第201話、成功の可能性は……なし?


「あー、お二人さん、話を戻してもいいか?」


 角の話で脱線しているので、ソウヤは、ミストと影竜に言った。


「時空回廊とやらに行くのに面倒なのは、ファイアードラゴンの眷属が襲ってくるからだけか?」

「うむ、厄介はファイアードラゴンとその眷属が侵入者を絶対殺す過激派であることくらいだな」


 そのドラゴンと眷属から逃れるのが、すでに難易度激ヤバではあるが。


「時空回廊自体は、古代の竜人の文明と呼ばれるものの遺跡だ」

「竜人の文明……」


 ソウヤは初めて聞いた。カーシュに確認すれば、彼も初耳だったらしい。ライヤーを呼ぶべきだっただろうか。


「その遺跡の奥に、時を歪める祭壇があるという話だ。その祭壇にモノを置けば、置いた時間分の、そのモノの時間が戻る」

「つまり、石化している人間を置いておけば、石化する前まで戻すことで、その石化も解けるということか?」

「そうなるな」


 頷く影竜。カーシュは難しい顔になった。


「でもさっき、置いている時間分の時間が戻ると言いましたよね? 確か、その時間分、寿命を引き換えにするとも」

「言ったな」

「ソウヤ、だとしたら、この方法はあまりよくないのでは?」


 カーシュは言った。


「聖女様が石化したのは十年前だ。石化解除までの時間が戻るのに、およそ十年かかる。しかも聖女様は、寿命が十年分失われる……」


 十年も遺跡に放置? あるいはその火山島で暮らす? ファイアードラゴンとその眷属が徘徊する火山島で?


「どうかな……?」


 ソウヤは首をひねった。


「オレのアイテムボックス内でも、時間経過無視の空間に放り込んだ。中の時間は止まっているから、彼女の石化解除は一日もかからないと思うぞ?」


 それなら失われる寿命も一日もない。そもそも時間が完全に止まっているからこそ、瀕死の仲間たちも死なずにこの十年生きながらえていたわけだ。聖女の石化の時間も、そのままのはずである。


「そうか……。それなら、問題ないか」


 カーシュは安堵したようだった。


「それで、そうなると、どっちを選ぶべきだろうか、ソウヤ? アースドラゴンの島か、ファイアードラゴンの島か」

「石化が怖いんだよな……」


 ソウヤは腕を組んで唸る。


「石化の視線とかブレスとか、触れないからアイテムボックスで無効化できない。近づく前に石化されちゃったら、それでおしまいだ」


 石像となって永遠に島に放置か、魔獣に岩ごと砕かれ果てるか。どちらもゾッとしない最期だ。


「危険でも火竜の眷属と戦うほうがまだマシか……?」


 個々の力や耐久力などは、火竜の島のほうが上だろう。悩むソウヤとカーシュを、冷淡な目で影竜は見た。


「お前たち、まさか眷属や生息している魔獣と戦うことを考えていないよな?」

「……それってマズい?」

「……」


 影竜が、心底呆れたように首を下げた。何かおかしなことを言っただろうか、とソウヤたちは顔を見合わせる。

 影竜はたしなめる。


「あのな、アースドラゴンはその島を支配していて、そこに棲む魔獣も、言ってみればドラゴンのペットのようなものだ。それを攻撃でもしてみろ、アースドラゴンは絶対にお前たちに牙を剥いてくる。仲間の石化解除に協力してくれないぞ」

「……え?」


 それはつまり、コカトリスやバジリスクが襲ってきても反撃したら駄目ということか。アースドラゴンに石化解除をお願いしにいくのに、その機嫌を損ねたらアウト。


「アースドラゴンを倒そうなどと思うなよ? 確かに彼の胃液や血などには、石化解除の効果があるかもしれんが、そんなことをすれば、アースドラゴンに関係する一族全部を敵に回し、命を狙われるぞ」


 ドラゴンとその眷属が大挙して押し寄せる――国ひとつが滅びる程度では済まない大惨事である。


「ちなみに、ファイアードラゴンの島でも同じだぞ」


 影竜は続けた。


「時空回廊にいる間も、絶え間なくファイアードラゴンとその眷属が襲いかかってくるだろう。その間、連中を防戦一方で凌ぐのは、ドラゴンでも不可能だ。目的の場所にたどり着いても、石化解除が数分でも、ずっと攻撃にさらされる」


 ――それ、なんてムリゲー?


「間違ってファイアードラゴンを倒しても、アースドラゴン同様、火の一族と眷属が、地の果てまで追いかけて殺そうとするだろう」

「それ、どうあがいても駄目ってことじゃないか?」


 ソウヤは暗鬱になる。せっかく方法が見つかったと思ったのに、どちらも成功率がほぼゼロに近いときた。希望が一転して絶望になるというのはこういうものだろうか。


「でもまあ……」


 ミストが考えながら口を開いた。


「要は、どちらも気づかれずに目的地に着ければいいわけよね?」

「……何か名案が?」

「ないわ」


 ミストはバッサリだった。


「でも、今は浮かばないだけで、方法がないと決めつけるのは早くない?」


 考えて、考えて、考えて、成功率を上げていく。それがやがて不可能と思っていたものを可能とするのではないか。


「……そうだな」


 ソウヤは相好を崩した。


「カーシュ、オレたちの魔王討伐、成功率がどれくらいあったか覚えているか?」


 その問いに、カーシュは困惑する。


「そもそも、最初は一縷の望みに賭けるという感じだった。成功してほしいと皆が信じたいというのが本音で、オレたちが本当に魔王を討伐できるのか懐疑的だった」


 だが、仲間たちの奮闘、そして犠牲。苦難の旅の末、勇者は魔王を倒した。


「困難に挑むのは、オレたちの十八番だった。古竜をやっつけたら大変だが、やっつけずに解決する方法を考えよう」


 不可能を可能に変えよう。それを勇者と仲間たちは成し遂げてきたのだ。


「……やっぱり君は勇者なんだな」


 カーシュは苦笑した。


「皆が挫けそうな時も、君は前を見続けていた。僕は途中脱落組だから、魔王を本当に倒したという実感がないんだけど、君が進み続ける限り、そうなるんじゃないかって思う」


「それは、お前たち、オレを支えてくれる仲間がいたからだ」


 ソウヤも苦笑で返す。


「オレひとりなら、当に命を落としていたさ」


 かつての仲間たちはいなくても、ソウヤには新しい仲間たちがいる。


「考えるぞ。絶対にレーラを助けて、他にも助けが必要な仲間たちも助け出すぞ!」

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