第143話、銀の翼商会のバイクブーム?


 カロス大臣との会談を終えて、アイテムボックスハウスに帰還したソウヤ。仲間たちは、家の前で何やら集まっていた。


「増えてる……」


 浮遊バイクが。


 ジンとセイジが改良型浮遊バイクを作っているのをよそに、ミストとソフィアが新型浮遊バイクを走らせていた。


 素人走行ながら、美少女二人組がそれぞれバイクを楽しそうに乗り回している様に、ソウヤは苦笑するしかなかった。


「爺さん、オレが出かけている間に、バイクが増えているんだが?」

「ああ、お嬢さん方が、バイクを作っているのに興味を持ってね。見ての通り、彼女たちはバイクを運転したかったようだ」

「……そのようだな」


 これまではソウヤがコメット号を主に走らせ、サブでセイジが運転していた。一台しかなく、仕事に使っていた時は何も言わなかったが、本当のところは、彼女たちも乗りたかったようだ。


「えーと、あの二人が乗っているのは一号じゃないな。二号と三号で、いま爺さんたちが作ってるのが四号か?」

「そうなるな。……セイジ君、そこの動力となる魔石を取ってくれ。紫色の大きいやつだ」

「これですね」


 セイジが完全に助手をやっていた。ソウヤは肩をすくめる。


「その魔石、私物だろう? 銀の翼商会のほうから払うぞ」

「いや、魔石に関しては気にしなくていい。その気になればいつでも出せる」

「……はい?」


 いつでも出せる、とは? 聞き違いだろうか。首を傾げるソウヤ。


「でも、あっちの二台にも魔石を使ってるだろう?」

「いや、あの二台は、魔石を積んでいない」


 きっぱりとジンは断言した。


「魔石を使っていない……? ああ、乗り手の魔力で走るやつか」


 別名、バイクの形をした自転車。動かすには魔力を使うわけだが、それが魔石からか乗り手からかは、大した問題ではない。


「あの二人、魔力の量に関しては破格だからね。魔石なしバイクの運用テストにちょうどいいだろう」


 ジンの言葉に、ソウヤは「そうだな」と同意する。


 以前話していたバリエーションを、早速作り上げてしまうあたり、この老魔術師も半端ない。


「で、今、作っているのは?」

「一号をベースに、純粋に性能向上型だな。量産は考えていない、完全に銀の翼商会業務用だ」


 つまり、荷車を牽いて移動するコメット号の代理使用が可能な浮遊バイクということだ。何か速度が必要な自体になった時、四号に荷車を牽かせて、コメット号で単独移動や、その逆もまた可能ということだ。


 ――以前、ソフィアを初めて乗せた時、盗賊と出くわして、そのまま突っ込んだもんな。


 浮遊バイクが二台あれば、荷車は停止から引き返す間に、もう一台で突撃して時間稼ぎとかできた。


 現在組み上げ中の四号バイク(仮)は、一号の楽器ケースのような無骨なものと変わって、だいぶ近未来感のある形になっている。


 ――まあ、コメット号のほうが、まだ格好いいな。


 心の声に留め、ソウヤはジンから説明を受ける。


 コメット号と違い、この四号バイクは、防御用の魔法障壁が展開可能。前方に魔法弾を投射する魔法杖を二つくくりつけていて、戦闘にも使える仕様となっている。


 さらに内蔵魔石のほか、乗り手の魔力を投入することが可能なハイブリッド仕様で、先の防御魔法や攻撃のほか、速度なども強化が可能であるという。


 ――コメット号の上位版?


 さすがに、ソウヤとしては、少々面白くない。


 そんな元勇者をよそに、ジンは話題を変えた。


「新しい荷車の案をまとめてみた」


 そう言って彼が見せてくれたのは、新しい浮遊バイクとそれが牽引する荷車――いや、それは荷車と呼べるものには見えなかった。


「……絵が上手いな」

「ありがとう。で、感想は?」

「何かすげぇ……」


 牽引する浮遊バイクは、大型化していて、見るからに馬力がありそうだ。流麗なコメット号に比べると無骨感マシマシ。速さよりパワーというのが外見からもお察しだった。


「一号が、あんなカクカクしてたのに、ひどい違いだ」

「まだそれを引っ張るか。機能確認用にシンプルにしただけだと言っただろうが」


 苦笑するジン。ソウヤは荷台とはほど遠い代物を見やる。


「帆がないヨットみたいな形してんな」

「帆もマストもないから、風では進まない」


 ジンが冗談めかした。


「五人でも六人でもゆったり過ごせるようにというオーダーだったからね。船でいうところのデッキ部分は、外敵に襲われた時の迎撃にも、貨物輸送、定員以上の人を乗せるにも使える」

「結構、大きいよなこれ?」

「大型馬車よりは大きい」

「デカ過ぎると、通行できない場所も出てくるんじゃね?」

「そりゃあそうだろう。普通の馬車だってそうだ」


 基本は街道を通るから、仮に向かいから馬車が来たら回避する。


「だけど、周りに木があって避けられない場合はどうする?」

「浮かべばいい。この車も、ふだんは浮遊魔法で浮かせているから。横に避けられないなら上に行けばいい」


 ジンは、新しい荷車について説明する。


 浮遊魔法で地表と接していないので、ふだんの走りも地形に影響されない。つまり馬車特有の尻が痛くなるアレはない。浮いているので、地面はおろか水面の上も移動が可能。重力変更の魔法により、平地に設置することもできる。ソウヤのオーダーである、移動店舗的な使い方がしやすいようになっている。


 内部は客室のほか、簡易キッチンを備え、アイテムボックス倉庫などがある。


「ただし、操縦装置はついていない」


 あくまで、浮遊バイクが牽引することで移動する。


「自力移動するためのシステムを組み込むと、スペースを圧迫するからね」

「それでバイクが大型化しているのか」

「いや、それは関係ない」


 あくまで荷車とのバランスの問題だと、ジンは答えた。


 それはともかくとして、ソウヤは今回の案を実現する方向へ決めた。


 ――格好いいからな!


「爺さん、これ、どれくらいで作れる?」

「他業務を無視していいなら、三、四日。ミスト嬢とソフィア嬢のどちらか、あるいは両方がヘルプしてくれるなら、半分くらいに短縮できる」


 案外、早かった。


「必要なのは、魔力だからね」


 それでミストとソフィアという人選なのか。色々な素材を購入したりかき集めるなくても製作できるからの、この製作期間なのだろう。


「爺さんに任せるよ。それと話は変わるが、爺さんに見てもらいたいものがあるんだけどな」


 実は――と、ソウヤはカロス大臣宅での話を、ジンに聞かせた。

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