第227話、方法模索


 危機は去った。グレースランド王国から完全に呪いは取り除かれたものと判断された。


 ソウヤたち銀の翼商会も、巡回した場所でのモンスター化の呪いの症状は確認できなかった。


 魔王軍残党は姿を消したようで、こちらも目撃情報などはなかった。


 その間にもソウヤは、カマルにグレースランド王国の状況報告を送った。王都の解放直後にも一度送り、その後の呪いの話や、復旧状況などなど。


 魔族との交戦も視野に、編成が急がれていたエンネア王国の即応部隊は解散となったと、カマルから返事がきた。敵がいないのでは仕方がない。


 だが魔王軍残党の動きには引き続き、警戒すると締めくくられていた。


 グレースランド王国王都に戻ってきたソウヤは、仲間たちを集めた。


「さて、俺たちの今後の動きについて話し合おうと思う」


 アイテムボックス内に収容している聖女であるレーラの復活。彼女については、グレースランド王国の王族との約束もあるので、優先度は高め。


 そしてこれを銀の翼商会の行動として上位に持ってくることは、他のメンバーにも異存はないと思われる。


「具体的にはどうすればいいと思う?」


 ソフィアが疑問を口にすれば、ミストは机に肘をつきながら言った。


「要するに、生命を脅かすほど魔力を使ったってことでしょう? これはもう回復する薬とか魔法で何とかするしかないんじゃない?」

「マジックポーションとかですか?」


 セイジが聞いた。ミストの視線がジンへと向き、老魔術師は腕を組んで答えた。


「ただのマジックポーションでは無理だろうな。他の瀕死の者たちを復活させるような上級のものか、奇跡のアイテムくらいが必要になると推測する」


 どこかのダンジョンのお宝で探すレベルのものということだ。


「ただ……素材さえ、あればレーラ嬢の魔力欠乏を治す薬は作れると思う」

「本当か、爺さん!?」

「昔、古い資料を読んでな。……素材さえあればだが、集めるのが大変だ。まあ、ドラゴンが血を少々分けてくれるなら、素材のひとつは解決だ」

「ミスト」

「ちょっとだけよ」


 ソウヤの言葉に、霧竜ことミストは頷いた。そこでリアハが挙手した。


「あの、よろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「……伝説レベルのお話なのですが、グレースランドには、精霊の泉という伝承がありまして。そこの水は、あらゆる病を治すと言われています。……もし、その泉を見つけることができれば」

「レーラも復活させることができるかもしれない、ということか!」


 ソウヤは立ち上がる。ジンが手を挙げた。


「私がさっき言った素材のひとつに、その精霊の泉の水があったと思う」

「繋がったな! 単独で効くならそれでいいし、駄目でも薬という手も出てくる。それで、その精霊の泉の場所は?」

「私は知らない。……リアハ姫はご存じかな?」

「いいえ、私も」


 リアハは首を横に振った。なにぶん古い伝説らしいから、言い伝え程度しか情報がないらしい。


 ソフィアは肩を落とした。


「結局、わからないってことね」

「その場所を見つけないといけないな」


 ソウヤは頷いた。


「ただ復活アイテムを探すよりは、何を探せばいいかはっきりしているだけマシだな」


 何事も前向きに考えよう。


 オダシューが口を開いた。


「後で仲間たちにも聞いてみます。とりあえず、今はその精霊の泉とやらの場所を探るということで決まりですな?」

「そういうことだ」


 ソウヤは頷いた。細部はまた詰めるとして、次へ。


「エンネア王国の姫君より依頼されているクレイマンの遺跡探し。といっても緊急性はなく、可能ならばの範囲だ。何より手掛かりがない」

「天空人に遺産の中には、貴重な秘薬などがある可能性がある」


 古代文明研究者であるライヤーが言った。


「もしかしたら、聖女様の回復に役立つモンもあるかもしれねえ」

「クレイマンって……あのクレイマンですか?」


 初耳だったらしいオダシューが首をかしげた。ライヤーは笑った。


「どのクレイマンだよ」

「ボス、銀の翼商会じゃあ、遺跡探しもしているんですか?」

「さっきも言ったように、復活の薬とかアイテム目当てでな。……何か知っているのか?」

「……知ってると行っても昔話程度ですが」


 オダシューは肩をすくめた。


「でもまあ、それで銀の翼商会は飛空艇を修理してるんですね」

「……うん?」


 意味がわからなかった。ソウヤとライヤーは顔を見合わせた。


「オダシュー、すまん、飛空艇を直すのと、クレイマンの遺跡に何か関係があるのか?」

「関係もなにも……」


 オダシューは眉を八の字に曲げた。


「クレイマンの遺跡は空にあるんですよね?」

「そう。もとは浮遊していた島だったが、そこから地上のどこかに落ちた――」

「落ちた? それは確かなんですか?」

「伝承ではそうなってる」

「そうなんですか?」


 オダシューは腕を組んだ。


「おれのガキの頃の話にゃ、クレイマンの遺跡は今も空にあって、さまよい続けてるって聞いてたんですがね……」

「へぇ、それって、つまり遺跡は落ちてないってことか」


 そういう解釈があるのか。ソウヤは口元をほころばせた。


「なるほどね。その可能性もあるな」

「旦那、オダシューの話を信じるのか?」


 ライヤーが眉をひそめた。ソウヤは手を振った。


「悪いな、ライヤー。オレはクレイマンの遺跡の伝承を何一つ知らないんだ。だからあんたから聞いた話も、オダシューの話も、どっちが正しいとか判断できんのよ。だから、どちらもそうかもしれないって思えるわけ」


 そもそも、オダシューの聞いた伝承のとおり、空をさまよい続けているのなら、地上をいくら探したって見つからないわけだ。どこに落ちたかはっきりわからないのも、これまで発見されなかったのも、一応納得できる。


「ライヤー、飛空艇の修理は?」

「補助エンジンが三つ直った。あとひとつも数日中には直る」


 そこでライヤーは顔をしかめた。


「だがメインとなる、魔力ジェットエンジンがな……」


 まだ完成していない。ライヤーが視線を向けたジンは首肯した。


「まだしばらくは時間がかかるな。正直、いつ完成と断言はできない」

「何か別のモンで間に合わせるしかないかもしれねえかな」


 うーん、と唸るライヤー。


 どこからか飛空艇のエンジンを調達する? だが機関部は一度載せると、交換や換装は大工事になる。そう簡単な話ではない。


 飛空艇の完成のこともあるし、まだまだやることが多いな、とソウヤは思った。

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