第141話、伝説の遺跡と晩餐
ペルラ姫によるお願いを聞いたソウヤは言った。
「つまり、遺跡探しですか……」
行商より冒険者、いやガチの冒険家に頼むべき事柄ではある。だが、冒険者『白銀の翼』も兼業している銀の翼商会である。
そしてダンジョンからの拾得物を商品にしている手前、遺跡からの掘り出し物というのは、普段の業務の範疇を逸脱していない。
つまり、まったく的外れな依頼とも言えないのだ。
「他に、このようなことを頼める方がいらっしゃらなくて……」
そう窺うような目を向ける可憐なペルラ姫。
「もちろん、見つけられたら報酬もご用意できます」
「姫殿下が……?」
「いえ、たぶん、王国から」
苦笑するペルラ姫。カロス大臣が頷いた。
「もしクレイマンの遺跡が本当に見つかれば、王国が黙っていません。ペルラ姫が仰る報酬についても、不足なく出すことになるでしょう」
「もちろん、見つからなければ、それはそれで仕方ありません。ただ、ソウヤ様が色々な場所に行かれるのであれば、そのついでに少し調べていただけたら」
仕事のついでに、ちょこちょこっと聞き込みや捜索をすればいいという話だった。
「承知いたしました。お力になれるかはわかりませんが、探してみようと思います」
「ありがとうございます! ソウヤ様!」
桜満開を思わす笑みが、ペルラ姫からこぼれた。男として惹かれるものがあるのを、ソウヤは感じた。
――ああ、単純なるオレ!
それにしても天空人か。そこでふと、ソウヤの頭の中に閃くものがあった。アイテムボックス内に拾いものの飛空艇があるのを思い出す。修理が必要なのだが、そろそろアレに触れてもいいかもしれない。
それにもし遺跡があって、レアな掘り出し物を手に入れることができれば、売り物の充実に繋がる。先の大臣との談話で、遺跡土産を披露できたりするなら、訪問販売に新たな客層の開拓が見込めるかもしれない。
天空人の遺跡なら、もしかしたらソウヤが探している、復活薬とか貴重な治癒アイテムがある可能性もある。そこそこ力を入れて探してみるのも手だろう。
話し込んでいるうちに、窓の外が暗くなってきた。
カロス大臣は言った。
「姫、本日は外泊のご許可はお取りになりましたでしょうか? なければ、そろそろ――」
「あら、もうそんなお時間なのですね。急に押しかけてごめんなさい、大臣。またお顔を見れてよかったですわ、ソウヤ様」
元々、ソウヤと話をしたくてやってきたというペルラ姫である。どうやら外泊の許可は取っていなかったようだが、それはそれで幸い。ソウヤまで付き合わされて、大臣宅に泊まるなんてことにならずに済んだ。
「また、お会いしたいですわ、ソウヤ様。わたくしからの面会状を出しておくので、お城にも遊びにきてください」
などと招待されるソウヤ。
「必ず」
そう答えたものの、王城に頻繁に出向くことはないだろう。社交辞令である。
大臣宅からお暇しようと立ち上がるペルラ姫、そしてソウヤ。王女を見送りするべく席を立ったカロス大臣は、ソウヤに顔を向けた。
「ソウヤ殿、このあと例の件ですが――」
例の? 一瞬、何のことかわからずキョトンとなるソウヤ。大臣との話で何か、やり残しでもあったかと記憶を掘り返し、ひとつの結論に達した。
「あー、そうでした。醤油の件でしたね」
姫様の来訪で、話が途中になっていた。新しい調味料「醤油」を使った料理と、そのレクチャーを約束していたのだが……そこでペルラ姫が反応した。
「ショーユとは……?」
「姫殿下、最近、王都で話題になりつつある、新調味料にございます」
「それは知っています大臣」
ぴしゃりとペルラ姫は言った。
――知ってたの?
意外に思うソウヤに、王女様は顔を向けてきた。
「ソウヤ様は、ショーユをご存じでしたの?」
「それはもう。港町バロールの醤油蔵から仕入れて、この辺りの店に販売しているのは、うちの銀の翼商会ですから」
醤油をバラまいているのは、ソウヤである。これからその醤油の説明を兼ねて、大臣に醤油から作ったタレを使って焼き肉をご馳走する予定だった。
「ズルいです、大臣! 見損ないました!」
ペルラ姫が胸の前で手を合わせ、カロスを非難した。
「ええっ!?」
「わたくしも、そのショーユを使ったタレを味わってみたいです! これから晩餐なら、わたくしもご相伴に与ります! よろしいですね、ソウヤ様!?」
このお姫様、大臣の連れとして、焼き肉をお食べになられるそうである。ペルラ姫が怒ったように顔を真っ赤にしつつ、少々拗ねているのは可愛らしいと、ソウヤは思った。
もちろん、断れるはずもない。
「王城のほうで問題なければ、構いませんが……」
そう答えたソウヤだが、当然、姫は自分の連れから王城宛てに伝令を走らせた。今日は夕食は大臣宅で摂ります、という旨で。
「では決まりです。晩餐は、ソウヤ様とカロス大臣とご一緒させていただきます!」
さて、これはとんでもないことになった。
王族と一緒に食事……というより、王族に料理を提供しなければならなくなったことがである。
あまり凝った物は作れないから、手軽な焼き肉と銀の翼商会特製スープ辺りで済ませようと思っていたのだが……。
もし、ここで姫様が食あたりにでもなれば、間違いなくソウヤの首が物理的に飛ぶ。
失敗すれば命がない。大ピンチである。
……だが、逆に成功すれば、醤油とその派生のタレを、王族にアピールすることができる。
ペルラ姫のお気に入りともなれば、王国がタルボット醤油蔵を保護しようとするかもしれない。まだスタートしたばかりの醤油蔵が、醤油の増産と共に事業拡大も……。
それを仕入れる銀の翼商会の利にも繋がる。
ソウヤは、チラリとカロス大臣を見やる。彼も急な王族を交えての晩餐に、心なしか冷や汗をかいているようだが、観念したように頷いた。
そんなわけで、ソウヤは十八番である焼き肉を、お姫様に振る舞うことになった。
ただ、やり方については、こちらの自由にさせてもらう。
王族や貴族のルール、マナーは知らないし、それを今知ったところで、上手くできなければ意味がない。
ソウヤは、できないことは無理にやらない主義なのだ。
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