第245話、敵性集団、現る
銀の翼商会は街道を西進していた。
その道中である。ゴブリンの大集団と遭遇してしまった。
「……なんて数だよ」
ソウヤは、平原を進むひとつの大軍団の姿に息を呑む。数百はいるだろう。武装したゴブリンの軍が、街道を進撃中だった。
このまま行けば、双方激突である。
ミストが浮遊バイクに乗ったまま、口元を引きつらせた。
「これも魔王軍の残党?」
「残党ってレベルじゃありませんぜ」
オダシューが浮遊トレーラーの上から言った。
「こりゃあもう、ひとつの軍隊じゃないですかね」
「ゴブリンってのは繁殖力が凄いらしいからな」
ソウヤはコメット号から見えるゴブリン軍団を睨む。
「どこかで大発生したか、あるいは魔王軍の仕業か……」
少なくとも、アレを見てしまった以上、見て見ぬフリはできないだろう。街道に沿って移動しているということは、そのうちに集落や町に到着してしまう。
そもそも、このままでは、ソウヤたち銀の翼商会とぶつかる。
「数が多いな」
「さすがにこの数は――」
カーシュは苦笑した。
「一度に相手できる数を超えているよ」
「たかがゴブリン、されどゴブリン」
ミストが皮肉げに言った。
「どう始末をつける? 戦うんだよね、ソウヤ?」
「さすがに素通りとはいかんだろう」
「正気ですかい?」
オダシューが驚いた。
「いくらなんでも、この差は多勢に無勢です」
「そりゃいちいちぶん殴ってたら、切りがないがね。……セイジ、爺さんを呼んでくれ。ソフィア、魔法戦だ。大魔法で、敵の数を減らせ」
ソウヤは言うと、ミストへと視線を向けた。
「ミストドラゴンさんは、空からブレスでゴブリン軍団をなぎ払ってもらいたいね」
ドラゴンブレスと、ソフィア、ジンの広範囲魔法で、かなりの数を減らせるだろう。そこをソウヤたちが物理で掃討する。それでも結構の数がいるだろうが、無策で突っ込むよりは全然いけるだろう。
「こっちはこれでいいとして……何だか嫌な予感がするぜ。ゴブリン連中がここだけならいいが、街道の先の集落とかやられてんじゃないだろうな」
・ ・ ・
角笛らしき音と共に、ゴブリン軍団は、ソウヤたちに一斉に向かってきた。ドタドタと走る姿は、津波の如し。
武器を手に、凶器をちらつかせて、数の暴力で踏み潰してやろうという意思の塊が迫る。
しかし、ドラゴンの襲来は、ゴブリン軍団をあっという間に混沌へと叩き落とした。
ミストが変身した白きドラゴンが、空からブレス攻撃を見舞えば、その範囲にいたゴブリンは灰と化した。
ギャアギャアと悲鳴じみた声は、ドラゴンへの恐怖か。そこへ銀の翼商会は浮遊バイクをかっ飛ばして突撃した。
浮遊トレーラーの上からジンとソフィアが、広範囲魔法を使用。ミストのブレスに負けず劣らず、ゴブリンを次々に吹き飛ばしていく。
ソウヤは先頭きって敵集団に突入。右往左往しているゴブリンを斬鉄で血と肉の塊へと変えていく。
「おっと……!」
えらくガタイのいいゴブリンが、大きな棍棒を振り回す。
「ホブゴブリンか!」
しかし次の瞬間、斬鉄はホブゴブリンの頭を、ボールのようにぶっ飛ばした。
ミストドラゴンのブレス攻撃が反復され、ゴブリン軍団の数は減っていく。ジンとソフィアの魔法で集団を消し飛ばせば、範囲の外にいた幸運なゴブリンがその隙間をついて攻めてくる。
だがライヤーとフィーアの狙撃が遠距離からお出迎えだ。魔法ライフルを構えたライヤーは、向かってくるゴブリンをすぐさま照準に収めると一撃で仕留める。
いま使っているのは雷の魔法が込められた弾。その魔法を封じ込めていた薬莢を排出し、次の弾を装填。そして次の標的を狙う。
そんな遠距離からの銃撃をよそに、数で迫るゴブリンたち。だが、リアハの魔法とセイジのカード攻撃が、それを許さない。
攻撃魔法の込められたカードを使うセイジ。一方のリアハは、広範囲魔法こそ使えないものの、光の球を打ち出す魔法で、一体ずつ的確にゴブリンを倒していく。
さらにガルたちカリュプス組が、ゴブリンの残敵を文字通り掃討していった。
ソウヤとカーシュは浮遊バイクで最奥の敵集団に突っ込み、これまた蹴散らしていった。
「ゴブリンメイジだな」
魔術師のゴブリンがファイアボールを放つが、ソウヤは斬鉄で、カーシュは盾で敵の魔法を弾いた。
邪魔なゴブリンガードをミンチにして、ゴブリンメイジに肉薄!
「終わりだ!」
魔術師ゴブリンを撃破し、ソウヤは振り返る。
完全勝利。ゴブリン軍団は壊滅した。
「やっぱ平原の戦いだと、ブレスとか広範囲魔法が強いな」
ソウヤが素直な感想を呟けば、剣についた血を払いながらカーシュは言った。
「グレースランドの王城とかだと、丸っきり魔法が使えなかったからね」
適材適所。状況や場所によって有利不利は存在するのである。
「それにしても、この先どうなっているんだろうな。心配だ」
「何もないといいんだけどね……」
このゴブリン軍団はどこから来たのか。
ソウヤとカーシュが浮遊トレーラーのほうに戻ると、リアハが手を振った。
「ソウヤさん、カーシュさん、お疲れさまです!」
「そっちは無事かい?」
「無事です!」
リアハが笑みをこぼした。
「ほんと、ここの人たちって凄いですね! 十数人程度で、数百のゴブリンに勝つなんて、普通あり得ないですよ」
「頼りになるドラゴンさんと、魔術師がいるからな」
広範囲攻撃、様々である。
「まったくでさぁ。でも、ボスやカーシュさんの活躍だって目覚ましいものがあります」
オダシューがやってきた。
「いくら魔法で散らしたって言っても、それで敵陣に切り込むなんざ、おれたちには真似できません。しかも正面からなんて」
「なに、お前らが簡単に敵の側面とか背後に回れちまうからな。後ろは安心して任せてるんだぜ」
ソウヤはコメット号に乗る。
「じゃ、少し先を急ごう。戦いの後だ、交代で休みをとっておけ」
「はい!」
浮遊バイク組とトレーラー組に分かれて、それぞれ移動。次の町――カルデインに向かった。
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