第156話、クレイマンの遺跡とは?


「ここじゃ、時間が止まっていたんだなぁ……」


 祭壇の人物は、死体だった。ただし体は腐っておらず、やつれていることを除けば、生前とほぼ変わっていないようだった。


 翼はないが、天空人だろうか? 物言わぬ骸は答えない。


「旦那、ここの財宝は、バルドラ商会との取引同様、半々で山分けだ!」


 ライヤーは箱に詰まった金貨やその他、金や銀の細工を見ていく。


「もちろん、おれらの取り分から、立て替えてくれた金貨1000枚は出す。いいな?」

「ああ、構わないぞ」


 嗅覚に従った結果、銀の翼商会の立て替えに使ったお金を取り戻して、余りある財宝を手に入れた。


 宝は必ずあると断言し、それを信じた結果は、ここに結実したわけだ。


「よかったな、ライヤー」

「ああ、旦那のおかげだ! 絶対あると信じてたぜ!」


 子供のような無邪気な笑みを浮かべて、金貨の山にダイブするライヤー。いいおっさんが何をやっているんだか――ソウヤは苦笑する。


「一時はどうなるかと思いましたけど」


 セイジが驚きと呆れの混じった顔で、お宝を見やる。


「よかったですね、ソウヤさん。銀の翼商会が潰れるようなことがなくて!」

「お金がなくても、ミスリルはたっぷりあったし、仮に宝がなくても商会が潰れるようなことはなかったぞ」


 考えなしに立て替えた、などと思われるのは心外だから言っておく。



  ・  ・  ・



 さて、お宝を回収。ライヤーは一攫千金を果たし、ソウヤは出費した分を取り戻して、さらなる大金を獲得することに成功した。


「いやぁ旦那のおかげで、財宝を見つけることができた! 感謝だぜ!」

「こうもあっさり見つかるとは思わなかった」


 率直な感想を言うソウヤ。そもそも、例の遮蔽装置の歪みが視界に入らなければ、ライヤーたちや遺跡と関わることなどなかった。


 ほんの少しのズレで、人生がまったく違うものになっていたかもしれない瞬間。ソウヤは身震いした。


 そこでセイジが、ライヤーを見た。


「ライヤーさん、結局のところ12号遺跡は何だったんでしょうか?」

「何って、天空人の遺跡だろ?」


 ライヤーは質問の意図がわからず、怪訝な顔になった。


「神殿内のレリーフ、宝箱やその他の装飾に天空人のそれがあった」

「クレイマンの遺跡、ですか……?」


 セイジの出したそのワードに、ライヤーは一瞬ポカンとした。


「クレイマン? あんたら、クレイマンの遺跡を探しているのか?」

「まあね」


 ソウヤが頷くと、ライヤーは目を丸くする。


「驚いた。いまだにあんな夢物語を信じてる奴がいるなんてな」

「天空人の遺跡を探して発掘するあんたも、同類だと思うぜ?」


 ソウヤがそう返すと、ライヤーは豪快に笑った。


「ハハッ、ちげぇねえ!」

「そもそも、オレは詳しくないんだが、クレイマンの遺跡ってのは実際どんなものなんだ?」


 お姫様から聞いたのは、おとぎ話に出てくる名前くらいで、そもそもソウヤはその話すら知らない。


 空から落ちてきた天空人の遺跡程度の認識で、巷には伝承やらおとぎ話やらが広まっているなら、ちょっと詳しい人に聞けばわかるだろうと思っていた。


 そして、その古代文明にちょっと詳しそうなライヤーに会ったので、ここぞとばかりに聞いてみたのだ。


「いやはや、よくもまあその程度で探そうと思ったな!」


 呆れるライヤーに、ソウヤは反論する。


「実際に遺跡探しをするのは、もう少し先の予定だったんだ。そしたら思いがけず天空人の遺跡にぶつかっちまったんだよ」

「ふうん。ま、それでいきなり当たりを引いちまうんだから、旦那はツイてるな。そういうツキは、お宝探しをする奴にとっちゃ必要な才能だぜ」


 ライヤーが褒めた。


「んで、話を戻そうか。クレイマンってのは、天空人の王の名前だ」


 王様の名前だったか――人の名前のようだったから、有名な人物なのだろうとは思っていた。魔術師かとも思ったが、王だった。


「その昔、一大強国を築いた天空人の王がいてな。そいつが世界中から富をかき集めたんだ。その量は山ができるくらいだったそうな!」


 大げさな身振りで、その大きさを表現するライヤー。心なしか、その表情は夢見る少年のようだった。


「だが王の宝物庫は、宝で溢れた結果、その重みに島が耐えられなくなった。そして地表に宝物庫ごと落ちた……っていうのが、大まかな話だな。クレイマンの宝物庫、もしくはクレイマンの遺跡ってのは、つまりそういうことよ」

「ほー……」


 普通に聴き入ってしまった。ソウヤは、なるほどそれは一攫千金を抱く夢になり得ると思う。


 ライヤーは指を振った。


「で、その本物のクレイマンの遺跡があるなら、こんな12号遺跡の宝物庫なんて目じゃねえ! 島が重みで沈むほどの財宝だぞ! こんなチャチな量のわけがねえ」

「確かに、おとぎ話が本当なら、こんなものじゃないだろうな」


 ソウヤは認めた。少し残念がるセイジに、ライヤーは言った。


「まあ、今のところ、この遺跡には、クレイマンを示すシンボルやレリーフはなかったからな。おとぎ話の財宝が誇大なもので実際は大したことがなかったとしても、ここじゃないのは確かさ。なあ、フィーア?」

「はい、それは間違いないかと」


 話を聞いていたかわからないほど無反応だった少女が、ここで頷いた。


「そうですか」


 セイジは納得したようだった。


 ――クレイマンの遺跡か……。


 ペルラ姫のご要望だったとはいえ、お探しの遺跡はとんでもない財宝が眠る場所かもしれないと、いまさらながらソウヤは実感した。


 そんな遺跡があるなら、皆、血眼になって探しまくりそうなものだが……いや、実際探しまくったが、ここまで見つからなかったのだろう。


 エンネア王国もそうだったに違いない。だが見つからないから、もはや諦め、夢見るお姫様がお戯れに、元勇者にお願いをした――そう考えるとしっくりきた。


 見つけたら報酬を出すと言っていたが、果たして釣り合いが取れる分を払えるのだろうか?


「だが、もしかしたら……」


 ライヤーが、ソウヤに視線を向けた。


「今回の遺跡、遮蔽装置ってモンが神殿とその宝物庫を隠していたのがわかった。もしかしたら、今まで探して見つからなかった場所に、実は遮蔽装置で隠されているだけでクレイマンの遺跡があったかもしれねえっていう可能性が出てきた!」

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