第246話、町がピンチでした
カルデインの町を目指したソウヤたち銀の翼商会一行だったが、町を手前に足止めを強いられた。
それというのも――
「……完全に包囲されてるね」
ジンが遠距離視力の魔法で、遠くにそびえる町の外壁と、その周りを囲むゴブリンの大軍団を見つめる。
「どうやら、我々が戦った連中は、これの別動隊だったようだな」
「参ったな……」
ソウヤは頭をかく。
「まさか、町が攻撃されている場に出くわすとは」
距離があるため、ソウヤたちはゴブリンに気づかれてはいない。
「ソフィア、どうだ?」
「使い魔によると――」
カルデインの町の上空をグルリと鳥型使い魔を飛ばした赤髪の美少女魔術師は答えた。
「ざっとみて二千後半か三千体くらいいるみたい」
「まさに大集団、ですね」
リアハが顔を曇らせる。ガルも口を開いた。
「先ほどのような戦いは、できない。数があまりに多すぎる」
「ワタシは平気よ」
ミストは言ったが、ジンは苦笑する。
「そりゃドラゴンの力には敬意を示すがね。私やソフィアの魔力がもたんよ」
広範囲魔法といえど、町を取り囲む大集団ともなれば、一発や二発で敵を殲滅させることはできない。ソフィアは魔力が人より豊富だが、無限に撃ちまくれるわけではない。
ライヤーが腕を組んだ。
「さっきので結構、魔法弾使っちまったからなぁ。旦那、おれはさっき以上の戦いはできないぜ」
大きな怪我もなく切り抜けたとはいえ、今日これから戦うなら連戦となる。体力や武器が消耗している。
「迂回するのも、ひとつの手だと思うが」
「それは――」
リアハが息を呑む。
「ゴブリンに襲われているあの町を見捨てるということですか?」
「まあ、端的に言うと……そうだな」
ばつが悪そうなライヤー。
「町だって籠城しているわけで、ゴブリンがいかに多くてもある程度持ちこたえられるだろう。王国だってここでのことを知れば救援を差し向ける。おれらが無理して突っ込んで犠牲になることはねえと思うが」
「通報しているのだろうか……?」
カーシュが呟いた。ライヤーは首を振る。
「おいおい、いくら何でもこれだけのゴブリンが来たんだ。町の連中が近場の町や王都に伝令を走らせないわけがねえよ」
ダンジョンスタンピード級の敵の襲撃である。平原だらけのこの周辺の地形から、ゴブリン軍団は、かなり早い段階で発見できたはずだ。最悪、包囲されるより前に伝令を出すことはできたと思われる。
「でも我々は、そういう伝令と会っていない」
ここまでの道中を思い出すカーシュ。旅人や商人を何人か見たが、それらは皆ゴブリンのことを知らなかったし、王都方面へ急ぐ伝令も見ていない。
「何らかの事情で、伝令を出せなかった?」
「あるいは、その伝令が道中、事故ったか、敵にやられてしまった可能性もあるな」
ジンが首をひねった。
「まあ、この際それはどうでもいい。肝心なのは、伝令が機能しなかった可能性が高く、つまりこのゴブリン軍団の存在の通報が届いていない可能性が高いということだ」
通報されなければ救援も援軍も来ない。ゴブリン軍団に襲われているカルデインの町が、自力で何とかしないといけない。
「さすがに見て見ぬフリは、できんな」
ソウヤは、じっと町とそれを取り囲むゴブリン軍団を眺める。
「かといって正攻法でどうこうというのは、さすがにこっちの損害も覚悟しなくちゃいけない」
「迂回はなしか? お前はどう思う?」
ライヤーがオダシューを見れば、彼は肩をすくめた。
「おれらは、聖女様を復活させるために行動していますからねぇ。……ここで犠牲を出して、目的が果たせなくなるのは本末転倒じゃねえでしょうか」
「もう、辛気臭いわね」
ミストが手を腰に当てて、仁王立ちになる。
「ワタシが空からブレスで掃除してきてやるわよ。それなら、誰も犠牲になんてならないわ」
「でもさすがに三千近くも敵がいるんだ。ひとりじゃ大変だぞ」
ソウヤは首を横に振った。いくらドラゴンのスタミナが尋常なものではないにしても、ひとりに押しつけるのはよろしくない。
「でも、いいことを聞いた。確かに空からなら、ゴブリンも弓矢程度の反撃しかできない。楽して勝とうじゃないか」
ほう、とジンが腕を組んだ。
「何か名案でも?」
「ゴールデンウィング号を使おう」
飛空艇には備え付けの電撃砲がある。地上への攻撃も可能だ。いわゆる艦砲射撃というのを見舞ってやるのだ。
「飛空艇を? 旦那、まだエンジンがついてないんだぜ?」
ライヤーが反論するが、ソウヤはニヤリとした。
「町の上空をゆったり飛行するだけなら、スピードはいらない。補助エンジンだけで充分だ。最悪、浮いているだけでもいいんだ。敵の攻撃が届かない場所から一方的に攻撃してやるんだからな!」
「素晴らしい。名案だ」
ジンがソウヤの肩を持った。
「安全な場所から攻撃できるのが気に入った。我々、魔術師組も、休みながら魔法で攻撃もできるだろう。多少時間がかかるだろうが、うまくはまれば、こちらの損害はゼロにできるかもしれない」
「そういうこと」
ソウヤは、皆から少し離れて、アイテムボックス内を操作。整備場から飛空艇『ゴールデンウィング二世号』を出した。
ドン、と巨大な飛空艇が平原の一角に姿を現す。
「ようし、皆、船に乗ってくれ。ライヤー、舵取りは任せるぞ」
「了解、旦那! ……フィーア、先に行って補助エンジンに火を入れろ!」
ライヤーが駆け出し、甲板から垂らしてある縄梯子を登った。機械人形のフィーアは背中からジェットパックを展開して飛び上がると、一足先に甲板に着地。船内へと急いだ。
「さて、町を助けにいくぞ」
他の面々も飛空艇に乗り込む。置いてけぼりになってしまう浮遊バイクとトレーラーは、ソウヤがアイテムボックスに回収。結果、乗り込むのが最後になってしまう。
「それにしても――」
最後に梯子を上がったソウヤに、リアハが手を伸ばした。
「よくもまあ、こんなことを思いつきますね」
「悪くないだろ?」
「ええ。本当、あなたがいてくれて、とても頼もしいです」
グレースランドの姫騎士は、朗らかに笑った。
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