第147話、新しい町へようこそ

 草原がいつしか荒野に変わり、しばらく道なりに進んでいると町が見えてきた。


 バッサンの町――規模で言えば、エイブルの町と大差はない。だが近くには、かつての文明の遺跡がいくつか発掘されていて、バッサンの町はその拠点となっているらしい。


「ほう、なら、珍しい掘り出し物があるかもしれないな」


 ジンが言えば、ミストも相好を崩した。


「それは面白そうね」

「掘り出し物かぁ」


 ソウヤは町の外で浮遊バイクから下りる。


「遺跡がそこそこあるらしいからな。飛空艇に使えるようなものがあるかもな」


 それなりの規模の町だと、露天などで商売するには町にあるだろうギルドに通さないと無理だろう。だから、王都同様、ここでは訪問販売以外はやらない。


 町の入り口の検問所で審査を受ける。カロス大臣からもらった通行証を見せたら、無料で通れた。


「ちゃんと使えたなぁ、これ」

「王国の権威も、一応届いている場所ということだろう」


 ジンはそう評した。


 まずは宿を確保し、一日は観光気分で過ごしつつ、情報収集や買い出しに当たる。掘り出し物探索や、魔族の情報。さらに遺跡が多いという土地柄、クレイマンの遺跡や古代天空人関係の情報も漁れるかもしれない。


 街並みは四角い建物が多く、街道にあるためか大通りは宿が多かった。通行人も町以外から来たような格好の者が少なくない。


 セイジが目を細める。


「旅人や商人が多そうですね」


 馬車の数もそれなりに見受けられる。道幅も広くとられていて、すれ違いも余裕だ。


「ここに来るあいだに、盗賊が出たもんな。街道だし、通行量もそれなりなんだろうな」


 そう口にして、ソウヤは首を捻る。


「しかしその割には、街道で遭わなかったな。そういう馬車とか旅人には」

「移動は集団で移動しているからではないかな?」


 ジンが顎髭をいじる。


「盗賊が出たと聞いたが、規模が大きかったようだし、ここでは少人数での移動は避けているのではないか」

「盗賊の餌食になるから、か」


 その少人数組である銀の翼商会は、魔法で撃退してしまったが。なるほど、そういう戦力がある商人ばかりではないということだ。当たり前だが。


 適度によさげな雰囲気の宿で一泊を予約。ソウヤは受付でバッサンの町に冒険者ギルドの話を聞いて、顔を出しておくことにした。


 ミストはベッドでお昼寝したいと宿に残った。面白そうとか言っていたのは何だったのか。


 セイジは食料の買い出しに行く。観光したいらしいソフィアがセイジに同行することになった。


 ジンは牽引車をいじり、ガルは町を観察するという。暗殺者という職業柄か、巡回して土地勘を得ようとしているのだろう。



  ・  ・  ・



 ひとりでバッサンの町の冒険者ギルドへ行く。


 石造りの大きな建物は、エイブルの町の冒険者ギルドの二倍近い敷地面積があるようだ。


「……」


 入り口が二つあった。そして建物の外にいた連中の衣装や装備が、右側入り口と左側入り口で違うことに気づく。


 片や冒険者、片や商人。


「なるほど、冒険者ギルドと商業ギルドが隣接しているのか」


 用があるのは冒険者ギルドのほうなので、荒くれ者っぽい格好をしている連中のいる左側入り口へと向かう。


 地元の冒険者たちは割と日焼けしている印象だが、外見でなめられたら終わりとでも思っているのか、アウトローな見た目が多い。


 ――このうちどれだけが見た目だけのハッタリ野郎だろうか。


 ぼんやりそんなことを考えながら中へ。これまた広いフロアだが、混雑の時間帯ではないようで、ずいぶんと閑散としていた。


 商業ギルドと隣接していると思ったが、どうも中は繋がっているようだった。


 なら入り口がひとつでもいい気がする。だが冒険者と商人で分けるだけの理由があるのだろうとソウヤは考え直した。


 怖い冒険者が入り口で目を光らせていたら、弱小商人が怖くて近づけない、とか。


 冒険者ギルドのクエスト掲示板を眺める。採集系の依頼、モンスター討伐依頼……種類は違えど、やることは他の冒険者ギルドとほぼ同じだった。


 ――護衛系の依頼が多いな……。


 先ほどジンが言っていたように、隊商を組んで移動するので、その護衛を依頼したい、とか、発掘現場の警備、遺跡探索の護衛などなど。


 それらを眺めると、なるほど冒険者ギルドと商業ギルドがセットになっているのも頷けた。


 おそらく緊急依頼が発生したら、お互いのギルドですぐに必要なやりとりをすると共に、人材確保ができるようになっているのだろう。そうでなければ隣接している意味がない。


 ソウヤは受付嬢のもとへ行き、自身のAランク冒険者プレートを見せつつ、初めてきたのでこの近辺や町の話を聞きたいと相談した。


 茶色い髪の素朴な受付嬢は、担当者に声をかけますと言って一度離席する。見た目は普通だが、迷う素振りもなくテキパキ動く様は、安心感があった。見た目、二十そこそこのようだが、しっかりしているように見えた。


「お待たせいたしました、ソウヤ様。奥へどうぞ、ご案内いたします」


 そうやって案内された先は、ギルドマスターの執務室。――……えーと……。


「ようこそ、バッサン冒険者ギルドへ。私がギルドマスターのエルクです。こちらは商業ギルドのサブ・マスターのボルック氏」


 商業ギルドの偉い人まで一緒にいた。


 情報収集のつもりが、ギルドの偉い人たちの元に通されてしまったでござるの巻。


 冒険者ギルドのギルド長のエルクは、四十代くらいの男性。身なりが整っており、貴族か、はたまた有力商人といった姿をしている。


 対して商業ギルドのサブ長であるボルック氏は、こちらも商人風の服装だが、がっちり体躯で、もし喧嘩したら冒険者ギルドのギルマスより強そうな厳つい顔をしていた。


「白銀の翼、そして銀の翼商会のソウヤ殿にお会いできるとは、まことに光栄」


 こちらも四十代とおぼしきボルック氏が、恭しく頭を下げる。


「あー、どうも」


 何とも間の抜けた返事になるソウヤ。貴族でもないし、偉い人間でもないから、こうもきちんと礼を通されると困惑してしまう。


 とはいえ、その後の情報集めは順調だった。ギルドの偉い人たちが、よく話をしてくれたためだ。


 意外だったのは、商業ギルド側からの申し出だった。


「銀の翼商会は行商ですが、よければこの町の商業ギルドに商人登録しませんか?」


 固定の店を構えるなら、本格的なギルド登録もするし、行商のままなら商人登録することで露天販売の許可証と場所についても相談できる、とのことだった。

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