第214話、姉妹、再会
アースドラゴンの島の海岸に到着したソウヤとゴーレム『アイアン1』。
そこにはボートが一艘、止まっていた。
「やあ」
ジンが手を振った。ソウヤはアイアン1のバックパックから顔を覗かせる。
「よう、爺さん。無事だったかい!」
「それはこちらのセリフだ」
老魔術師は苦笑した。
「その様子だと、石化モンスターのあいだを上手く切り抜けられたようだな」
「おかげさんでな」
浮遊ボートが、島の上を飛び回ったことで、島の魔獣たちの注意は引けた。聞き慣れないジェットエンジンの騒音は、さぞモンスターの注目を集めただろう。
「おかげで、道中はスムーズだった」
「それはなによりだ。……こっちはエンジンがイカれてしまってね。もうどうにもまずいから海に降ろした。つくづくボートでよかったと思うよ」
さあ、乗ってくれ、とジンが手招きした。
「アイアン1は載せられそうにないな……」
ボートにはエンジンなどが積んであるせいで、ゴーレムのスペースはない。
「アイテムボックスにしまえばいいよ」
「そうだった」
ソウヤはアイアン1を足場にボートに乗ると、アイテムボックスに収納する。
「アイアン1の走りもよかった。本当にゴーレムかと疑ったぜ」
「お気に召してよかった」
「ただ、乗り心地については改善の必要があるな」
「あとで詳しく聞かせてくれ。改善策を考えよう」
ボートながらマストがあり、帆を開く。ジンは筒状の物体を帆に向けると風が当たって、船を進ませた。
「お、風力エンジン?」
扇風機みたいだと、ソウヤは思った。
「魔道具だよ。風を送る」
「……それ扇風機にして売り出せないかな?」
「風力を調整すればいけるだろう」
ボートは海を進む。しかし元が小舟だけあって、波に結構揺さぶられる。
ソウヤは後部の魔力式ジェットエンジンを見やる。表面で火でも噴いたのか黒焦げた部分が目立つ。こういうのを見ると、よく爆発しなかったと思う。
「で、これ、空を飛べないんだろ? どうゴールデンウィングの元まで戻るんだ?」
「ある程度近づけば、ミストなり影竜が拾ってくれるだろう」
「ミストはアイテムボックスハウスにいるぜ?」
「だったら彼女を呼んだほうが速くつくんじゃないかな」
しばらくボートで船旅を続ける。そのあいだに、ソウヤはジンに島での出来事やアースドラゴンについて話した。アースドラゴンの唾液が石化解除の薬になると聞き、老魔術師は面白がる。
「なるほど、息だけでなく、唾液に石を解体する成分が含まれているのか。そうなると、もし定期的に石化解除薬を手に入れられれば、それも商品になるな」
「あまりアースドラゴンを商品のために利用したくはないぜ?」
「唾液の成分を解析すれば、作れるかもしれないな。そうなれば話は別だろう?」
「それなら問題ない」
ソウヤは頷いた。太陽が傾きつつある空。ゴールデンウィング二世号が空中に待機している場所を目指していたら、影竜が飛んできた。
『終わったようだな。ミストから念話で目的を果たしたのは聞いたが、ここまで来るのに遅かったではないか』
「見ての通り、エンジンが壊れて飛べないんだ。……悪いが、船まで運んでくれ」
『ミストはどうした? 奴にやらせればよかっただろう?』
「彼女は、レーラに事情を説明中なんだ」
『しょうがないな』
ジンが帆を外して、マストを折り畳むと、影竜がボートの端をつかんで空へと持ち上げた。
それからはあっという間に、飛空艇のもとまで戻った。
・ ・ ・
「姉さん!」
「リアハ!?」
ゴールデンウィング二世号に到着早々、アイテムボックスから出てきたレーラは、妹であるリアハに抱きしめられた。
「よかった……! 本当に生きていて……」
「うん……」
涙を流す妹に、レーラも涙ぐむ。
「大きく、なりましたね」
「十年経ちました」
リアハは涙をぬぐい、背筋を伸ばした。
「父からは魔王討伐の道中に消息不明と聞かされていたのですが……またこうして会うことができて、わたしは――」
またも涙があふれて言葉を詰まらせるリアハである。そんな妹、しかし大きくなった彼女に少々困惑しつつ、レーラはその肩に触れた。
「また会えて、私もうれしいです」
姉妹の感動の再会――ソウヤは、そっとその場を離れると、影竜とミストに言った。
「船をグレースランド王国に向ける。またまた悪いが頼む」
飛行石で浮いているだけのゴールデンウィング二世号である。進むには、ドラゴンの力が必要だ。
ジンは浮遊ボートとアイアン1をいじり、それをライヤーとソフィアが手伝ったりしている。
ソウヤには、カーシュとセイジが来た。
「お疲れ、ソウヤ」
「お疲れさまです、ソウヤさん」
「なに、オレはただゴーレムに乗って往復しただけさ」
とくに魔獣と戦ったり、アースドラゴン相手に緊張の交渉をしたわけではない。
「道中はミストや爺さんが整えてくれたから、オレは何もしていないよ」
「ソウヤ、それは違う」
「ええ、ソウヤさんがいなければ、こうはならなかったと思いますよ」
アイテムボックスに入れての輸送。通常の方法で、ミスリルタートルを絶海の孤島に運ぶのは困難を極め、モンスターが徘徊する島内を進むのもままならなかっただろう。
「これは、ソウヤにしかできないことだ」
「そもそも、ミスリルタートルを倒したのは、ソウヤさんですし」
二人は言った。
「不可能を可能にしたのは、君だ」
「そ、そうか……」
照れくさくなって、ソウヤは頭をかいた。
「でもそれを言ったら、アイテムボックスのおかげだし」
「そのアイテムボックスを試練に打ち勝って手に入れたのは君だ。それがなければ、やっぱり今日の出来事はなかったんだ」
カーシュは肩を叩いた。
「そしてこれからもな。……次はグレースランド王国に乗り込むんだろ?」
魔王軍の残党を蹴り飛ばさなくてはいけない。
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