第198話、魔力ジェットを引き継ぐ者たち
焼き肉パーティーは成功のうちに終わった。
はじめは影竜に対して遠巻きだった仲間たちも、次第に打ち解けて、最低限の交流ができるようになっていた。
ソウヤとしては、上級ドラゴンに対しても、普通に接することができる人間が増えたことは喜ばしかった。少なくとも、銀の翼商会には影竜に悪さをしようと考えるものはいないと確信できた。
「……本当かね?」
「ジイさん、そこでおれを見るのはやめてくれ」
ジンが、ライヤーを注視すれば、彼は居心地悪く首をすくめる。
「おれは、ドラゴンの卵をどうこうしようなんて思ってないぜ?」
「卵の話はしていないのだが?」
老魔術師の言葉に、ライヤーは目を回してみせた。
「そりゃ、昔のおれなら、金になるかもって考えたかもしれないけどな。ここじゃ、夢だった飛空艇に触れるし、修理だって、旦那がいるから金に困っているわけじゃねぇ。わざわざドラゴンの機嫌を損ねることをする必要はないんだぜ?」
そうだろ、と同意を求めてきたので、ソウヤは頷いた。
「そうだな」
わざわざ危険を冒してドラゴンの卵や素材を狙う理由がない。
それで――ライヤーは、飛空艇の修理に上がる前に、ジンがいじっている代物に目を向けた。
「こっちの修理の手伝いをする気はないのかい、ジイさんよ」
「うむ、私は忙しい」
「……くそぅ、飛空艇のことがなけりゃ、おれもそっちをいじりたいがな!」
「そうか?」
ジンは、マスト付きの木製ボートに乗り込む。サイズはボートなのだが、小さいながらもマストがあって帆が張れるようになっていた。さらにドワーフの部品工房で見た人工飛行石と似た宝玉が設置されている。
ソウヤは顎に手を当てる。
「浮遊ボートか……」
数日前は、ただのボートだった。セイジから聞いた時、浮遊バイクの応用ということで、ここまで本格的な形をしていなかった。
――本気で作るなんてなぁ。
浮遊バイクの件がひと段落ついたら、もう新しいモノを作っている。何か作るのが好きなのだろう。
以前、浮遊ボートの話をしたことがあるが、部品工房で見かけた人工飛行石で、それを形にしてしまった。
「そもそも、それ人工飛行石だよな? どうしたんだ?」
「作った」
ジンは手を広げた。
「魔石をいくつか融合させて、魔法を刻んだ」
その答えに、ライヤーは天を仰いだ。
「魔術師たちが寄り集まって苦労してこしらえるようなモンを、ひとりで作っちまうとか、ジイさんハンパねえなぁ」
この魔術師、やはり只者ではない。
創作意欲は買うし、それで他に迷惑をかけるわけでもないので止めない。アイテムボックスの容量は無限で、置き場所に困らないから特に。
あって困らないならそれでよし、とソウヤは考えた。どのみち、浮遊バイクの延長線上に小型の飛行する乗り物も考えていたわけだから、銀の翼商会としては商品開発の一環になるとも言える。
「うちの開発部門だな」
「趣味が仕事に役立つっていいよなぁ」
しみじみとライヤーが言うので、ソウヤはポンと彼の腕を殴る仕草をした。
「お前だって、その口だろ。古代文明研究家」
まあな、と肩をすくめるライヤー。ソウヤはジンを見た。
「こいつには帆があるみたいだが、動力は風か?」
「この程度の帆だと、風魔法の補助が必要だがね」
ジンは笑った。
「メインは魔力ジェットを使う予定だ」
「……何だって?」
聞き違いかと思った。ソウヤはもちろん、ライヤーも面食らう。
「えーと、魔力ジェットって、アレか? ドワーフの死んだ兄貴が作ってたっていう新型エンジンの」
「そう、それだ」
「マジかよ……」
言葉を失うライヤー。ジンはソウヤへと視線を向けた。
「君が飛行石を取りに行っている間に、ブルーアと親しくなってね。亡き兄ヴァーアの魔力ジェットエンジンを私が引き継いだ」
「でも爆発したんだろ? 大丈夫なのかよ?」
ライヤーが言えば、ジンも悩ましげな顔になった。
「うむ、あのままの設計だとよろしくないだろうね。そこを改善しないといけないから、しばらくは補助で我慢するしかないだろう」
「補助って?」
「これだ」
ジンがボートからオールのような板を見せた。
「風の魔法が発動するように文字を刻んだもので、本来はこれで姿勢制御などに使おうと思っていたんだが――」
風の噴射魔法に推進力があるので、低速ながら進むのにも使えるという。本当はブレーキだったり、旋回用に使うつもりだったようだが。
ライヤーが問うた。
「魔力ジェットのほうは、改善の見当がついているのかい?」
「まあ、ここからだな」
ジンは顎髭を撫でる。
「なにぶん、考え方は理解しているが、構造や技術が私は追いついていないからね。ぼちぼちやっていくさ」
「うーん、おれとしちゃあ、使えるなら早く知りたいんだがな」
ライヤーが頭をかけば、ソウヤは口を開いた。
「なんだ、急ぐ理由でもあるのか?」
「いや、魔力ジェットって、今ある飛空艇より速くなるエンジンだろ? 危なくて使えねえってんなら諦めるが、もし使えるなら、修理中の飛空艇に載せたいじゃん」
目を輝かせるライヤー。
「世界初の魔力ジェットエンジンを搭載した最速の飛空艇! どうだ、かっこよくね?」
「なるほどなー」
ソウヤは納得した。――うん、格好いい。
ジンも頷いた。
「魔力ジェットが完成すれば、最速の称号は間違いないだろう」
「だろ? となると、どうするべきか。修理も進めたいが、魔力ジェットがまだ形になってないというなら……」
「魔力ジェットの参考になるものならあるだろ」
ソウヤの言葉に、ライヤーとジンは目を丸くした。
「何だって?」
「だから、魔力ジェットは古代文明の技術であるだろう」
ソウヤは言った。
「サイズは違うが、ライヤー。お前さんの相棒であるフィーアは、背中にジェットパックを積んでただろ?」
「…………あーっ!!!」
思い当たったらしいライヤーは、大声を出した。
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