 ライヤーが操舵輪を手にぼやいた。思う存分飛び回れるのは、まだまだ先になる。

 ソウヤは伝声管に呼びかける。


「各砲座、まもなく町の上空だ! 射界に入っている敵は全部ぶっ飛ばしていいからな!」


 ただの管なのだが、これで飛空艇内を通って、声を届けるのである。


 下方に向けられる砲は六門。古代文明時代の兵器である電撃砲には、それぞれ砲手として人員を配置済みだ。


 それぞれの砲がある部屋の伝声管から返事がくる。


『右舷二番、準備よし!』


 オダシューの声だ。


『右舷三番、準備できました!』


 こちらはセイジだ。


『前部下方砲、準備よし』

『左舷二番、問題なし』


 カーシュに続き、アズマ、ハノ、グリードと、左舷側と後部下方の砲の準備が整ったと報告がきた。


「ようし、吹き飛ばせ!」


 ソウヤが命じると、ゴールデンウィング二世号の側面砲と下部の前後に配置された砲が、雷にも似た電撃を発射した。


 地面に激突。そこにいたゴブリンを複数まとめて貫き、焦がして土砂を舞い上げさせた。


「うおっ、こいつは……!」


 なかなか、というより先代のゴールデンウィング号の電撃砲より強いのではないか。ソウヤは眼下を見下ろし、目を丸くする。


 同じく甲板から見下ろすリアハとソフィアが、一瞬言葉を失った。


「飛空艇って、こんな凄いんだ……」

「私も初めて見ました。グレースランドにも飛空艇はありますが、武器を使ったところを見たことがなくて」


 ふたりは驚きを隠さなかった。


 電撃砲が唸り、地上のゴブリンたちがなぎ払われていく。直撃すれば炭化し、即死ものの強力な電撃が、容赦なくゴブリンを葬る。


 まさに、敵は手も足も出ない状態だった。弓矢を手に果敢に反撃する者もいたが、むなしく矢は返ってきて地面に突き刺さる。


「制空権って言葉は聞いたことがあるが……」


 ソウヤは、口元を引きつらせた。


「こうまで一方的になるとはな」


 地上の敵に対して、航空兵力は圧倒的に有利――それを目の当たりにしている。召喚される前のテレビなどで見た程度の知識しかないソウヤである。


 振り返れば、十年前の魔王軍との戦いでも、飛空艇は使用されていた。しかし、その目的は移動手段と、空中の敵に対抗する意味合いが強かった。地上での大規模な会戦などで、使用された例は多くなかったと記憶している。


 第一に、飛空艇の数自体が少なかったこと。第二に、地上への攻撃手段が、空から岩を投げたり落としたり、あるいは矢を射る程度しかなかったことがあげられる。当時は、電撃砲の数が少なすぎて、対地支援には用いられなかったのだ。


 ――このあたり、王国の戦術はどうなっているんだろうな……。


 十年前とは、その戦い方も変わっているかもしれない。転送ボックスで、アルガンテ王に手紙を送って聞いてみようと思った。


 ソウヤが考え込んでいる間にも、飛空艇の砲撃を浴びて、ゴブリンたちが蹴散らされていく。


「楽をするとは言ったが、まさかここまで楽をさせてもらえるとはな」


 このまま何もなければ――とソウヤは感じたが、ミストが唸った。


「ヒマだわー」


 ジト目で、下の様子を見やるミスト。


「初めは、見世物みたいで面白かったんだけど、やっぱりワタシは見ているより直接暴れたいわ。ねえ、ソウヤ?」

「……少し待て」


 まさかドラゴン形態で、町の上空を飛び回るつもりか。ただでさえ、ゴブリンと交戦状態にあるカルデインの町の住人を、無用に刺激してしまうのではないか。


 ――いや、ドラゴン姿で町を救援するのもありか……?


 ドラゴンという存在は、人間から魔獣のように見られている節がある。一種独特な立ち位置のドラゴンに対して、敵ではないというアピールになるかもしれない。


 包囲された町を救うドラゴン!


 ――……無理があるか。


 何故、ドラゴンの地位向上じみたことを考えたのだろうと、ソウヤは思った。別に頼まれたおぼえもないし、そもそも、人間とみれば問答無用に襲いかかるドラゴンも多い。


 ミストは暴れたいようだが、その前に――ソウヤは、船から放たれる電撃弾を見やる。


「あれが後どれくらい使えるかによるんだよな」


 電撃砲のエネルギー源は魔力である。各砲にチャージされている魔力の分だけ撃つことができるが、それがなくなれば再チャージしなければ使えなくなる。


 ソウヤは伝声管を使う。


「各砲座へ。砲の状況と魔力残量を報告してくれ」

『――こちら左二番、残量、およそ半分!』

『前方下方砲、残り魔力は三分の一ほど。砲自体は問題なし』


 次々と報告がくる。連続使用によるトラブルや異常は特に見られない。しかし魔力は全ての砲は半分を切っていた。


 ソウヤは地上の状況を見やる。ゆっくりと町の上を旋回するように動くゴールデンウィング二世号。町を包囲しているゴブリン軍団を順番に吹き飛ばしているが、おおよそ半分程度は撃破したように思える。


 ――しかし、敵は逃げんなぁ。


 これだけやられたら、戦線が崩壊して逃走してもおかしくないのだが、ゴブリンはまだ町攻めを続行している。


 包囲しているから、反対側にいる連中には味方が蹂躙されているのがわからないとか。もしこのままゴブリンどもが留まった場合、電撃砲のエネルギーがもたないかもしれない。


「了解。魔力が切れるまで攻撃は続行。切れたら別の手を考えるから、ケチらずにドンドンやってくれ」


 ソウヤは、伝声管で指示を出した後、ミストに振り返った。


「もしかしたら出番があるかもしれないから、それまで観戦しててくれ」

「じゃあ、出番はないかもしれない?」

「そうだと楽観したいが、あいにく、うまくいかないのが世の常というやつさ」


 苦笑するソウヤに、ミストは肩をすくめた。


「それもそうね。あまり期待しないで待っているわ」


 手をヒラヒラさせるミスト。ソウヤはソフィアを見た。


「電撃砲が切れても、まだ敵が残っているようなら魔法で地上を攻撃するかもしれない。準備しておいてくれ」

「はーい」


 ソフィアが頷くと、彼女の隣にいたリアハが手を挙げた。


「ソウヤさん。私は?」

「この高さから地上に届く魔法が使えるなら、同じく待機で」

「わかりました!」


 うちの若手は実に積極的だ。ソウヤは、眼下のゴブリン軍団が、為す術なく屍と化していくさまを見下ろす。


 ――ゴブリンと言うのは小賢しいと言われているが、こいつらまったく学習する気がないよな……。

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