第135話、定員オーバーの問題
王都を目指す銀の翼商会。道中、すれ違う旅人に呼び止められ、軽食や飲料水を販売するのが、割と普通になってきていた。
浮遊バイクを使った行商という存在が、定着してきたとみていい。
「都市で商売はしないのかね?」
新参のジンが、そんなことを聞いてきた。
「うちは外でしか売らないよ」
ソウヤは答えた。
「町ではよそ者だからな。その街ごとのギルドに入ると、それぞれに会費がかかっちまうし、商売する場所とか相談しなきゃいけない」
場所代も取られるし、それでいい場所が使えるとも限らない。個別に訪問販売するか、町のギルドと関係ないところで商売したほうが、ソウヤたちには合っている。
「それで、爺さんは何をやってるんだ?」
「魔法カードだ」
ジンは、魔法カード――その無地のものを見せた。
「セイジから聞いたのだが、自分で魔法を作れるというじゃないか。こういうのに、私は目がなくてね」
そのセイジも、ニッコリである。以前、ソフィアが大量に生産した無地カードを、色々試しているらしい。
魔法文字が使える人材がここにいた。
ソフィアが普通に魔法が使えるようになったので、彼女にとっての魔法カードの重要性は下がった。だがセイジやガルには需要があるので、この研究は無駄にはならない。
「なあ、爺さん。ちょっと疑問なんだけどさ」
「何だい?」
「魔法ってさ、訓練すれば、誰でも使えるものなのか?」
「君も魔法に興味が出たのかい、ソウヤ君?」
ジンは片方の眉を吊り上げる。ソウヤは首を横に振った。
「あ、オレはいちおう魔法使えるから、いいんだ」
「え、ソウヤさん、魔法が使えたんですか!?」
セイジに驚かれた。
「おいおい、俺はこれでも一応、勇者なんだぞ」
「へぇ、勇者ね」
ジンが腕を組んだ。――また、やっちまった。
うっかりが癖になっているソウヤである。同じ異世界に来た人間だから、ついガードが緩くなる。
「ゴホン――魔法はいくつか使えるが、武器のほうが得意なだけさ」
「考え方は人それぞれだ。私はそれでいいと思う」
頷いたジンは、そこで「先の質問の答えだが――」と言った。
「ソフィア嬢がかけられていた呪いや、魔力に触れることができない体質などを除けば、基本的に誰でも魔法は使える。セイジもガルもね。ただし、自身の魔力の制御できる能力に左右されるところはあるから、向き不向きは存在する」
俗に言う、才能にあたる部分である。
「ソフィアは、才能があるほうか?」
「彼女自身の魔力保有量もさることながら、その制御できる範囲が非常に広い。呪いで抑えられていた分、それがなくなって影響範囲が爆増したからね」
「なるほどね」
「聞けば、彼女、家にいた頃から魔法を制御できないが、勉強やトレーニングは欠かしていなかったらしい。その分、理解も早い」
「じゃあ、セイジやガルも魔法は使えるが、いきなりソフィアのようにはいかないってことか」
「ソウヤさん?」
セイジが怪訝な顔になる。ソウヤは言った。
「セイジ、お前、魔法も使える冒険者になりたいって言ってたろ? 魔法カードも便利だが、普通に魔法を使えるように、爺さんに教えてもらったらどうだ?」
ソフィアが来るまでは、ミストから魔法に関しての基礎的な考え方を学んでいたセイジである。魔法カードという便利な道具が、銀の翼商会で盛んに使えるようになって忘れそうになるが、魔法習得は彼自身の夢にも繋がると、ソウヤは思った。
「僕も、いいんですか?」
「ああ、構わんよ。……なんだ、君は遠慮していたのかね?」
かすかに驚いてみせるジンに、セイジは肩をすくめた。
「ソフィアが家のこともあるから、魔法をドンドン習得したいんだろうなって思って。そこで素人の僕がいたら、邪魔しちゃうんじゃないかなって……」
「慎み深いね、君は。よろしい、学ぶ気があるなら、私はいつでも教えてあげよう」
「あ、ありがとうございます!」
セイジはペコリと頭を下げた。こういうところは素直である。
同時に控えめな彼だ。だからこそ、やりたいことを我慢しているのでは、とソウヤは気になったのである。
「それで、ソウヤ君。君も、何か私に用があったのではないかな?」
ジンは、相手の心を見抜くような鋭い視線を向ける。ソウヤは、一枚の羊皮紙を取り出す。
「そう。爺さんが入って、いよいよヤバくなってきたんだ……」
浮遊バイクが引く荷車の定員が。
休憩中は全員外に出たりするが、移動となると後ろに五人はスペース的に限界だった。今もガルがアイテムボックスハウスのほうにいて、おそらく訓練でもしているだろうが、そうやって分けないといけないところまできている。
セイジがポンと手を叩いた。
「そういえば、前にそんなことを言ってましたね、ソウヤさん」
移動する店、キャンピングカーとかヨットみたいなものなど、構想以前の妄想をソウヤが語っていたのを、セイジが思い出した。
その話を聞いて、ジンも理解した。
「なるほど。乗り物を増やすか、荷車を新造しないといけないわけだな」
「そういうことだ。……え? 乗り物を増やす?」
これまでの話に出てこなかった案に、ソウヤは目を丸くした。ジンは、荷車に連結された浮遊バイクを眺めながら、口を開いた。
「騎乗できる動物でもいいし、浮遊バイクを作ってしまうという手もある……」
「浮遊バイクを、作る……?」
――この爺さん、本気で言ってる?
ジンは、難しい顔になって浮遊バイクを凝視する。
「なに、あれと同じものは作れないかもしれないが、要するに人を乗せて浮遊する乗り物であればいいのだろう? この世界の素材でも、材料が揃えば作れるよ」
老魔術師は、悪戯っ子のように笑った。
「これでも伊達に歳はとっていない。私も元は日本人だからね。乗り物についてなら、この世界にないものだって理解しているよ」
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