第200話、石化魔獣の島


 石化されたかつての仲間を助ける方法を探していたソウヤの前に示された、二つの解決方法。


 伝説の古竜アースドラゴンに会う、もしくは、時空回廊なる場所に行く。


 昨日まで手掛かりさえなかったのに、突然二つも道が示されたわけだ。俄然、ソウヤはやる気になった。


「詳しく聞こうか」

「そのほうがよい。何せ、どちらも非常に難しい場所にある」


 影竜は心なしか表情が険しくなった。


「どちらから聞きたい?」

「まずは、アースドラゴンから聞こう」

「ふむ。古の四大竜――ドラゴン族の中でも神竜の次の次に高い位置にいる存在だ。風、大地、水、火の四大古竜のうちのひとつ、それがアースドラゴンだ」


 影竜は頷いた。


「そしてアースドラゴンがいるのは、この世界の果て、南西に飛んだ先の小島だ」

「とても遠い場所にあるみたいですね」


 カーシュは腕を組んだ。


「飛空艇がないと、簡単には行けない場所ですか」

「それなら、ミストに乗せてもらうという手はどうだ?」


 ソウヤが見ると、黒髪美少女の姿の霧竜は首をかしげた。


「まあ、あなたひとりくらいなら乗せられるけれど……」

「行き来するのは、それでいいかもしれんが、島についてからも大変だぞ」


 影竜は唇の端を吊り上げる。


「何せ、その島は、石に縁のある魔物ばかりでな。コカトリスやバジリスクなど、敵対する者を石化させる能力を持つ厄介な生き物が生息している」


 石化の視線やら毒やらを持つ、非常に危険なモンスターである。石化の呪いを解くために出かけて自分が石にされてしまう……。


「ミイラ取りがミイラになる、なんてことがありそうで怖い」

「実際、島の外から来た者が石化されずにアースドラゴンのもとまでたどり着くのは、ほぼ不可能と言われている」


 影竜の言葉に、ソウヤは口を閉じる。カーシュが聞いた。


「そんな石化の魔獣ばかりの場所に、何故アースドラゴンは棲んでいるんですか? そもそも、石化しないんですか?」

「アースドラゴンは、石化に耐性がある。アースドラゴン自体、石化や毒のブレスを吐くが、一方で石化しないブレスを吐くこともできるのだ」

「石化しないブレス?」


 ソウヤは目を見開く。もしそうなら、なるほど石となった者の石化も解除できるかもしれない。


「コカトリスは石化しない草を食べているが、アースドラゴンのテリトリー内の植物は石化しない。だからむしろ、アースドラゴンの根城にコカトリスやバジリスクが居着いたというほうが正しいだろう」

「バジリスクもその石にならない植物を……? 確かトカゲや蛇型の魔獣と聞いているのですが」

「一応肉食だよ。アースドラゴンの恩恵か、そこに生息するネズミなども石化に耐性があるんだ。バジリスクは主にそれらを食している。時々、コカトリスの卵を狙ったりするが」


 そう解説した影竜は、ソウヤを見た。


「我としては、卵から子が孵るまでは行かないでもらいたいものだがな。……正直、教えはしたが、よそ者が行く場所ではないぞ。石化か毒の餌食になるのがオチだ」


 アースドラゴンと接触するまでが超高難度。果たして成功率は如何ほどのものか。


 考えるソウヤをよそに、カーシュは言った。


「もうひとつ、えっと……時空回廊、でしたか? それは?」

「こちらも世界の果て、ただし北西方向の火山島にある」


 アースドラゴンの島が南西で、時空回廊は北西ときたか。ただ、火山島と聞いて、あまりいい予感はしない。


 ミストが眉間にしわを寄せた。


「まさかと思うけど、それってあのファイアードラゴンの島?」

「そう、そのファイアードラゴンのテリトリーだ。四大竜の火を司る古竜の」

「……」


 ミストが額に手を当て、黙り込んでしまった。どうやら彼女もその島を知っているようだった。四大竜のひとつ、と聞いただけで、さらに厄介だろうことを察してしまう。


「それって、やっぱりマズいの?」

「マズいなんてものじゃないわ」


 ミストがため息をついた。


「ドラゴンの中でも非常に好戦的な火竜のテリトリーよ。たとえドラゴンでもよそ者なら、問答無用で襲って噛み殺すほどの凶暴な眷属が、集団を形成している」

「ドラゴンでも、火の一族と関わりがなければ絶対に近づいてはいけない場所だ」


 影竜は肩をすくめる。


 火竜とその眷属が守っている島らしい。


 石化されないだけマシ――と単純比較はできないだろう。何せ、眷属とは下級とはいえドラゴンだろうし、石化や毒を差し引けば、コカトリスやバジリスクよりも個体性能は遥かに上である。


 カーシュが、またも質問した。


「火の一族と言いましたが、ドラゴンにもそういうものがあるのですか?」

「ああ、特殊な例を除けばドラゴンには、大抵、属性とも言うべきものがあってな。その属性で、ドラゴンの中ではグループ分けがされるのだ」


 影竜は答えた。


「ちなみに、我は土と闇」

「二つあるのか?」


 ソウヤは思わず言えば、影竜は顎に手を当てた。


「複数に跨がっている場合もある。ミスト、お前も二つだろう?」

「ワタシは水と風」


 ミストは小さく舌を出した。


「ごめんなさいね、ソウヤ。ワタシか影竜のどちらかに火の属性があれば、多少は行きやすくなったんだろうけれど……」

「それは持って生まれたものだろ? じゃあ、仕方ないよ」


 ソウヤはそう口にして、ふと気づく。


「え、ちょっと待て。ミストと影竜って属性一致しないじゃないか。親族とか姉妹かもって言ってなかったか?」

「……」


 ミストと影竜は顔を見合わせた。


「そうね。特性が似ているところもあったけれど、全然関係ないわね」

「おい」


 しれっとミストが苦笑していた。影竜は鼻をならす。


「そもそも、曲がり角の連中は、案外適当だからな」

「直線角は頭の固いヤツが多いってもっぱらだけどね……」


 途端に睨み合う二人。ドラゴン同士、仲は悪くないと思っていたのだが、そうでもなかったかもしれない。


「曲がり角と直線角?」

「ドラゴンの角のことじゃないかな」


 カーシュが首をかしげた。


「君がここに来る前、ミストが霧竜の姿になって、影竜とドラゴンの姿で向き合ったから。たぶん角のことだと思う」

「角の形でケンカか?」

「ドラゴンもだけど、角のある生き物って、自分の角が最高だって思っているんじゃない?」

「それでマウント取りかよ」


 アホらしい――というのは、角のない種族ゆえの感想か。

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