第155話、浮遊神殿遺跡
12号遺跡の神殿跡、そのすぐ上に現れた浮遊物体。真下にいるとただの天井が浮いているようにしか見えないので、一度神殿跡から出て、形を確認する。
先に走ってそれを眺めていたライヤーが、ソウヤに言った。
「すげぇよ、旦那! 神殿だ。こいつは宙を浮いてるぜ!」
――誰が旦那だ。
ソウヤも、ライヤーやセイジの隣に行くと、確かに神殿の上層部と思しき形のそれが浮かんでいた。
高さ自体は二階建ての建物の屋根くらいなので、町から見えるようなものでもない。が、階段などはないので、ちょっとやそっとジャンプして届く高さではない。
「さて、どうやって上に行くか……」
「階段とか隠れていたり?」
セイジは言ったが、ライヤーは首を振った。
「あれくらいなら何とかなるだろう。フィーア、行けるか?」
「行けます」
直後、彼女の背中が音を立てて開き、バックパックじみたものが出てきた。少女の背中が開くという光景に、セイジが絶句する。
まるでSFに出てくるアンドロイドみたいだと、ソウヤは思った。――女性型はガイノイドというのだったか。古代文明時代の人形ってすげぇ。
ジェットパックとかロケットベルト的なバックパックがついたフィーアはライヤーを見たが、そのライヤーは何やら頭を抱えている。
「頭痛ですか?」
「いや、おれは伸びる腕を使うと思ったんだ」
ちら、とソウヤとセイジを見る。
「ほら、二人が驚いてるだろ?」
「伸縮アームも、人を驚かせることに変わりはありませんが……」
――確かに。伸縮アームって、あれだろ。ロケットパンチみたいなやつだろ……。
ソウヤは思ったが黙っていた。ライヤーは言った。
「まあいいや。フィーア、ロープを持って、あの上に乗ってくれ。そこからロープを下ろして、おれらが登れるようにしてくれ」
「承知しました」
次の瞬間、フィーアは背中のパックを噴かして飛び上がった。セイジが目を回しているが、ソウヤは「マジで飛びやがった」と、漫画などで見たような光景に苦笑する。
「あの機械人形は、どこで見つけんだい、ライヤーよ」
「とある古代文明遺跡でな。……旦那は、あんま驚いてないんだな」
「驚いているさ。実際に目にするとな……」
ともあれ、道は開けた。上についたフィーアが、下にロープを垂らし、ソウヤたちはそれで上へと登った。
・ ・ ・
荘厳なる神殿は天井が高く、またいくつか大きな窓があった。外がよく晴れているおかげで、中はとても明るい。
壁面に刻まれたレリーフ。翼を持った人のモチーフが多いそれは、天空人の在りし日の姿を描いたのか。
古代文明がどれくらい過去かは知らないが、大昔という割には案外綺麗だと感じた。
「すげえな、こいつは……」
ライヤーが神殿内部を見上げながら、感嘆の声を漏らした。ソウヤもまた、その雰囲気に自然と背筋が伸びた。
「さすがに生き物の気配はないな」
天空人の遮蔽装置は別空間へとそれを送るので、発動中に例えば鳥などがぶつかることはないし、雨だって通過する。当然、そんな空間に生物が迷い込むということはない。
「だが防衛装置はあるかもしれねえな」
ライヤーが通路の端に見える像を指さした。ガーゴイルじみたバケモノの像だった。
「ゴーレムとかなら、まだ動くかもしれねえ」
「それはあるかもな」
ソウヤは斬鉄を抜く。ライヤーの目には、突然、巨大な鉄剣が現れたように見えた。
「旦那、ひょっとしてアイテムボックス持ち?」
「ひょっとしなくても、アイテムボックスだ」
「旦那は商人だよな?」
「冒険者でもある。あんたもそうだろ?」
学者であり冒険者でもあると名乗ったのだから。
「まあな」
マントの下から、ライヤーは拳銃を出した。
そう、それは拳銃だった。ただし、その昔、海賊などが使っていたような、古風なデザインだったが。
「銃か?」
「ああ、魔法式の古代文明遺産のひとつさ。……知ってるのか旦那?」
「実物を見たのは初めてだ」
魔法式というのが気になった。火薬を使うタイプではないということだろうか。
神殿内を進む。綺麗に成形された石の床は、歪みもなく真っ直ぐだった。壁に仕込まれた照明は、いまは点いていない。
通路を進むと、絢爛豪華な扉がお出迎え。
「いかにも、宝物庫っぽいな」
黄金の扉だ。しかも宝石がいくつか模様のように埋め込まれている。これだけでも、お高く売れそうだ。
「罠はないよな?」
「さて、どうかな」
ライヤーは用心深く扉とその周りを調べていく。
「大丈夫そうだ。だが、鍵がかかってるか!」
押したがビクともしない黄金の扉。もったいないが、ぶっ壊すか――ソウヤは斬鉄を握り込む。
フィーアが口を開いた。
「ライヤー、寝ぼけているのですか?」
「は?」
「その扉、押すのではなく、引くのでは?」
「え? ……あ」
どうやら、フィーアの指摘どおり、引くタイプだったらしく、扉が開いた。
「鍵がかかってなかったな」
部屋の中を覗き込むと、窓がないらしく真っ暗だったが、扉が開いたことで魔法の照明が立て続けに点灯した。
視界が一気に黄金色に満たされる。
「財宝だ! やったぜ!」
ライヤーが声を弾ませた。金銀財宝が部屋に山となっているのが見えた。そしてその中央にある祭壇に、人影があることに気づく。
一瞬、警戒する。そこにいたのは、魔術師を思わすローブをまとう中年男性。がっくりと首が垂れ、祭壇にもたれかかり座っている姿は、さながら死体のようで――
「おいおい、先行者がいたのか? いや……もしかして、こいつ天空人?」
祭壇のそれに銃を向けながら、ライヤーは言った。
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