第248話、ゴブリン大発生の謎
ゴールデンウィング二世号からの地上砲撃は、ゴブリン軍団に大打撃を与えた。
ソウヤが心配した魔力切れが近くなったあたりで、ようやく敵集団は壊走。カルデインの町の周囲から撤退した。
ゴブリンがどこに逃げるのか、ソフィアとジンに偵察型使い魔をお願いして追尾させる。
ソウヤは、ゴブリンが逃げ去り歓声を上げている町のすぐ近くに飛空艇を着陸させた。銀の翼商会もとい、冒険者パーティー「白銀の翼」としてカルデインの町を訪れる。
とくに探すなどしなくても、町のほうから声を掛けられた。
「よく、駆けつけてくれました! 助けていただきありがとうございます!」
きちんとした装備をまとうは町の守備隊の人間だろう。
その男は守備隊隊長のピエールと名乗った。彼と、それについてきた守備隊員たちは救援に歓喜し笑みを向けてきた。
「正直、あれだけの大群に囲まれて、どうなるものかと戦々恐々としておりましたが、大事にならずよかったです!」
「それはよかった。町のほうも無事のようで、一安心ですな」
応じるソウヤ。ピエールは頷いた後、首をかしげた。
「……つかぬ事をお伺いいたしますが、あなた方はどこの家の方でしょうか」
この言い回しには、おぼえがあるソウヤである。飛空艇でやってきたから、どこかの貴族の私兵だと思われたのだろう。
「オレらは貴族じゃありません。冒険者の白銀の翼と言って……わかります?」
「白銀……いえ、あっ、もしや、あのヒュドラ殺しの?」
思い出したようにピエールは言った。
「そう、そのヒュドラ殺しです」
知っているなら話は早い。ソウヤは、とある場所を目指している最中に、ゴブリン軍団と遭遇し、カルデインの町にまできたことを伝えた。
「そうでしたか、何はともあれ、助けられました。感謝いたします!」
しかし――と、ピエールは町の外にある飛空艇を見た。
「Aランク冒険者の白銀の翼は、飛空艇を保有していらっしゃるんですね」
「国王陛下から、運用の許可をいただいています。もし不審なら陛下に確認してもらっても――」
「いえいえ、そんな! 滅相もない。不審などとは」
ピエールは慌てて、否定した。今度はソウヤはカルデインの町の外壁を眺める。
「結構、派手にやっていたみたいですが、ゴブリン軍団はいつ現れたんです?」
「町に迫っているという報告を受けたのは三日前です。しかしあまりに数が多く、我々は立てこもり、外部からの救援を待つことにしましたが……」
「そこへオレたちが来た、と」
ソウヤは頷いた。
「外部からの救援を待つって話でしたが、伝令は出したんで?」
「ええ、出しました」
「オレらは王都方面から来たんです、こっちでは会わなかったんですよね。どこへ伝令を出したんです?」
「会わなかった? それは妙ですね。もちろん最終的に王都へゴブリン大発生の報が伝わるように向かわせたのですが……」
ピエールは首を捻った。
「本当に会ってない?」
「ええ、道中に何人か会いましたが、ゴブリンが現れたって話をしている奴はいなかったと……」
「そうなると、道中に何かあったのかもしれませんね」
沈痛な顔になるピエール。
「伝令は届かなかった。もしあなた方が来なければ、我々はいずれゴブリンにやられていた可能性が高いわけですね……」
「そうなるかも……。まぁ、こっちは王都に伝手があるんで、そっちを通してゴブリン軍団の件は報告しましたがね」
カマルと、あと王族専用転送ボックスに、お手紙を出しておいた。
「何から何までありがとうございます! あなた方は、我らの救い主です!」
ピエールは頭を下げ、隊員たちもそれにならった。ソウヤは切り出す。
「籠城という話ですが、物資のほうは大丈夫ですか? 何か不足しているものは」
「いえ、少々怪我人はいますが、籠城自体は昨日からですから、まだ生活に大きな影響は出ていません」
ピエールは腕を組んだ。
「あとは、逃げたゴブリンどもがどう動くか、ですね。まだ様子を見ないといけない……」
また敵が大挙して戻ってくるようなことがあれば、再び立てこもらないといけない。
「そもそも、今回、あれほどのゴブリンが発生した原因もわからないので」
「……」
魔族の仕業だろうか――ソウヤは考える。ゴールデンウィング二世号からの砲撃で、大半のゴブリンを撃破したが、逃げた敵もいる。
もしかしたら、別にまだ大集団が残っている可能性だってある。ソウヤたちが街道で遭遇した部隊も中々の数だった。
「じゃ、オレたちでちょっと調べてきますよ。さすがに大発生の原因がわからないというのは怖い」
カルデインの町の危機が完全に去ったと保証できない限り、おちおち移動もできない。魔王軍の残党が関わっているようなら、なおのことだ。
「ところで……」
ふと、ソウヤは気づく。町の門から、ソウヤたちを注目している一団があるのに。
「あれは何です?」
「――ああ、冒険者や傭兵たちですね」
ピエールは振り返り、そう答えた。
「町の防衛に参加していた連中です。……飛空艇を使ったあなた方のことを見に来たのではないでしょうか」
試しにソウヤが手を振ると、その男たちはやってきた。装備も不揃い、というより、それぞれの愛用装備やクラスが違うのが見てとれる。なるほど、冒険者たちだ、とソウヤは理解した。
「あんた、白銀の翼さんだろ?」
やってきた先頭の男が声をかけた。――あれ、そういえば、どこかで見た顔だ。
「ゴブリンどもを蹴散らしたのは凄かったな! それはそれとして、ここにも商売しに来たんだろ? 串焼きとミソスープ、売ってくれないか?」
「あー……」
おそらく、どこかの街道で商売したことがある相手だろうと合点がいった。大方、その時に食べた料理が忘れられなくて、ひと段落した今、また食べたいということなのだ。
「毎度あり。ちょっと待ってな、すぐにトレーラーを持ってくる」
そんなわけで、一度飛空艇に戻り、その裏側――町から見えない位置で、浮遊トレーラーを出し、セイジとカリュプスメンバーに行商活動を頼んだ。
トレーラーが門の前に行くと、冒険者や傭兵などの数が増えていた。美味いものが食べられるという話と、珍しもの見たさで人が集まったのだろう。
ということで、野外食セットの販売開始。モンスター肉の串焼き、焼きオニギリ、豚汁風味スープなどが飛ぶように売れた。
その間に、ソウヤはピエールからゴブリン軍団の襲撃に関する情報を得る。発生源の特定と原因究明のため、行動を開始することになる。
ピエールの話をまとめたソウヤは、カマルとアルガンテ王宛てに転送ボックスを使った。今回のゴブリン大発生の調査をする旨を報告すれば、王から返事がきていた。
第一に『必要ならば援軍を送る』ということ、第二に、大発生の件についてはこちらでも知識人を集めて調査するとのことだった。
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