第160話、巨大石像


 未発見遺跡と思われる奥に、鎮座するような石像。胴体に埋め込まれた球体が、ミストの感知していた魔力の正体のようだった。

 ジンが口を開く。


「まるで、脚部のない巨大ロボットかゴーレムのような姿だな」

「……こいつが動くってか?」


 その場合、侵入者を排除とかいって襲ってくるのではないか。ソウヤは口元を引きつらせた。


 ソフィアが、胡散臭そうに石像を見上げる。


「この石像が? 動くって? まさか。足がないのに?」

「足がなくたって浮遊すれば移動できるのではないかな?」


 ジンは指摘した。セイジは首を振る。


「石像が動く……大昔のゴーレムみたいですね」

「動いてないわよ」


 ミストがその石像に近づく。槍を手に、もし石像が動き出しても、すぐに対応できるように注意しながらだ。


「でも魔力を発生させているのは魔石かしら? これはかなり強い魔力を秘めているわ」

「動力源だろうか」


 ジンが睨むが、ソウヤは首をかしげる。


「これ、魔石を取ろうとしたら襲いかかってくるトラップの一種かな」

「可能性はある……」


 ガルが魔石をそれぞれ指さした。


「人間の手は二つ。ひとりでは三つ同時には取れない」

「二人なら……届きそうな足場が狭くて、二人は乗れないか」


 罠と決まったわけではないが、もしそうなら、実に嫌らしい配置をしている。


「目に見える三つすべてを同時に取らないと動きだす?」

「あるいはそれすら罠かもな」


 ジンは楽しそうな顔になる。


「目に見える三つ以外に、実は死角にひとつ隠してあって、三つ同時に取っても動くとか」


 それはとても嫌らしい罠だと、ソウヤは思った。ミストが振り返る。


「で、どうするの? せっかく見つけたんだから、放っておかないわよね?」


 遺跡保護の観点――は、誰の管轄でもない場所には適用されない。ダンジョンなどの危険場所に潜る冒険者には、そこで見つけたお宝を回収しても罪には問われない。もちろん、管理している組織があって、そこで違法と訴えられた場合は、罪に問われて没収されるが……。


 21号遺跡は、モンスター出没遺跡で、現在、どこかが採掘権を持っていない。つまり見つけたものは、見つけた人でどうぞご自由に、である。


「……持って帰るか」


 ソウヤは許可した。この遺跡への入り口を無理やりこじ開けた以上、他の冒険者なりが来ることができるようになっている。彼らがこれを見逃すはずもなく、どうせ他で持っていかれるのなら、先行者特権で回収してしまおう。


 ガルが石像を検分して罠らしいものがないか確認する中、ソウヤはジンと話し込む。


「この遺跡、何だと思う?」

「さて。……見たところ研究施設か、あるいはダンジョンかもしれないね」


 ジンはそう見立てた。


「ダンジョン?」

「ガーディアンがいまも稼働している点。対してこの遺跡内に人骨などの人の形跡がなかった」


 これまで見てきた範囲では人の居住施設はなかった。白骨化した遺体などもなく、また動物などの姿も見ていない。


「古代の研究者がこもっていた研究所か、あるいは魔術師のダンジョンかもしれない」

「地下の秘密研究所ってか……」


 それらしく聞こえて、ソウヤは納得した。だが疑問もある。


「ダンジョンって割には、トラップの類いはなかったな」

「そこだ。私が研究所説も挙げたのは」


 ジンは石像へと視線を向けた。


「自分の家に落とし穴や致死性のトラップを仕込むものはいない。普段から施設内を行き来するなら、そういう罠は自分が引っかかる恐れがあるからね」

「守りは警備員だけで充分、か」

「施設が隠されていたなら、そうそう侵入されることもなかっただろうしな」


 なるほど――ソウヤも石像、正確には宝玉を取ろうとしているガルを見る。


「研究所だとしたら、いったい何を研究していたと思う?」

「さあ。まだここの全部を踏破していないからね。今のところ推測できる材料は、あのガーディアンの製造施設とか、あるいはあの石像が実はゴーレムで、その巨大ゴーレムの開発施設だった……とかかな?」

「……やっぱ宝玉を取ったら動き出すのかな?」

「研究所説を採るなら、逆に取ったら動かなくなると思う」


 ジンは眉を潜めた。


「つまるところ、動くなら、今だろう」


 ガルとミストが、宝玉を石像から外した。……何も起こらなかった。


「拍子抜けだな」

「何も起こらないほうがいいんじゃないか?」


 ジンが意地悪な顔になった。


「お宝を手に入れた瞬間、施設が崩壊するというのは定番だ」

「嫌な定番だ」


 しかし、遺跡が地震に見舞われることもなく、静かだった。


「……ほんと、何も起きないな!」

「そうそう映画やマンガみたいなことは起こらないということだな」

「ソウヤ!」


 ミストが手に入れた宝玉を投げて寄越した。アイテムボックスに入れろ、ということだろう。ガルが回収した分も受け取り、収納する。


「他に見るものなけりゃ、こんな退屈な場所からさっさとおさらばするか!」


 何のイベントもない遺跡に用はない。そう思った矢先に「ソウヤさーん!」とセイジに呼ばれた。


「ここからさらに地下にいけるみたいです!」


 セイジとソフィアがさらに奥を見つけた。長い下り階段である。ソウヤは肩をすくめる。


「さて、どうするよ?」

「せっかくだし、行ってみましょ!」


 ミストが歩き出せば、ジンも続いた。


「探索残しがあるのは、気持ち悪いと思う性質でね」

「……そうですか」


 それならば探索しましょ――ソウヤたち一行は幅の広い石の階段を下っていく。長い階段だ。帰りに登るのは大変だろう。


 到着した先は、陸上競技場を思わす広さの地下フロア。そこにあったものに、思わずソウヤは呟いた。


「研究所だって……?」


 数百体に及ぶ石像が、軍隊のごとく整列していた。


 ――中国にこんなのなかったっけ? 兵馬俑だか何だか。


 あれは人型だったが、こっちはマッシブなゴーレム像で、遥かにガタイがいい。これが本当に石像なら、壮観な眺めなのだが……。

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