第159話、遺跡を探索したらいつの間にか――


 21号遺跡、その地下洞窟を進んでいたソウヤたち一行。先導するミストは、何かを感じ取っているらしい。


 ソウヤは片方の眉を吊り上げた。


「何か強い魔力……? 化け物でもいるのか?」

「ドラゴンではないわね」


 ミストは楽しそうだった。


「でも、強い魔力ね」

「えー、ミスト師匠、ヤバイのとは戦いたくはないわよ!」


 ソフィアが口を尖らせる。しかしミストはこれ以上ないほどご機嫌だった。


「あら、ワタシは戦いたいわ」

「ねえ、ソウヤ、この人こわいー」

「いまさら気づいたのか?」


 ソウヤは冗談めかす。


「ミストお姉さんは、とっても怖いんだぞ」

「あら、ソウヤ。この世でもっとも恐れられていた魔王をぶちのめしたあなた以上に怖いものなんて、この世に存在しないわよ」


 そう言われてしまい、ソウヤが仲間たちを見る。ジンはニコニコと、セイジは苦笑で答えた。


「……行き止まりか」


 ガルが呟いた。先導していたふたりの前に洞窟の岩壁。どうやら袋小路、いや最深に着いたようだ。


 強い魔力とはどこだ?――ソウヤは首をかしげる。


「何もないぞ?」

「まさか。この奥でしょ!」


 ミストが手に魔力をまとわせ、正面の壁に正拳を叩き込んだ。美少女のパンチ程度で、岩が崩れるはずもない……と思うところだが、響くような轟音がして、一同目を丸くした。


 ――パンチの音じゃなかったぞ、今の!


 正面の岩が砕け、奥へと岩塊が吹き飛んだ。何ということか。壁の奥に通路があったのだ。


「まだ続いているようね」


 涼しい顔でミストは、通路へと踏み込む。


 呆然とするセイジ。ソフィアはこめかみを押さえた。


「えーと……。ソウヤじゃないんだからあんなこと、普通はできないわよね。……ジン師匠、あれも魔法ですか?」

「……ああ、魔力をまとわせると同時に、衝撃波を叩き込んだんだ」


 たぶんね、と言うジンに、ソフィアは言った。


「あれが魔法なら、わたしにもできる?」

「挑戦するのは自由だ」


 ジンは、どこか視線を泳がせた。できない、とは言わなかったが、それにしてはいつもの断言するような発言ではない。


 何か都合の悪いことを隠すように、ソウヤの目には映った。


 ――ひょっとして、ミストがドラゴンだってこと、爺さんは気づいてる?


 魔力をまとった衝撃波と言ったが、それだけで強固な岩壁を粉砕するには、もうひとつ足りない。


 おそらく不可能ではないが、今のはミストが上級ドラゴンで、そのパワーも加えたものだろう。真相を知る人間からすれば、ジンのそれは、正解からわざと逸らしたようにも見えた。


「ソウヤ」


 前のガルが、早くと手招きした。どうやらミストはさっさと進んでいるらしい。話し込んで置いていかれるのも馬鹿らしいので、いざ通路へ。


 ジンが照明の魔法を展開し、暗闇を照らす。


「こりゃ遺跡の中だな」


 きっちりと整えられた通路。壁の模様など、明らかに建造物の中だった。割と広くて、武器を振り回すには充分だ。


「これは未発見の遺跡かもしれないな」


 ジンの発言に、セイジは振り返る。


「すると……またお宝とか遺物が見つかる可能性も……」

「充分にあり得るね」


 先を行くミストに追いつこうと速度を上げる。すると前方から魔獣らしき怒号と、次の瞬間悲鳴が聞こえた。


 見れば、ミストが竜爪の槍で敵を倒していた。


「うげ、何こいつ……人間じゃない……?」


 甲冑をまとった騎士が倒れている。だが声は魔獣のそれで、人間とは思えない。


「そもそも、こんな遺跡に人間がいるかよ!」


 ソウヤは斬鉄を手にミストに追いつく。動かない騎士のようなもの。腹に大穴が空いているが、これはミストが突いたせいだろう。ドロドロと流れ出ているのは青黒い液体。この騎士もどきの血だろうか。


 ソウヤはしゃがみ、騎士の兜、そのフェイスガードを上げる。


「うわ……」


 見たことがないしわくちゃ化け物の顔があった。すでに死んでいるようだが、獣人ではなさそうで、亜人のようだがこれといって種族がわからない。


「ひょっとしたら人工生命体かもしれないな」


 ジンが、ソウヤの後ろから覗き込む。


「こいつを知っているか爺さん?」

「確証はないがね。似たような人工の怪物なら何度か見たことがある。差し詰め、この遺跡のガーディアンだろう」


 とりあえず、装備と遺体をアイテムボックスに回収しておく。


 探索は続く。道中に、何度か騎士もどきと遭遇し、これと交戦した。こちらからの呼びかけの答えは威圧の咆哮のみ。どいつもこいつも獣のような叫びをあげて武器を振り回してきた。


 遺跡に侵入したのはこちらだが、黙ってやられる趣味はないので全力迎撃である。


 幸い、ソウヤたちの敵ではなく、打たれ強いところを除けば対処は難しくなかった。斬鉄でぶん殴られたガーディアンは胴体を分断され吹き飛ばされた。


「……僕なら、ちょっと倒しきれないなぁ」


 セイジは苦笑している。


「ソウヤさんやミストさんみたいな力は、普通の人間と同列にしちゃいけないと思います」

「確かに。一般の人間では、一体相手をするだけでも脅威だろうね」


 ジンが静かに同意した。


 さて、迷路のような通路を進む一行。ミストが強い魔力の場所に誘導してくれるので、迷っている感覚はなく、ズンズン先に進んでいる。


 帰り道は大丈夫かな、とソウヤは若干の不安を感じた。


 途中、見かけた小部屋などで拾いものをした。もっとも、大半は劣化によって使い物にならなかったがガラクタが多かったが。

 とはいえ、まったく収穫がなかったわけではなかった。


 そして最深とおぼしき場所、例の強い魔力が感じられるそこへ到着した。


「これは……」


 広い部屋だった。中央に鎮座するように存在するのは、巨大なる像。さながら鎧武者を思わす無骨かつ頑丈そうな外観。人型――しかしよくよく見れば足がなかった。


 奇妙な石像、その胴体には青く輝く宝石のような球体が三つ埋め込まれている。


「こいつが、魔力の発生源ね」


 ミストが相好を崩した。

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