第127話、惨劇の村
フルカ村。人口五十人ほどの小さな集落だ。森が近く、獣を狩る狩人が多い村である。モンスター肉やその素材を、遠くの町へ売りに行くのが、外界との数少ない接触。
そこへ最近やってくるようになったのがソウヤたち銀の翼商会である。
外の品を持ち込む一方、きちんと解体された肉や素材を取引したり、はたまたアイテムボックスに保存されていたモンスターの解体を依頼したりと、贔屓にしていた集落だ。
今回もいつもの取引で立ち寄ったのだが、ソウヤたちは、ショッキングな光景を目撃した。
集落が全滅していたのだ。
しんと静まり返った村の中。建物はそのままに、しかし所々に小さな破壊や争った跡が見られる。傷を負った警備担当の猟師の死体が、村の中で倒れていた。
「……奇妙な死体だ」
ガルが、村人の死体を検死する。
「外傷はある。だが致命傷はそれではない」
「何か怖いわ……」
ソフィアが顔を引きつらせる。ソウヤもそれを見やり、眉をひそめる。
「……いったい何があったら、こんな表情になるんだ?」
驚きに目を見開いている顔。奇襲でもされた……にしても、この驚愕っぷりは違和感だった。
「ミスト、この村に、生きている人間の反応は?」
「……ないわね」
黒髪美少女が、ドラゴンの感覚で索敵を行うが、生存者はいないようだった。
「他の生き物もね。……死せる村、というところかしら」
「調べよう」
ソウヤは、仲間たちと村を捜索した。どの建物も、何者かが強引に踏み込んだらしく、扉が破壊されていた。そして村人は老若男女問わず、冷たくなっていて、ミストが魔力スキャンをした通り、生きている者は皆無だった。
「何者かに襲われた」
ソウヤが言えば、ガルが頷いた。
「物盗りじゃない」
金目のものをとった形跡がなかった。食料が不自然になくなっているということもなく、完全に、村人が標的だったようだ。
「片田舎の殺人事件ってか……?」
ソウヤは眉をひそめる。村人全員とか、ホラー映画の殺人鬼でも襲来したのか。
「魔族」
ミストがボソリと呟いた。
「最近のこともあるし、こういう不可解な事件には魔族が関わっているんじゃないかしら」
「怪しくはあるな」
「でも――」
セイジは首をかしげた。
「何で、こんな村で村人を皆殺しになんか……」
「さあな。まったくわからん」
ソウヤは腕を組むが、ふと、ソフィアがいないことに気づく。
「彼女は?」
ミストが自身の後ろを親指で指さした。浮遊バイクの荷車に寄りかかっているソフィア。おそらく村人の遺体をたくさん見て、気分が悪くなったのだろう。
ソウヤは勇者時代に、この手の虐殺現場を何度か経験している。胸くそは悪いが、ある程度慣れているが、ソフィアはそうはいかなかっただろう。
――正しい反応だ。
ミストはドラゴンで、人間の死にそれほど気分は影響されない。ガルは職業、暗殺者ゆえに耐性がある。セイジも、冒険者を志し、ポーターをやっていた頃から、割と死が近いところにあって慣れっこだったらしい。
「これは、報告案件だな……」
ソウヤは顎に手を当てる。不可解な集落全滅である。カマルに知らせてやろうと思う。セイジが口を開いた。
「村人の遺体は?」
「埋めてやろう。そのうち、森の獣がやってきそうだ」
死体を荒らされるのもよろしくない。
・ ・ ・
フルカ村を離れ、ソウヤは終始無言だった。
他の面々もお喋りをする気になれず、完全にお通夜モードだった。フルカ村の住人との付き合い自体は、行商で十数回。全員の顔は思い出せないが、村長から聞いていた人数、全員の遺体が確認されたので、全滅してしまったのは確かだった。
いったい誰が、このような惨事を引き起こしたのか?
現場検証をしたガル曰く、犯人は二人組だそうだ。二足歩行で人型。尻尾などは持っていない、もしくは地面などにつかない程度の長さ。
人間か、あるいはそれに近い亜人、そして最近疑わしい魔族だと思われる。
犯人たちは、深夜に一軒ずつ家をまわって住人を殺した。大人も子供も、老人も関係なく。抵抗した者もいたが、刃物で切りつけられたり、体を分断されていた。恐ろしく切れ味のいい刃のついた武器を使っている。鈍器はない。
深夜に扉をぶち破る騒音が聞こえたはずなのに、村人の反応が鈍いところからみて、犯人の片方、もしくは両方が魔法を使えるのではないか、と推測される。消音の魔法とか、あるいは結界を張って音を遮断した可能性がある。
ソウヤの表情は曇る。
何故、村人全員が殺されたのか。考えても動機がわからない。
略奪でもなく、村を焼き払うでもなく、ただそこにいた人だけを殺す。それに何の意味があるのか?
――意味はあるはずだ。何の理由もなく、殺人をするわけがない……。
不可解な事件には、魔族が関わっている――決めつけはよくないが、そうでも思わないとやっていられなかった。
フルカ村を襲った殺人鬼どもに、静かな怒りがこみ上げる。女子供も容赦なく殺した犯人たち。
気がかりなのは、他の集落などが、その殺人鬼に襲われないかどうか。
――もっと手掛かりがほしい。そしてフルカ村の仇をとってやりたい!
ソウヤは、まだ見ぬ殺人鬼たちへの怒りをため込む。
そしてその機会は、意外と早く訪れることになる。
その日、最後の立ち寄りとなるグラ村――夕闇迫る中、村への入り口に差し掛かった時、唐突に荷車でミストが叫んだ。
「ソウヤ、止まって!」
「んん?」
切羽詰まった声に、反射的にブレーキをかけるソウヤ。コメット号は、速度を落とすが若干滑るように進んで、停止寸前に見えない壁に当たった。
「うおっ……ぶねぇ!」
速度落としていなかったら激突して、下手したらバイクは大破。ソウヤとて大怪我をしていたかもしれない。
ミストが知らせてくれなければ、大変な事故になっていた。
「いったい何だ? 結界……?」
見えない壁の向こうにあるグラ村。そこは、いま『襲撃』の真っ最中だった。
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