第172話、バッサンの町に帰還


 夜になる前に、ソウヤたち一行はバッサンの町に到着することができた。


 ただ町の入り口で、浮遊バイクの一団はちょっとした騒ぎに巻き込まれる。白銀の翼の帰還は、ただちに冒険者・商業ギルド双方に伝えられ、ソウヤたちが着く頃には、多くの人が集まっていた。


 冒険者ギルドのエルク、商業ギルドのボルックは、大きな驚きをもって迎え、驚喜した。


「凄い! 凄い! 凄い! 白銀の翼さんで、まさか捕らわれた者たちまで助け出したとは!」


 エリックが声を弾ませる。解放された女性陣が、知人や仲間に囲まれ、その無事を確かめ合う。中には泣き出してしまう子もいて、改めて大変だったのだとソウヤは思った。


「奪われた品や金銀も戻ってくるとは……!」


 ボルックが興奮気味にまくし立てた。


「信じられません! ソウヤさんと銀の翼の方々には深い感謝を。そしてこのお礼は必ず!」

「いえいえ……」


 ソウヤはアイテムボックスから、次々に奪回した品々や物資、金目のものをフロアに積み上げていく。その量に加え、人が多かったことから、ギルドフロアが手狭に感じられる。


「凄い容量のアイテムボックスですね」


 商人からすれば、珍しくはあってもなくはないアイテムボックス。それを見たボルックは感心しきりだった。


「調べて、元の持ち主に」

「心得ています」


 ソウヤはボルックに確認した後、冒険者ギルドのエルクを見た。


「さて、ギルドマスター。月下の盗賊団の連中をそこそこ捕まえたのですが……そいつらをぶち込む牢屋ってあります?」

「盗賊をそこそこ、ですと……?」


 目が点になるエルク。ソウヤは続けた。


「ええ、生け捕りにしました。後処理は、この町の人たちに任せようかと……色々恨みもあるでしょうし。ボスのアロガンテと、他にも幹部連中を拘束してあります」

「なんと!? あのアロガンテを!」


 何度目かわからない驚きが波となって周囲にも広がった。


 ちなみに、ギルドでは犯罪者捕縛依頼などもあるので、地下に小規模ながら牢屋がある。


 だが今回、ソウヤが捕まえてきた盗賊は数十人規模なので、とてもここの施設だけでは全員収容できそうにない。


 そういうわけで、場所を変えることになった。


「町の警備隊に」


 エルクの提案を受けて、ソウヤはミストとガルと共に警備隊の建物へ移動した。


 他のメンバーには、ギルドに残って今回の件の報告の続きを任せた。


 ギルド建物からおおよそ五分ほど歩いて、警備隊本部に到着。状況を説明したのち、アイテムボックスからひとりずつ盗賊を出した。


 盗賊らは、突然見知らぬ場所に出されて混乱した。中には喚いた者もいたが、周囲を取り囲む警備兵や冒険者らを前に、たちまち武器を捨てて降伏した。


 そしてそのまま牢屋へ。ボスであるアロガンテや幹部たちも同様だ。彼らには警備隊のほうでも尋問が待っている。


 今回、引き渡した盗賊は五十七名。これだけの盗賊が一度に捕まったのは、バッサンの町史上初だったという。



  ・  ・  ・



 その後の話をしよう。


 白銀の翼/銀の翼商会の仲間たちは、今回の戦闘の後、各々の自由に行動した。


 ミストは盗賊を相手に暴れられたことで、彼女のいう運動不足が多少解消されたようで機嫌はよかった。


 セイジは、ここ最近の消耗品を回復させつつ、ガルを巻き込んで戦闘技術を高めていた。ゴーレム工場や盗賊討伐の際に、特筆するような戦いができなかったことを気にしているようだった。


 もっとも、ソウヤに言わせれば、周りが化け物過ぎるだけで、セイジが無理に張り合うことはないのだが……。


 ただ本人が自らを高めようとする意識があるので、特にあれこれ言うのは控えた。やる気があるのはいいことだから。


 ソフィアは、ぐったりしていた。魔法で活躍した彼女だが、その分の魔力回復に時間を使っていた。盗賊退治で、人の生き死にを間近に見たから精神的な休養も必要なのだろう。


 ガルは、セイジへ戦闘技術の指導をしつつ、ミストに模擬戦を挑んで自らを鍛えていた。彼も盗賊討伐で思うところがあったのだと思う。ミストが暇を持て余していないのも、このあたりが影響している。


 ジンは、ここ最近の遺跡からのお宝、その回収品の解析をライヤーと進めていた。回収されたものの中には薬らしいものがあったが、その正体を調べるのだ。もし奇跡の回復薬だったりすると嬉しいのだが、モノが何かわからないと使えない。うっかり毒だったら困る。


 その傍ら、ジンは浮遊バイクの量産化に向けた設計をやっていた。今回の騒動で、盗賊から救出した生存者が浮遊バイクや車を目の当たりにした。それはつまり、製造工場計画が加速するに違いないと、ソウヤとジンの意見が一致したためだ。


 ライヤーは、ジンに協力して浮遊バイクに関係する作業を進めていた。自分用のバイク作りを進めつつ、ジンのバイク製造計画を手伝った。


 機械人形のフィーアは、そんな二人の助手をやっていた。少女の外見をしていても機械。パワーは常人のそれと違う。たとえばバイクを持ち上げてと言われれば、片手で軽々とやり遂げてしまう。そんな調子で、ジンとライヤーの作業を黙々と手伝っていた。


 さて、リーダーであるソウヤは、冒険者・商業ギルド双方での会談を進めていた。


 バッサンの町を悩ませていた月下の盗賊団を壊滅させ、一時的とはいえ、南側街道の脅威を大幅に低減させた。


 生存者の救出、奪われた物資の奪回なども合わせて、ギルドを中心にその活躍ぶりを賞賛された。


 もちろん、警備隊からも、盗賊退治にお礼を言われた。


 なお、捕らえた盗賊らの大半は、見せしめの意味も込めて処刑されるとのことだ。盗賊はロープで吊されるというのが、この国では定番だから、ソウヤは口出しはしなかった。


 双方のギルドの出した緊急クエストの達成による報酬――盗賊退治、人質救出などの額は相当なものとなるとのことだった。


「さすがはAランクの冒険者グループ。こんなに胸のすく思いになったのは、久しぶりです!」


 冒険者ギルドのエルクが言えば、商業ギルドのボルックも頷いた。


「銀の翼商会さんには、色々期待させられますね。浮遊バイクの話、町でも広がっていますよ」

「でしょうね」


 助けた女性陣を乗せたから、宣伝効果は抜群だっただろう。


「それで、ですねソウヤさん。町の長が、ぜひ今回のお礼がしたいそうで」


 ボルックが頭を下げた。


「お時間をいただけないでしょうか? おそらく、浮遊バイク製造に関しての話もしたいようですし」


 断る理由はなかった。

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