第202話、ドラゴンと交渉できるか?
石化されたかつての仲間を救う手掛かりは得た。後は方法である。
どうアプローチするべきか、ソウヤは考える。
アースドラゴンか、ファイアードラゴンか。
「まったく察知されない方法があるなら、ファイアードラゴンにするべきじゃないかしら?」
ミストは意見を出した。
「でも一度でも発見されたら、それ以上留まるのは無理だから、不安があるなら選ぶべきじゃないわね」
「その点、アースドラゴンのほうは――」
影竜が言った。
「島の魔獣に気づかれたとしても、アースドラゴンさえ機嫌が悪くなければ、まだ交渉の余地はあるな」
交渉――その言葉に、カーシュが不安を露わにした。
「察知される云々は別にして、アースドラゴンと接触する場合は、交渉が必要になりますよね?」
「だろうな」
石化しているこちらの仲間を、ドラゴンの目の前に差し出しただけでは、解除してくるわけがない。きちんと説明し、その上でアースドラゴンが了承し、やってもらわないといけない。
「こちらの求めに、乗ってくれるでしょうか?」
何せ、ドラゴンは他の種族を下に見ている。四大竜とも言われる上級の中の上級のドラゴンともなれば、人間など歯牙にもかけないのではないか?
カーシュは、ソウヤに視線を転じた。
「アースドラゴンのほうは交渉必須だったが、ファイアードラゴンのほうは、気づかれさえしなければ、交渉は必要ない」
「うーん……」
どちらも一長一短あって、こちらがやりやすい、という判断が難しい。
「具体的に、ドラゴンの索敵からどう隠れる? そもそも隠れられるか?」
ソウヤがミストと影竜を見やる。
これまでの道中でも、さんざんミストの魔力探知にはお世話になった。彼女の警戒は、潜伏する敵も見つけ出し、ソウヤたち一行は奇襲を許したことがない。
「正直に言うと、かなり難しいといえるわね」
「ミストや我が霧や影を利用して忍び寄ることはできるだろう。だがそれはそれぞれ姿を変えていた場合だ。その状態では、お前たち人間を運ぶとか、何かを持って移動することはできん」
「人間形態、本来のドラゴンの姿だと、まず察知されるでしょうね……」
つまり、ミストや影竜は自体は同族の監視をすり抜けることができるかもしれないが、あくまでそれだけ。ソウヤや仲間たちを連れて移動したり、あるいは石化した聖女を彼女たちに託して運んでもらうという手は、使えないということだ。
「じゃあ、次の質問。アースドラゴンと交渉するとして……交渉は可能かどうか?」
ファイアードラゴンが問答無用なのは、ミストたちの評価でお察しである。
「まあ、話すことは可能だと思うわよ」
ミストが影竜に同意を求める。
「うむ、話すだけならな。火の一族と違って、大地の一族は、多少聞く耳を持っているからな」
しかし影竜は腕を組んで、悩ましげな顔になった。
「我かミストが、大地の一族の縁者ならば話が早かっただろうが……」
「いきなり攻撃されることはない、と……?」
「よほど、その時にアースドラゴンが不機嫌でなければな。一応、テリトリーを侵しているわけだから、あまり気分のいいものではないはずだ」
なるほど、とソウヤは頷く。
「まず、アースドラゴンと本格的に交渉する前に、それが通用しそうか、事前にミストか影竜に話をしにいってもらおうか……とも考えたんだが」
ソウヤの発言に、カーシュは「あー」と声を上げた。
「本交渉の前に、使者を立てるというわけだな!」
「ああ、それで感触がよければ、交渉できるだろうし、駄目なら……ファイアードラゴンの方へ行くしかないだろう」
「じゃあ、ひとまずアースドラゴンの方にあたる、ということでいいかしら?」
ミストの確認に、ソウヤは首肯した。
「お前たちに面倒をかけるが……ドラゴンと話すならドラゴンがいいんじゃないかと思う」
「何故、我が、お前たちの代わりに交渉せねばならんのだ?」
影竜が口を尖らせた。
「卵のことがあるから、意見を参考までに聞かせてやったが、我としてはアースドラゴンだろうが、ファイアードラゴンだろうが、関わるのはごめんだ。それでお前がくたばることがあれば、アイテムボックスとやらに預けている卵とて危ないのだからな!」
「……というわけなんだが、ミスト」
「ワタシは構わないわよ。そもそも、コイツがソウヤのお願いを聞くなんて思ってないし」
頼りになるミストさんのお言葉。ソウヤは苦笑する。
「すまんな、ミスト」
「いいわよ。気にしないで」
そう言いミストは、そこで顔を上げた。
「そうなると問題は、アースドラゴンがこちらの求めに応えるかどうかよね。……人間のお願いをきかせる方法って、何かあるかしらね、影竜?」
「何故、そこで我に聞くのだ?」
「あなたの卵を守るためでもあるのよ、知恵を貸しなさいな。でないと、このソウヤが危険を侵してアースドラゴンの元へ突撃するわよ。……そうなったらあなたも困るでしょ?」
「……むぅ」
「まあ、あんたには悪いと思うがな、影竜よ」
ソウヤは今度は苦笑いを、影竜に向ける。
「あんたが卵のためなら人間だって利用するように、大切な仲間の石化を解くためなら、こちとら危険にも飛び込む覚悟はあるんだ」
「その仲間が、我にとっての卵と同じ、か。なるほど理解した」
影竜は思案する。
「……食べ物で釣るか」
「食べ物?」
思いがけない言葉に、ソウヤはキョトンとする。ミストは手を叩いた。
「焼き肉のタレ付きの特上ステーキ!」
「馬鹿もの。……いや、確かにそれも美味そうであるが、アースドラゴンなどの土属性ドラゴンは肉より鉱物を好む」
「好物?」
――いや、この場合は鉱物のほうか。
「アースドラゴンは石を食べるのか?」
「肉も食べるが、岩や土を食べるらしい。割とグルメだという噂もある」
「……」
ソウヤとカーシュは顔を見合わせる。地層や岩の種類で味が違うということなのだろうか。大地のドラゴンとなれば、そういうものかもしれないと、何となく理解した。
「で、その手のドラゴンは特に魔力が含まれた土壌が好みで、魔法鉱石などは特に好きらしい」
「魔法鉱石……それって、ミスリルとか?」
「大好物だろうな」
影竜は唇の端を吊り上げた。
「ミスリルを腹いっぱい食わせてやる、といえば、人ひとりの石化など簡単に解いてくれるんじゃないか?」
「ミスリルを腹いっぱいって……」
カーシュが絶望的な顔になる。希少といわれる魔法金属の中でもポピュラーであるミスリルだが、それでもドラゴンの腹を満たす量の確保など難しい……と思ったのだろう。
ソウヤは笑みを浮かべた。
「なあ、影竜よ。アースドラゴンって、ミスリルタートルってお好き?」
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