第154話、ライヤーとフィーア


「いやー、あんたらがいなかったら、今頃どうなっていたか」


 ライヤーは自身の灰色髪をかきながら、子供っぽい笑みを浮かべた。


 12号遺跡、その朽ちた建物の前。レイグらバルドラ商会の者たちは去り、ソウヤたちのみがいる。アイテムボックスから椅子とお茶セットを出して、晴天の下、休憩タイム。


「おれはライヤーってんだ。古代文明研究家であり、一応、冒険者でもある。それでこっちは、フィーア」

「フィーアです」


 コクリと青い髪をショートカットにした少女が頷いた。見た目は十三、四あたりの少女だ。年齢相応の可愛らしい顔をしているが、人形と言われていただけあって無表情である。


 一方のライヤーが、服装こそ上等だが、荒くれ者一歩手前の顔をしているので、ミスマッチな雰囲気が漂う。


「オレはソウヤ。銀の翼商会のリーダーをやってる。こっちは頼れる相棒のセイジ」


 自己紹介を済ませておく。


「何はともあれ助かった! あんがとよ!」


 ライヤーが頭を下げた。ソウヤは、お茶をすすりつつ頷いた。


「まあ、立て替えだから、オレらが支払った金は返してもらうけどな」


 ボランティアではない。人助けは趣味みたいなソウヤでも、自業自得案件の面倒までタダで見るつもりはない。


 実質、バルドラ商会とライヤーの契約を引き継ぎ、彼がバルドラ商会に与えるはずだった見返りが、銀の翼商会に変わっただけなのである。


「ただ、ライヤー、あんたは必ず、この遺跡からお宝が出るって確信しているんだろ?」

「もちろん! それは間違いない」

「どうして間違いないんですか?」


 セイジが問うた。当然の疑問である。ライヤーは自分のバッグから羊皮紙のメモを取り出した。


「この地に、天空人の島が落ちてきたっていう大昔の石版があったんだ。で、色々資料を調べまくった結果、それがこの12号遺跡と呼ばれている場所だってのを突き止めたのさ」

「へえ、天空人」


 ひょっとしてクレイマンの遺跡だったりするのだろうか? ソウヤは思った。セイジは首を傾げる。


「このバッサンの町の近くに遺跡が多いのは、その天空人の島と関係が?」

「ああ、近場の10号、14号遺跡は、天空人のものらしいモンが見つかってる。ま、大したものは出てきてないけどな。だが両者の中間地点にあるのが、この12号遺跡だ!」


 ライヤーは目を輝かせた。


「そして、神殿か宮殿と思われる柱が、実際にこの遺跡で見つかった! 天空人のそうした建物には宝物庫があるってのが、これまでの天空人関係の遺跡でわかってるんだ。つまり――」

「つまり、ここにも天空人のお宝が眠っている可能性が高いってわけか」


 ソウヤは頭上を見上げる。燦々と照りつける太陽。青い空に、例によって、かすかに見える歪み。


「高確率、ほぼ確定だろう」


 ライヤーは断言した。


「バルドラ商会の連中にはそう言ったんだが……痺れを切らしちまって、あのザマさ」

「ふうん。それで実際のとこ、どうなんだ? 宝物庫とやらは見つかりそうか?」

「……たぶん、もうちょっとだと思うんだが」


 ライヤーが眉間にしわを寄せた。


「地下を掘り進めていたが、建物の中なのは間違いないが、まだお宝は出ていない」


 彼は別の羊皮紙をとって、ソウヤに見せた。


「あんたが今後のスポンサーになるから見せる。これが、今のところわかっている遺跡の中の図だ」


 地下三階層ほど。一番上に、神殿を支えていただろう石柱があるフロア。その神殿敷地内の下を掘り進めていたようだが、通路と小部屋がいくつかしか見つかっていないようだった。


 覗き込んだセイジが口を開いた。


「すでに財宝は持ち出されているとか……?」

「バルドラ商会の連中が? いや、それはねえな。見つかったらどの道、連中に入るわけで、おれらに黙って持ち出す理由はねえ」

「そうじゃなくて、発掘前――つまり、その天空人の島が落ちた直後に当時の人間に持ち出された可能性です」

「……それは、うん」


 ライヤーは肩を落とした。


「その可能性は低いが、まったくないとは言いきれん」


 微妙な空気が流れる。それをよそに、ソウヤは図と遺跡の位置関係を見比べる。図を回して、位置を――


「何やってるんだ、ソウヤ?」


 疑問を向けるライヤー。ソウヤは立ち上がり、図を頼りに歩き出す。石柱の中心に向かうと、その頭上に例の歪みがあった。


「アレが見えるか?」

「何が?」


 立ち止まり、見上げるソウヤに、ライヤーやセイジ、フィーアも目で追う。


「……何かあるのか?」


 ライヤーには見えないらしい。沈黙を守っていたフィーアが口を開いた。


「不自然な魔力の流れを検知」

「何だと!?」

「何かありますね」


 淡々というフィーアに、ライヤーは目を剥き、必死にそれを探す。


「セイジ、見えるか?」

「すいません、僕にはよくわからないです……」


 うーん、どういうことだろう――ソウヤは眉をひそめ、ふと、自分が天空人絡みの品を持っていることを思い出した。


「遮蔽装置だ!」


 突然、叫んだソウヤに、ライヤーとセイジがビクリとする。


「遮蔽装置……? なんだそりゃ」

「天空人の技術でな。物体の周りを特殊な魔法の壁を使って覆うんだよ」


 勇者時代に聞いた話では、天空人が浮遊する島や飛空艇を隠すことに使っていた。


「何でそんなことを知っているんだよ、ソウヤ!?」

「オレも飛空艇を持っていたからな」


 勇者の時、魔王を討伐する旅で乗り回した飛空艇は、天空人の遺産だった。当然、その遮蔽装置も搭載されていて、その起動のためのキーを保持する者には遮蔽が、不自然な歪みとして見えるようになっていたのだ。


 そして、かつての飛空艇は魔王との戦いで撃墜されたが、起動キーはまだソウヤは持っていた。


「ちなみに、この遮蔽を解除する方法は、専用のキーを使うんだが……」


 ソウヤは手頃な石ころを拾った。


「キーがない場合でも、あの歪みに強い衝撃を与えると!」


 ビュンと、勇者パワー全開の投石が歪みに命中した。すると、それまで空を映し出していたそれが消え、巨大な物体が姿を現した。


「こうして、遮蔽が解除されてしまう裏技があるのさ」

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