第119話、ミスリルタートル土産
ミスリルタートルを倒して、ロッシュヴァーグからの依頼に対する充分なミスリル鉱石は回収できた。
ぶっちゃけ、一匹倒すだけで、ドワーフのミスリル鉱山から採掘される量の一年分に軽く匹敵するので、これだけでも遊んで暮らせる金額になる。
だが世間で、ミスリルタートル狩りが流行らないのは、討伐難度の困難さ故だろう。ダンジョン奥深くに、大人数で移動する難しさ。モンスターは他にもいるし、深部のそれは凶悪にして凶暴。平均的な騎士団を投入したとて、多くの犠牲を出した上で目的を果たせなかったという事例は古今少なくなかった。
一発逆転を狙った落ち目貴族の軍勢がそれで全滅した、なんて話もあるくらいである。
ともあれ、ソウヤたちはミスリルタートルを仕留めたわけだが、その素材を一気に放出すると周囲に影響与えまくりなので、必要量だけを出すに留める。しかしこれで当面、ミスリルが欲しいと言われたら即販売できる。
「この中で、ミスリル装備が欲しい人ー!」
ソウヤが聞けば、ミスト以外の三人は挙手した。
「欲しいわ! ミスリルって魔力効率のいい杖が作れるのよね?」
「ミスリル装備は、冒険者の憧れです」
「丈夫で軽いミスリルの武器は、俺好みだ」
三者三様。ソウヤとミストは、ミスリル以上の武器を持っているので、他メンバーの反応を微笑ましく見守る。
「ロッシュに作ってもらおう。ドワーフの名工に武具を作ってもらえるなんて、お前ら幸せものだな」
なお、ミスリルタートルは、ミスリル以外にも鉱物が結晶化していることがあり、たまに宝石が、その甲羅に生えていることがある。しかもダンジョン産で魔力の保有量も高いので、魔道具の触媒などにも利用される。
そしてタートルの甲羅や、その厚い外皮なども防具にするには打ってつけの耐久性を誇っている。繰り返すが、ドラゴン並みの装甲なのだ。
「ワタシとしては、ミスリルタートルのお肉のほうが気になるわ」
ミストは、希少なモンスター肉のほうに御執心。
「ブレないなぁ、お前」
厚い外皮の先にあるタートルの肉は、果たしてどのような味なのか。丸焼き亭に持っていったら、どんな料理されるか楽しみでもある。
・ ・ ・
エイブルの町のダンジョンで、モンスター肉の仕入れと、ミスリルを手に入れたソウヤたち銀の翼商会。
皆で、ミスリルタートルの肉を試食して休息をとる一方、ソウヤは冒険者ギルドに赴いて、ギルマスにミスリルタートルを仕留めたことを報告した。
丸焼き亭にミスリルタートルの肉を卸す時、ギルドが即時排除対象モンスターのことを把握していないと余計な問答に時間を取られるからだ。
「お前たち、あのミスリルタートルを倒してきたのか!?」
予想できたことだが、ガルモーニは勢いよく立ち上がる程度には驚いた。
「何人だ? 何人でミスリルタートルを倒した!」
一瞬、銀の翼商会全員である五人と答えようとしたが、ソウヤは思い留まる。
――そういやオレ以外、何もしてないな。
ソウヤは自分を親指で指し示し、にっこり。ガルモーニはため息をつきつつ、椅子に腰を下ろした。
「ヒュドラとガチで殴り合うお前さんだからな。驚きはしたが、そうなのだろうよ。何かコツはあるのか?」
「飛び上がって、上から頭を叩いたら、首がもげちまった」
「はぁ!? ……何という馬鹿力だ」
「力だけは自慢だからな」
ソウヤは快活である。
「ヒュドラみたいに首がいくつもあって波状攻撃しかけてこなかったから、一発気合い入れて叩けた」
「お前、勇者マニアじゃなくても、本物の勇者とタメを張れるんじゃないか」
「褒めるな褒めるな」
――オレがその勇者だ。
「で、その勇者マニア君。倒したミスリルタートルの素材や鉱物についてだが」
「うちは商人だからな。買いたいっていうものについては、相応の値で売るよ」
独り占めするつもりはない。それに素材として持つだけでなく、ある程度は換金しておきたい。
「あと、丸焼き亭に肉を持っていくつもりだ」
「アニータが喜ぶだろうな」
モンスター肉を扱う店にとって、希少なモンスターの肉は、まさしく垂涎の品だ。
「あー、そうそう、話は変わるが、ちょっと新しいサービスのアイデアがあるんだが、相談に乗ってくれるか?」
ソウヤは、思いつきであるアイテムボックスを利用した預かりサービスについて、ガルモーニに説明した。
ギルマスは「面白いアイデアではあるが現状は難しいな」とコメントした。
まず、ギルドを受け渡しの場にするのはいいが、慈善活動ではないので場所代、預かり料金がかかる。
そしてダンジョン内で預かりを受けるのが、銀の翼商会のみしかできないのもよろしくない。毎日ダンジョンにいるのならともかく、そうでないなら預かりの件数はさほど多くないと予想される。
そうなると、預かり物のスペースやカウンター業務など、費用対効果の面で冒険者ギルドは得をしない。預かり料金が高額になれば、多少は採算が取れるかもしれないが、よほどの希少品でもなければ冒険者たちも利用しづらくなる。何か上手い手を考える必要があるという結論に達した。
アイデア披露の後は、いつもの通り、情報交換と今後の取引についての雑談を交わし、今回は終了。治癒の聖石とか復活アイテムなど、手に入れたものがいたら、銀の翼商会が買い取るから冒険者たちに声をかけておくことを引き続きお願いしておく。
その後、丸焼き亭に立ち寄れば、いつもと違うタイミングでの来訪に驚かれたが、ミスリルタートルの肉という希少肉にアニータ店長は歓喜した。
「うわぁ! ひと通り、しかもどこの部位も新鮮なままあるなんて、銀の翼商会さんは最高よっ!」
「何か旨く食べる調理法があったら教えてください」
ソウヤは高額取り引きに満足しつつ、丸焼き亭を後にした。
さて、今後の予定だが、王都に戻る。ロッシュヴァーグに注文されていたミスリルを買い取ってもらい、ついでに銀の翼商会の面々のために何か武具を作ってもらおう。
どんなものがいいか。ガルはショートソードとかナイフだろう。ソフィアは杖と言っていたが、魔力を増幅する指輪もありだ。
わからないのはセイジだ。霧の谷で回収したミストのお宝から、魔法武器を獲得して使っていたから、そうなると防具になるのだろうか。
武具の他には、エアル魔法学校で呪いの件の調べ物の続きと、シートス教官と魔法カードについて話し合いができるといいと思っている。
その後は荷車の改造もしくは新造案をまとめつつ、他辺境集落の巡回をする。
割とやることがあって、ソウヤはひとり苦笑するのだった。
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