第171話、後片付けと、救出した捕虜たち
月下の盗賊団のアジトを制圧した。
ソウヤたちは、彼らの根城だった洞窟の拠点内をくまなく捜索する。すると、先の隊商襲撃以前にも捕らえられていた捕虜を発見、救助した。
倉庫にある食料、他物資に、隊商が輸送していた品々などアイテムボックスに回収。宝物庫にあった金銀、魔道具や芸術品など、こちらもすべて集める。
これらは、バッサンの町に戻った後、ギルドに提出して前の持ち主に返却するという形になるだろう。町の人間に任せたいところだが、ここに呼ぶ間に、他の盗賊などに襲撃されるのは勘弁だし、その間見張って待つわけにもいかないのだ。
ガルやミストの捜索でアジト内にいた残党は掃除された。何人か逃げた者がいるようだが、こればかりはこちらの人数を鑑みても仕方ない。
アジトの入り口で待っていたライヤーたちに合流する。
「本当にやっちまったんだな」
ライヤーは、驚きと少々の呆れの混じった顔になる。
「たった数人で盗賊団をひとつ壊滅させちまった!」
「案外やれば、できるもんだな」
ソウヤは少し痛む腕をさすりながら、治癒を試みる。軽い自己回復は、勇者の基本魔法だ。
ジンが腕を組んだ。
「ソウヤとミストは、ヒュドラを倒し、ダンジョンスタンピードを収めた猛者らしいからね」
「魔族と対等以上に戦った」
ガルが頷けば、ソフィアは首を傾ける。
「わたしも最初は眉唾だったんだけどね。ここだとそういうこともあると思うわ。ソウヤなんて、ミスリルタートルの首を叩き落としちゃったのよ!」
「マジかよ……」
ライヤーは首を横に振った。
「下手な傭兵団より強くね?」
「かもな」
ソウヤは視線を転じる。
フィーアが入り口前広場で拳銃型魔法銃を手にひとつずつ持って、周囲を警戒している。近くでは、助け出された隊商の女性たちに、セイジが銀の翼商会特製の野外食セットを提供していた。
捕まっている間に、酷い目にあって、さぞ気落ちしているかと思いきや、半分以上が割と元気そうであった。ワイワイと握り飯を食べたり、スープを飲んだりしている。
「これ、おいしいわね……!!」
「こういう暖かい食事は助かるわ」
「ねえ、ボク? お姉さんと付き合わない?」
「いえ、僕は――」
セイジ君、からかわれるの図。赤面する彼を見て、年長の女性陣が面白がっている。
元気なのはいいことだ、とソウヤは思う。今は何でもいいから盗賊の捕虜にされていただろう記憶が少しでも和らげばいい。
実際、何人かの表情は暗いままだ。このままトラウマになれば、日常生活にも悪影響をもたらす。
とはいえ、死を予感するほどの恐怖や、身近な人が殺されるのを目の当たりにすれば、ショックを受けてしまうのも無理もない話だった。
食事をしたら、早々に町に帰してあげよう――ソウヤは思った。そこへジンが声をかける。
「ソウヤ、このアジトだが、空っぽにしたはいいが、再利用できないように出入り口は塞いだほうがいい」
別の盗賊が、物資を運び込んでアジトに利用する、ということもあるかもしれない。
「爆破でもするかい?」
爆薬はないので、魔法で何とかしてもらうことになるだろうが。
「魔法で岩の壁を作って塞ぐつもりだ」
「よし、それでいこう」
ソウヤの同意を得たジンは、ソフィアを連れて、盗賊団アジトの各出入り口を魔法で閉鎖しはじめた。
老魔術師が岩の壁を生やさせ通路を塞ぐ。それを見たソフィアは、さっそく自分も新たな魔法習得とばかりに覚え、実践した。
これらの作業を二人の魔術師師弟がやっている間に、ソウヤは食事を終えた捕虜だった女性たちに自己紹介を済ませておいた。
白銀の翼リーダーであり、銀の翼商会の長と名乗る。助けられた女性たちは、ソウヤたちに感謝し、口々にお礼を言った。
「おかげで助かりました!」
「盗賊たちに捕まった時は、どうなるかと思いました……。でも救助がとても早くて感謝しています!」
「ありがとう、ソウヤさん!」
隊商の生き残りの商人や冒険者、誘拐された町の女性や旅人など、総勢十七名を保護した。
ジンたちの作業が終わり、ソウヤたちと保護した女性たちはアジト跡を離れ、森の出入り口まで戻る。
行きは盗賊団の待ち伏せ陣地などがあって迎撃があったが、今は敵の姿はなし。比較的直線で森を十数分程度歩けば、外にたどり着けた。
日がかなり傾いていて、時期に夕焼けと、そのあと夜が訪れる。
「さすがに、今からでは町に戻る前に夜になりますね」
隊商の生き残り商人――メラニーという二十代女性が言った。
「ここで野宿ですか?」
「いや、乗り物があるから、それで町に帰るよ。早く家に帰りたいだろう?」
ソウヤはアイテムボックスから、浮遊バイクと車を出す。女性たちは、巨大な乗り物が現れたことに驚いた。アジトで回収していたところを見ていないので、初アイテムボックスだったかもしれない。
しかし心身ともに疲れ果てた女性たちを思えば、荒野の大地を徒歩移動させるのは忍びない。背に腹はかえられないのだ。
――ま、バッサンの町じゃ、浮遊バイクの売り込みの件もあるし、いい宣伝になるかもしれない。
ただでは転ばない。
「えっと、ソウヤさん……?」
メラニーは、これ以上ないほど目を見開き、被牽引車――ヨット型トレーラーを見上げた。
「こ、これ、乗り物なのですか!? 車輪はおろか、馬もないんですがっ!」
「馬はないけどバイクで引っ張るから大丈夫。さあ、乗ってくれ」
車を新しくしたのが間に合ってよかった。ヨット型なので、デッキが使える。乗るだけなら十七人全員を収容できた。
もっとも、彼女たちはかなりおっかなびっくりだったが。
セイジが牽引バイクを運転。ソフィア、ジン、ライヤー、フィーアがトレーラーで女性陣と一緒に乗り、ソウヤ、ミスト、ガルが浮遊バイクで、周囲を固める。
護衛がついて、デッキの上の女性たちは安心したようだった。疲れて座り込む者もいれば、手すりを掴んで声を張り上げている者もいた。
「なんて速いの、これ!?」
「しかもほとんど揺れない。何て乗り心地のよさなのっ!」
「いい……これ欲しい……」
大変、好評のようだった。コメット号を運転するソウヤの耳にまで轟く歓声をよそに、白銀の翼は、バッサンの町への帰途につくのだった。
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