第226話、巡回しながら行商するぞ
グレースランド王国の各地から、呪いが解かれたという報告が王都に集まりつつあった。
とはいえ、ソウヤたち銀の翼商会は早々に活動を開始した。
呪いが一週間以上作用していた。普通、そんな長時間、人間が飲まず食わずだと死んでしまう。
だが、どうも呪いの作用中は体そのものが変化するらしく、餓死者は出ていないという報告だった。
しかし、この期間、時間が止まっていたわけではなく、日常生活に少なからぬ影響が出ていると思われる。一部では物資や食料などの不足が起きている可能性もあり、ソウヤたちは浮遊バイクの行動力を活かして巡回することにした。
大きな町などは、王国のほうで見るだろうから、ソウヤたちは、手の届きにくい小集落を重点的に行ってみる。
なお、王国から、銀の翼商会は自由に商売していいという許可を報酬の一部としてもらっている。
「皆さんと行動を共にして、少しは慣れたと思っていたのですが」
リアハは神妙な顔になる。
「浮遊バイクとトレーラーのスピードって凄いんですね……」
先日、父王に申し出て、銀の翼商会に同行を許可された王女様である。
ただいま、本日三つ目の集落。ソウヤが村長と話し合った後、広場にて、行商活動をやっている。
『よく来てくださった! 正直、外からしばらく来ないのではと、心配しておりました!』
と、村長さんは歓迎ムードであった。
浮遊トレーラーの商品陳列棚が珍しいのか、村人が集まっている。
ソウヤは、リアハと商会メンバーの行動を眺めている。
セイジを中心にカリュプスメンバーが店員として、村人たちと商売をしている。元暗殺者たちも、商会メンバーとなって行商活動を手伝うようになったが、あまりに馴染み過ぎて、ソウヤは少々驚いている。
ガルみたいに寡黙過ぎる例を見ていたせいかもしれない。オダシューをはじめ、アズマやトゥリパなど、黙っていれば暗殺者とは思えないほど自然と村人と接している。
――普段は、そうやって町中に溶け込んでいたんだなぁ……。
「ソウヤ様?」
「あー、また『様』付けて呼んだ」
リアハに対して、ソウヤは不満げな顔を作った。
「同行の条件で言ったよな。堅苦しいのはなしだって。しゃべり方については、人それぞれだからいいけど、『様』はやめてくれ」
「そう、でしたね……すみません」
慣れないように赤面するリアハ。
もっとも、代償に、ソウヤも彼女のことを『リアハ』と呼び捨てするようにと言われてしまっている。しゃべり方も普通で、と言われたから敬語もなしである。
「それで、何だ?」
「いえ……。ここにきて、驚くことばかりで」
「ここって、アルブ村?」
「いいえ、貴方たち、銀の翼商会です」
王女様は小首を傾げる。
「出会った時も、行商と聞いていましたけど、あれは世を忍ぶ仮の姿かと……」
「真面目に商売人のつもりなんだがね」
ソウヤは苦笑した。一番、商人に見えないだろう自覚はある。
「ただ、そうだなぁ。リアハと会ってからは、アースドラゴンの島に行ったり、グレースランド王国の奪回のために動いて、商売していなかったからな。そう思うのも無理はないかもしれない」
「勇者様が行商というのも驚きでした」
「アイテムボックスがあったからな。いくつかアイデアがあったから、これを使ったらやっていけるんじゃね、って思ってさ」
十年も昏睡していて、時代が変わってしまったというのもある。環境が変わり、自分も変わらないといけないと思ってこうなった。
「アイテムボックス……」
リアハは頷いた。
「食べ物も腐らせずに、また人手もかからずに大量の荷を運ぶことができる……。これは画期的ですね」
「だろう?」
ニヤリとするソウヤ。
今いる村のひとつ前に立ち寄ったクラル村では、保存してあったモンスター肉が売れた。アイテムボックスがなければ、こうも新鮮な肉を提供できなかっただろう。
「しかも行商でありながら、価格もそれほど高くない」
「運搬に費用がかかっていないからね。その分安くできるのさ」
安く手に入れ、高く売るのが商売。特に徒歩が主な移動手段である世界で、しかも道中、モンスターや盗賊の危険をくぐり抜けないといけない中を移動するのだ。行商が持ち寄る商品が唯一の取引というような辺境だと、物の値がつり上がるのが普通である。
銀の翼商会は、その道中の危険要素が『仕入れ』に繋がっている。モンスターからは肉やその他素材、盗賊からは戦利品を手に入れ、その分のコストといえば実質、討伐した時の労力のみ。
しかもそれにしたって、ソウヤをはじめ、ミストなどの上級ランカーレベルの実力者が揃う銀の翼商会にとっては、大した苦労にもならない。
命掛けで、ギリギリで魔物を倒しました、であるなら、それらの仕入れ品の値を上げることもするだろう。だが、ソウヤたちには大した労力でもなく、かつ全部丸ごと回収できるから、いくらいくらで売れないと割に合わない……ということもあまりないのだ。
「面白いのは、このモンスター肉というのが、あまり流通していないから穴場でもあるんだ」
「何故、流通していないんですか?」
リアハは純粋に疑問に思ったようだ。
「第一、純粋にモンスターを敬遠している」
狩人だって、おとなしい草食動物を狙う。猛獣はできれば避けるし、それより危険なモンスターとなればなおさらだ。
「第二、苦労して倒しても、大きさにもよるが持ち運べる量が限られているから、割に合わないと感じている」
危険を冒して戦うより、逃げるだけの動物を狙ったほうが安全である。
「第三、モンスター肉というものに、抵抗がある」
ソウヤの元いた世界でも、普段食べないような動物の肉は、ちょっと怖がられる。虫などもそう。だから遠慮したい気持ちについてはソウヤも理解できる。
「もっとも、案外食べてしまえば大して違いはないんだがね。割と鳥肉に似ているとか、食べてみると、ああやっぱり肉には違いないってなるから」
「なるほど……」
「まあ、一般人には、危険なモンスターには近づくなって言われてるから、余計にモンスター肉が取られないんだろうな」
冒険者もモンスター退治はしても、魔石や素材は回収するが肉までは取らない。
「おかげで、オレたちがモンスターを狩っても競合しないわけだ。危険なモンスターは基本討伐対象だから、狩猟権の対象外だし」
地方によっては領主の許可なしに、森の動物を狩ってはいけません、というのが割とある。ただし、害のあるモンスターは、それに該当しない。冒険者であれば、なおのことだ。
「銀の翼商会って、案外、うまいところをついているんですね!」
リアハは感心を露わにする。
「凄いですよ、本当に。中々できることではありません」
「そういう人のやっていないところをやるのが、商売の秘訣ってやつさ」
ド素人商人であるソウヤだが、思えば、他と競合していないところばかりを狙って行動していた。モンスター肉、醤油ほかステーキタレ、浮遊バイク……。他ではちょっとお目にかかれないラインナップだ。
後追いでは、コネも基盤もないソウヤでは、既存の商売人に勝てる要素がないから。
――うん、そう考えるとオレ、案外うまくやってるかもしれないな。
もっとも、結構ボツったアイデアもあって、何もかもうまくいっているわけではないが。
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