第199話、解決の糸口
ジンがドワーフの試作魔力ジェットを引き継ぐにあたり、ブルーアが何か言っていたか気になったソウヤ。それをジンに聞いてみれば――
「自分は仕事があるから手伝えないが、もしエンジンが完成したなら、亡き兄の夢が叶うのをこの目で見たい、だそうだ」
自分の手掛けた新型エンジンを搭載した飛空艇が空を飛ぶという夢。それを聞いたライヤーが発奮した。
「よっしゃ、任せとけ! その夢は、必ず叶えてやる!」
「……ライヤーよ、お前、それあのブルーアさんに言えよ」
ここにはいないドワーフ弟の名前を出せば、当のライヤーは首を横に振った。
「おれはあのドワーフと仲が悪い。知ってるだろ」
向こうが一方的……とは断言できないソウヤである。よっぽどその前のライヤーが、嫌われるようなことをしたのだろう。
「それはそれとして、ドワーフの夢か。ロマンだなぁ」
他人事と決め込んで、ソウヤは呑気な感想を漏らすのだった。
その夢のためにも前に進もうという男たち……なのだが、彼らは、そろって機械人形のフィーアのもとに行き、その背中を見るという妙な光景を生み出すことになる。
「うわ、何やってんのよ!?」
声を上げたのは、やってきたソフィアだった。
おっさんたちが、人形とはいえ少女に見えるフィーアの背中に集まっているのだ。端から見れば、おかしな場面と言える。
「なんで、女の子の背中を見ようとしているのよ! 変態なの!?」
「これはこれは、背中から魔力を噴射していたソフィアさん」
変態呼ばわりが癇にさわったので、ソウヤはそうやり返した。
以前、魔力封じの呪いをかけられ、背中からしか魔力が出せなかったソフィアである。ライヤーが「そうなの?」とソウヤを見た。
「その魔力を風とかに変えて噴射したら空飛べるんじゃね?」
「理論上は可能だ」
ジンが真面目ぶれば、状況が飲み込めていないソフィアが、つかつかとやってきた。
「なにゴチャゴチャ言ってるのよ。乙女の柔肌を――」
そこで絶句する魔術師の少女。顔だけ向けてくるフィーア、彼女の背中には柔肌ではなく、機械が露出していた。カバーを外し、内蔵されていたジェットパックが出ていたのだ。
「彼女の機械パーツを見るのは初めてか?」
ソウヤがソフィアに問えば、彼女は言葉を失ったまま、コクコクとうなずいた。ソウヤと、この場にはいないがセイジは、フィーアがジェットパックを使って飛行するところを見ている。
ライヤーが、フィーアの背中をいじりながら眉をひそめた。
「……改めて見りゃあ、こんな小さいエンジンで空を飛んでるのかよ。パーツ自体、小さ過ぎるだろ!」
「内蔵しているのだ。小さくしないと入らないだろう」
ジンが突っ込めば、ライヤーは唸った。
「見せつけてくれるよなぁ、フィーアを作った古代文明ってやつはよぉ。これ見本になるのか?」
「何もないよりは参考になるだろう」
老魔術師は冷静だった。ソウヤは見てもちんぷんかんぷんなので、ソフィアに向き直った。
「それで、お前がここに来るのは珍しいな。何か用か?」
「わたしだって、飛空艇の様子くらい見てもいいでしょう?」
「空に興味が?」
「ないわけないでしょう? 魔女や魔術師だって、空は飛ぶでしょ」
などというソフィア。
「まあ、ついでなんだけどね。ソウヤ、影竜ちゃんがあなたを呼んでたわよ」
「影竜が……?」
料理の催促だろうか。
「ステーキ肉を作れってか?」
「それもあるけど、そんな話じゃなくて――」
ソフィアは急に真面目ぶった。
「アイテムボックスの中に、瀕死の人間や石化した聖女様がいるって聞いたわ」
「あー……そうだな」
一瞬言葉に詰まるソウヤ。フィーアの背中にとりついたままのライヤーが口を開いた。
「瀕死の仲間の話は聞いたな。……聖女様だって?」
そこは初耳だったらしい。
「言わなかったっけ?」
「石化した奴がいるって聞いたけど、聖女様ってのはな。つか、聖女様? どういうこったよ」
「話せば長くなるが――」
「はい、ストップ! 影竜が待ってるから詳しい話は……ジン師匠にお願いしても?」
ソフィアが師である老魔術師に振れば、「引き受けた」と彼は応えた。
「ほら、行くわよ、ソウヤ。ミスト師匠とカーシュさんも待ってるわ」
「ミストはともかく、カーシュも……?」
いったい何だと言うのか。瀕死の仲間や石化状態の聖女の話が出たということは、ひょっとしたら、そちらの方で何か進展が見込めるのか?
――これは、期待してもいいのか。
「ところで、お前、なんでカーシュのことを『カーシュさん』って呼んでるの?」
「あの人、聖騎士様じゃない?」
さも当然という顔でソフィアは言った。
「それに、年上だし」
「オレも、お前より年上なんだが」
一度だって『さん』付けされた覚えがない。……勇者なのに。
・ ・ ・
影竜の元へ行くと、聞いていた通り、ミストとカーシュがいた。
「呼ばれたから来たぞ」
「来たわね、ソウヤ」
最初に発言したのは、ミストだった。
「あなたがアイテムボックスで保存している聖女様……えーと、何という名前だったかしら?」
「レーラ・グレースランド。グレースランド王国の王族のお姫様でもある」
「レーラ様……」
カーシュが目を閉じた。勇者時代の仲間であるカーシュは、聖女レーラをもちろん知っている。
ミストは続けた。
「その聖女の石化問題だけれど……影竜が解決の糸口を知ってるそうよ」
「本当か!?」
大ニュースである。ソウヤが視線を向ければ、黒髪褐色美女姿の影竜は腰に手を当てて言った。
「方法は二つある」
「二つも!?」
「ひとつ、古の四大竜、アースドラゴンを訪ねる。土と石を操る術にかけては、あの方を置いて他にはいない。魔族の石化の呪いなど、解除も造作もないだろう」
アースドラゴン……。古の四大竜とか、肩書きだけで物凄そうである。
「もうひとつは、時空回廊と呼ばれる場所、そこのとある場所に行くと、寿命と引き換え分の時間が巻き戻るという。石化前まで戻れば、それで解決だ」
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