第148話、街道と盗賊
バッサン冒険者ギルドで、ソウヤは冒険者ギルドのエルク、商業ギルドのボルックと会談中。机を挟んで、お茶をしながらのお話である。
商業ギルドから商人登録しないかと声をかけられた。これまで町での商売は避けていたソウヤだが、許可証が向こうからやってくるのなら乗らない手はない。
「いいんですか? うちらは、ちょっと特殊ですよ?」
「そうでしょうね」
ボルックは見た目の厳つさに反して、滑らかな調子で言った。
「ですが、銀の翼商会さんの扱っている品は、ここでは手に入らない物も少なくないでしょう」
「……なるほど」
醤油かな? あるいはヒュドラなどの希少魔物の素材とか――ソウヤは笑みを貼り付ける。銀の翼商会が、他にはないものと言えば、その辺りだ。
「ここには初めて来たのですが、よくご存じだ」
「そりゃあもう、銀の翼商会さんのお噂は兼ね兼ね」
ボルックに続き、エルクも首肯した。
「腕利きの冒険者でもある。両方に通じているソウヤさんは贔屓にしていきたいと考えております」
「バッサンの町では、冒険者と商人はその仕事において密接に関係しています」
商人は運び、その護衛に冒険者が雇われる。遺跡発掘や調査、回収された希少な品の売買、輸送、その護衛などなど。
――うちは、どっちも自前でできるからな……。
だから片方にではなく、双方がこちらと関係を結んでおきたい、ということなのだろう。どちらかに加担すれば、もう片方が損をする。両者が有効な関係を維持したいなら、独占ではなく分け合おうというのが、バッサンの町の双方のギルドの考えだろう。
「Aランクの魔獣さえ退けるソウヤさんたちの力は、この町の多くの人を救うことになるでしょう」
「そして銀の翼商会さんがもたらす新しい品は、この町の商業を発展させてくださると確信いたします」
熱意を感じた。
話題は、この町のことへと移る。エルクは真顔で告げた。
「現在、バッサンの町近郊の街道には、多くの盗賊が出没しております」
遺跡からの発掘品は、それだけで高額商品である。そんなお宝を狙って、盗賊が多勢で襲ってくるので、バッサンの町は隊商を編成して、護衛の戦力を集めて対抗している状況だという。
「領主様の軍隊も鎮圧には手こずっています。というより、一度制圧しても、また別の連中がやってきて、元の木阿弥というやつですね」
ボルックが腕を組んで渋い顔をする。ソウヤも唸った。
「そうなんですか。いっそ盗賊を殲滅してやろうかと思ったんですが、それだと一時的なものに過ぎないですね」
盗賊を一掃してしまったら、この町の冒険者の護衛関係の仕事を激減させるのでは、と心配していたのは内緒だ。ギルマスたちの話だと、ソウヤがひとつやふたつの盗賊集団を潰したところで、現地冒険者たちの仕事を奪うことにはならない。
「ええ、一時的ですね」
ボルックは頷いた。
「街道は通行量が多いですから何とかしたいものですが……」
「王国が討伐軍を編成して、街道の盗賊を一掃したことはあるのですが、その時はいなくても、討伐軍が去ってしまうとまた盗賊たちも戻ってくる」
痛し痒し。エルクがため息をついた。
「いまは隊商を組んで移動することで、王都方面の流通は確保されてはいますが……。盗賊たちが力をつけたり、あるいは何らかの事態で拮抗が崩れることがあれば、どうなることか」
重苦しい空気が漂う。ボルックは口を開いた。
「我々にも浮遊バイクがあれば……」
「……ん?」
「銀の翼商会さんは、古代文明の遺産である浮遊バイクを所有していらっしゃいますよね?」
「ええ、まあ」
何だか嫌な予感がしてきた。
「かの勇者も愛用した浮遊バイク……。その速度は、あらゆる馬より速いと聞き及んでおります。我々にもそういう乗り物があれば、盗賊の襲撃を回避することもできるのでは、と」
ボルックは遠くを見る目になった。
「流通には速度も大事だと思うんですよ。物が早く運べれば、これまで鮮度の問題で諦めていた食材なども仕入れることもできるようになる……。輸送の高速化、その鍵は浮遊バイクが握っていると私は思います」
その考えには同意である。ソウヤは、そのスピードの面で他を凌駕している点が、銀の翼商会の強みとなっていると考えている。
「輸送の高速化は、国の発展にも繋がる――それは間違いないでしょう」
ソウヤは、お茶をとり唇を湿らせた。
「より贅沢を言うなら、飛空艇を一般の運送業に落とし込めれば、さらに速度は上がる」
「なっ!」
「飛空艇を!?」
エルクとボルックは驚いた。思いがけない言葉だったのだろう。
「いや、しかし、あれは……」
「空を飛んでの輸送……確かに、速さの面ではこれ以上はない」
ボルックは考え込む。
「理に適っておりますね。しかし現実問題として、飛空艇は国と一部の上流貴族のみのもの。我々では手の出しようが……」
「軍が使用する大型ではない……。ボートサイズなら、どうです?」
ソウヤは、思いつくまま口にした。
「ボートよりもう少し大きくてもいいでしょう。高いところを飛ばなくても、ある程度地上より浮かせられれば地形の影響も受けにくい。考えようによっては、これも浮遊バイクの延長です」
「おー、なるほど」
エルクが首肯したが、ボルックは首を傾げた。
「その通りかもしれませんが、我々はその浮遊バイクすらない状態です。……ソウヤさんの案は面白く、実現するならぜひ熟考したのですが――」
「浮遊バイクを販売する……そう言ったら、どうです?」
ソウヤの発言に、ギルド幹部の二人は驚愕した。
「う、売るのですか!? 浮遊バイクを!?」
「それは、魅力的なお話ですがソウヤさん! 銀の翼商会の要ですよね!?」
「あ、コメット号は売りません。勇者マニアとしては、勇者様の形見を手放せません。こっちが言ったのは、量産した浮遊バイクを一般向けに販売しようというやつでして」
「そっ、それはどういうことですか!? く、詳しく、お話を!」
ボルックが立ち上がり、机に手をついて身を乗り出した。そのせいで彼のお茶がこぼれた。
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