第225話、これからの話――グレースランド王国
ガルたち、カリュプスメンバーには悔いの残る戦いとなった。
宿敵として狙っていたブルハを自分たちの手で仕留めることができなかったからだ。
屋上に現れた彼女は、ジンとの戦いで中央塔から落下した。
意識を取り戻したアズマから事情を聞いたガル、オダシューらはすぐさま生死確認に向かった。手傷を負っているようならトドメを刺すつもりだったのだが、結局見つけられなかった。
『あの高さだ、普通なら助からない』
『だが死体は見つかっていない。生きていると見るべきだ』
それがガルたちの下した結論である。
「――それで、君らはどうする?」
ソウヤは、ガルに問うた。
「どうするとは?」
「お前や仲間たちはどうするのかなって話」
ガル自身、ブルハに獣人化の呪いをかけられていた。しかし聖女レーラの力で、呪いを解除してもらい、さらに仲間たちも戻った。
後、彼らが目標としているのは、ブルハへの復讐だろう。
だが、それを果たすとすれば、逃げたブルハを追うことになる。
銀の翼商会は、レーラやアイテムボックスに収容されている元仲間たちの復活のための活動もあるから、魔族捜索だけに注力できない。
となれば、一緒の行動を取るのは効率が悪いという結論になるわけだ。
「何人か、出入りすることになると思う」
ガルは言った。
「おそらくスナーブやニェーボ辺りが情報収集に動く。だが、それ以外は、こちらに残ると思う」
それはガルも含めて、か――ソウヤは少し意外に思った。復讐のため、ブルハを追うと想像したが。
「俺たちには、ソウヤや聖女様に恩がある。その借りを返さずに、自分たちの都合で動くわけにはいかない」
淡々と、しかししっかりした口調でガルは告げた。
「そう、俺たちは聖女様を守らなくてはいけないんだ」
大恩人の危機であれば、自分のことは後回しにしてでも駆けつける、というやつかもしれない。ソウヤはそう理解した。
「わかった。なら、これからもよろしくな」
「こちらこそ」
改めて、ガルとその仲間たちは、銀の翼商会に残った。
・ ・ ・
グレースランド王国全体にかけられていた呪いは解かれた――と思われる。
実際のところ、国の隅々まで連絡が行き届いておらず、現在確認作業が進められている段階だった。
しかし、少なくとも王都の住人は呪いから解放されたのは間違いなさそうだった。
グロース・ディスディナ城では、魔族によって監禁されていた国王が、ソウヤたちによって救助された。
彼自身、呪いをかけられたが、レーラの解除魔法はきちんと彼に届き、元の姿に戻ることができた。
リアハにとっては実の父親である。同じく囚われていた母も救い出され、無事である両親の姿に、人目もはばからず抱きついていた。
泣きながら状況を報告するリアハ。国王は、呪いの解除に行方不明だったレーラが関係したこと、そして直後に倒れたことを受けてショックを受けていた。
そして銀の翼商会こと白銀の翼が、王城を制圧していた魔族を蹴散らし、皆を救ったことを知らされた。
ここで、ようやく国王は、見守っていたソウヤに頭を下げた。
「ソウヤ殿、十年ぶりだが、この度は、我がグレースランド王国を救ってくれてありがとう。さすがは勇者殿だ」
「あ、陛下、頭をお上げください」
ソウヤは戸惑ってしまう。特に行事でもなく、部下が見ているわけではない。だが、一国の王が自然と頭を下げるのだ。ソウヤも姿勢を正した。
「こちらこそ、レーラ――レーラ様のこと、早くお知らせできずに申し訳ありませんでした」
「いや、君は公式では死んだことになっていたからな。実は君が生きていたことを、私もつい先日、貴国のカロス大臣からの書簡で知ったばかりなのだ」
「カロス大臣が……」
それで、リアハに、カロスのもとを訪ねろと言って送り出したのか。
「リアハから聞いたが、レーラは石にされていたと?」
「ええ。魔王討伐の旅の途中で。つい最近まで助けることができなかったのですが――」
「君が、自身の危険もかえりみず、いにしえの古竜のもとを訪ねて娘の石化を解いたそうだね。ありがとう。王としてだけでなく、ひとりの親として、君には礼を言う」
――いや、むしろ、早く助けられなかったことを謝ろうと思ったんだけど。
機先を制されてしまった。
「ですが、レーラ様はまた……」
「うむ、この国の呪いを解くためにその身を差し出したのだろう。……あの子らしい」
グレースランド王の目はどこか寂しそうだった。
「あの子は、君がいなければ死んでいた。……そうだな?」
「はい」
アイテムボックスに収容しなければ、魔力欠乏で死んでいただろう。
「つまり、まだ生きているわけだ。状況は喜べないのだが、命があるだけでも幸いだった。……助けられそうか?」
「まだ何とも」
ジン曰く、ただ魔力を供給すればいいというわけではない、とのことだった。マジックポーションを与えれば済むというものでもないらしい。……それで回復するなら、ソフィアが魔力を供給した時に、容体が良くならなかったのはおかしい。
「ただ、方法はあるはず。必ずお救いします」
「ありがとう、ソウヤ殿。我々のほうでも魔力欠乏の症状について、魔術師たちに調べさせよう」
そう告げると、グレースランド王は再びソウヤに頭を下げた。
「重ね重ね、君と仲間たちには救われてばかりだ。本当に、ありがとう。今回の礼は、きちんとさせてもらう。何でも言ってくれ。それにグレースランド王国は全力で応えよう」
何でも、と言った?――というのは飲み込んで、ソウヤはリアハを見た。一応、王族から冒険者に依頼がきた、という方便で今回戦ったので、内容はともかくお礼は出る手はずとなっていた。
リアハは頷き返すと、グレースランド王に向き直った。
「お父様、ひとつよろしいでしょうか?」
「何だ、リアハ?」
「わがままをお許しください。私、リアハ・グレースランドは、姉レーラを救うため、ソウヤ様たちと行動を共にしたいと思います」
「うむ」
はい? ――ソウヤは思いがけないリアハの言葉に目を丸くした。
行動を共に……ということは、白銀の翼にお姫様が加わるということか。報酬の話のつもりで頷いたら、同行の有無の確認と勘違いされたようだった。
――いや、ついてくるって初耳なんだが?
どういうことだ? ソウヤは首を捻るのだった。
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