第173話、バイク談義
ソウヤは、冒険者ギルドのギルドマスターであるエルク、商業ギルドのサブ・マスターのボルックと、町長の館へと向かった。
その途中、ソウヤはボルックに疑問に思ったことを聞いてみた。
「ずっとボルックさんとお会いしているので思ったのですが、バッサンの商業ギルドのギルドマスターとは、そういえばまだお会いしていませんね」
「ギルマスは、いま王都なんですよ」
「なるほど」
お留守だから、サブ・マスターが対応していたのね――ソウヤは納得した。この世界、高速の移動手段は限られているから、出張となればしばらく不在になるのも仕方がない。
「話は変わりますがソウヤさん」
ボルックは言った。
「浮遊バイク、量産化のほうは実際のところどうでしょうか? 以前、案は伺いましたが、できそうですか?」
「材料があって、魔道具を作れる職人がいれば、作るのは可能ですよ」
動力となる魔石と、車体を浮遊させる魔法と、推進させる魔法が発動する呪文を刻めば、あとは適当な外装をでっち上げれば作れる。
「魔石ですか……」
ボルックが顎に手を当て、考える仕草を取る。ソウヤは言った。
「高いスペックを求めないなら、たとえば魔法の触媒とする魔術師用の杖程度の魔石でも充分です」
「ほう、それは――」
「やっぱり値が張るのは、動力となる魔石でしょうからね。外装の素材にこだわらなければ、魔石付きの杖を作るくらいのコストでバイクも作れるんじゃないですか」
「それはいい!」
冒険者ギルドのエルクが笑みを浮かべた。
「魔術師用の杖を買う値段で、浮遊バイクが買えるなら冒険者でも、頑張れば手に入れられますね。まあ、魔石付きの杖は高価な代物ではありますが」
「性能はその分抑えめでしょうがね。徒歩よりは速いでしょうが……」
「速度を重視するなら、魔石もランクの高いものを使うべき、と」
「それ相応のコストがかかるでしょうね」
魔石は比較的、お高い。ボルックは眉をひそめた。
「やはり、魔石の調達が課題になりますね……」
「多少値が張っても、それ以上の値段で売れるなら問題はなくないか?」
エルクが言った。
「そりゃ駆け出し冒険者には厳しいが、比較的稼いでいる上級冒険者や商人たちなら、多少高くても買うだろう」
「そうは言うがな、エルク。ランクの高い魔石は、流通に関して安定供給されているとは言い難い」
「そもそも需要に比べて数が少ない」
「その通りです、ソウヤさん」
ボルックは頷いた。
「ランクの低い魔石なら、少々高いが、これについては何とかなるだろう。冒険者ギルドが、倒したモンスターから出てきた魔石を提供してくれているしな」
うむ、とエルクは首肯した。冒険者たちがギルドに倒したモンスター素材を売っているが、牙や爪、皮などの他に魔石も含まれる。大きさの割に高く売れるから、冒険者たちはこぞって持ち込むのだ。
「この浮遊バイクを何に使うか、ですよね」
ソウヤはボルックを見た。
「いくら金を出してもいいものを買いたいっていう人もいれば、とりあえず、荷物を乗せて徒歩以上の速度が出ればいいって人もいるでしょう。一言で浮遊バイクと言っても、何に使うかは、範囲が広いと思うんですよ」
「確かに」
ボルックとエルクは顔を見合わせた。
「商人としては、脚が速いものを求める者もいれば、荷車にたくさん荷を積んで移動したいと考える者もいるでしょうね」
「冒険者だと……そうだな。速さか、積載量か」
「あるいは足の速いモンスターを追尾したり、戦闘に備えて小回りが効くものかもしれない」
ソウヤは、自分のところのバイクのバリエーションを思い出す。トレーラーを引く用、戦闘用、魔石を載せない魔術師用などなど。
うむ、とボルックは再び考え込む。
「ひとつの型があれば、と思っていたのですが、話を聞くと複数の型を用意したほうがよさそうですね」
「買い手に選択肢があるのはいいな」
エルクは同意したが、ソウヤは難しい顔になる。
「とはいえ、最初からたくさんバリエーションを用意するのも問題だ。浮遊バイクで何ができるのか、それが一般に浸透しないといけないと思います」
「浸透……そうですね」
ボルックは眉間にしわを寄せる。
「馬があればいいという人もいるでしょうし」
「でも、皆、興味はあるんですよ。オレらは行商で色々な場所に行きますが、バイクのことは結構聞かれますからね」
ビビって逃げる人もいたが、旅人を含めて、商人などが関心を持っていたのは間違いなかった。
「オレらが活動するだけで宣伝にはなるでしょう。もしバッサンの町でバイクを作るようになったら、そこで買えるって言えば、手に入れたい人が訪れるでしょうし」
「そうやって浮遊バイクを手に入れた人間が、それぞれの場所で乗るようになれば、どんどん宣伝になりますね!」
浮遊バイクが普及する――バッサンの町に製造工場があれば、国中から購入希望が殺到することになるかもしれない。バッサンの町大勝利!
「貴族や王国の軍にも需要あるでしょうかね?」
エルクが少し不安げに言った。
「馬車がバイクに取って代わるように、たとえば騎兵や騎士が馬からバイクに代わったりとか?」
「……そうなったらヤバくないか……?」
需要に供給が追いつかない。ボルックも顔を青ざめさせたが、ソウヤは首を横に振った。
「たぶん、そこまで大規模な発注はないと思いますよ」
「そうなのですか?」
ホッとしたような、残念そうな、どちらにも見える顔になるボルック。
「騎士は馬をステータスにしていますし、騎兵は馬で戦うことを誇りにしていますから。たぶん、革新的思考の持ち主が変革をもたらさない限りは、軍からの需要はさほどないと思います」
勇者時代に、騎士と騎兵のプライドの高さというか頑固さが身に沁みているソウヤである。バイク? そんなものより私の愛馬を見てくれ! とかいう連中なのだ。
「でも、まったく需要がないわけじゃないですよ。たとえば長距離の伝令とか、戦場で魔術師がやっている偵察をバイクでやるとかね」
魔術師もプライドが高いから、偵察とか使いパシリじみたものを嫌がる。そこを高速バイカーがやるなら、充分需要があると思う。
「それに荷駄とか輸送面でも、そのうち採用されるようになりますよ」
商人がどれだけ馬からバイク式牽引車に乗り換えるかにもよるが、一般人がそれをやれば、軍もそれをやるところも出てくるだろう。補給を商人に頼っているところもあるから。
「それを聞いたら、少し安心しました」
ボルックは相好を崩した。
「バイク事業、これは大当たりしますよ」
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